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2024.01.12

【特集】NPO法人ワセダクラブ×ワセダクラブ接骨院

 ラグビー蹴球部の選手をはじめとする早大生アスリートや地域住民の方などが足繁く通う施術所をご存知でしょうか。西武新宿線上井草駅から徒歩2分の場所に位置する、ワセダクラブ接骨院・鍼灸マッサージ院(以下、「ワセダクラブ接骨院」)です。本対談では2015年の設立当初から院長として患者に寄り添い続ける榎戸剛太さん、そして設立に大きく携わった特別非営利活動法人「WASEDA CLUB」(以下、「ワセダクラブ」)の事務局長であり、早大ラグビー蹴球部の元監督である後藤禎和さん(平2社卒=東京・日比谷)のお二人にお話を伺いました。
※この取材は12月7日に行われたものです。

地域のニーズと思いがマッチングした

接骨院設立当初を振り返る後藤さん(写真左)と榎戸さん

――自己紹介をお願いします

榎戸 ワセダクラブ接骨院の本院の方で院長を8年間務めさせていただいています、榎戸剛太です。オープンのときからこちらに携わっています。資格としては鍼灸(しんきゅう・はりきゅう)と柔道整復という骨接ぎや捻挫、打撲などの外傷を見る資格を持っています。いろんなところで経験を積んでここに来たのですが、学生の皆さんの外傷をたくさん見る機会が増えて、日々勉強だと思っています。これからもよろしくお願いします。

後藤 どこまでしよう(笑)。ざっくり言うと、早稲田大学を卒業したあと、ヤマハ発動機(現静岡ブルーレヴス、以下ヤマハ)にラグビーで就職して13年在籍して、辞める間際の2年間に出向期間を作ってもらって早稲田のラグビー部に戻ってきました。ちょうどその時に清宮監督(清宮克幸、平2教卒=大阪・茨田)だったんだけど、その2年間で大学院に通って、卒論のテーマとしてスポーツクラブの運営みたいなものを選んでいるときに、いろいろあってワセダクラブを立ち上げることになって。その大学院を卒業する時にヤマハを退職して、それと同時にワセダクラブを立ち上げて今に至ると。

――ワセダクラブ接骨院が設立された経緯は

後藤 これは自分が言い出しっぺと言うか、自分の考えでやろうということになったんだけど。十数年前からいろんな大学でスポーツ科学部に関連した学部が、言葉を選ばずに言うと乱立してるような印象があって、その言葉尻に食いついて入ってくる人が多かったんじゃないかなと思っていて。入学してからの4年間、多くの人が部に付いて学生トレーナーとして一生懸命勉強して経験を積むんだけど、4年経って社会に出ていくときにそういった経験とはあまり関係ない一般企業に就職するっていうのが大半かなっていう印象があって。学生としては元々そういうことを真剣に勉強したいと思って来ているはずだし、できればせっかく4年間続いた経験や勉強を活かして生きていきたいと思っている奴も多いんじゃないかなっていう勝手な思いがありました。一方で、ワセダクラブでの仕事を始めて地域の人たちと接する中で、例えば、早稲田のラグビー部は専属の学生トレーナーの他にもプロのトレーナーがいて、ケガしたときにそれを治してもらうだけじゃなくて、元の状態あるいは元以上の状態に戻すためのリハビリやトレーニングのプログラムがきっちり提供される環境にあります。ただ、地域の人たちは、ケガを治すことや痛みを緩和することまでは病院や接骨院がやってくれるけど、ケガする前の状態に戻すことや、ケガしてなくても将来的に寝たきりにならないために何をすればいいのか知りたいというニーズをたくさん抱えていて、それを身近に提供してもらえる環境があるようで実はないんだなっていうことに気がつきました。大学で勉強したことを活かして飯を食っていきたいっていう思いと、地域ではそれを提供してもらいたいっていうニーズをマッチングさせれば、ぼろ儲けはできなくても、職業として生きていける環境を作れるんじゃないかなと思いました。そして、このことは自分がワセダクラブを立ち上げたことにもリンクしていて。今でこそラグビーは個人の職業としてのプロが当たり前になっているんだけど、20年前にラグビーを教えることで飯を食っていきたいと思ったら、高校の先生になるという選択肢しか無かった。そうじゃない環境を作ろうということで、(ワセダクラブとしてラグビーの)スクールを立ち上げたら、芝生の環境で良い指導を受けたいっていう子供はたくさんいて、地域のニーズと、それで食っていきたいっていう思いがマッチングして、そういった意味では(ワセダクラブ接骨院の設立と)全く一緒だなっていう思いがありました。これは早稲田の体育各部のためにもなるし、もちろんここだけでやっていても世の中に対する影響力は小さいんだけど、そんな思いがあって始めました。

――榎戸さんが院長として携わることになったきっかけは

榎戸 僕が鍼灸の専門学校に行っていた時の同期に星川っていう人がいて。星川が鍼灸の免許を取った後に早大ラグビー部のトレーナーになったのですが、そのタイミングで後藤さんがワセダクラブ接骨院を立ち上げるということになりました。その時に僕は前の職場を辞めて新しいことやろうと思っていたのですが、星川から「ワセダクラブ接骨院を立ち上げることになったから、考えてくれないか」という連絡が来ました。初めから院長でという話をされて、僕もそんなことをしたことが無くて迷ってはいたのですが、やらせていただくことになりました。

――先ほどの後藤さんの話と重複する部分もあるかと思いますが、この「ワセダクラブ」とはどのような組織なのですか

後藤 これはね、清宮の思いつきなんだよ(笑)。2002年に土のグラウンドの東伏見から天然芝の上井草のグラウンドに移ったということと、当時としては画期的だったスポーツメーカー(アディダスジャパン)との契約関係があってバックアップしてもらえるということが同じタイミングで起こったことが大きくて。多分、清宮の思いとしては芝のグラウンドを使ってラグビースクールをやりたいくらいの思いだったのを、大学の先生やアディダスの人などを巻き込みながら、大学のプロジェクト研究所における研究成果の実践の場として、本気でクラブを立ち上げようということになった。その中で、アディダスの人から「ラグビー部単独ではなく、早稲田大学としての取り組みであれば協力したい」という提案を受けて、いろんなところに声をかけた。いろいろあったけど、発足当初はラグビー、アメフト、サッカー、ボートの4つの競技で始まって、今は16の競技にまで広がった。立ち上げの経緯はそんな感じで、立ち上げから今年で20年目になるんだけど、活動の7、8割は子供向けのスクール活動、一部の種目は大人向けの教室やチーム活動もやってます。

――現在、多くの部活でワセダクラブ出身者の活躍を耳にしますが、早稲田大学の体育各部で活躍する人材を育成するための組織ではないということですね

後藤 推薦制度があまりないのに、そんなの作れるわけがない(笑)。NPO法人として広く一般の子供たちを対象にしているけど、その中で、この活動に参画してくる早大体育各部のモチベーションとしては大きく分けて2つあって。1つは当時のサッカー部やラグビー部のように、スポンサー企業を集めたりする中で大きなお金を動かしたり集めたりして、間接的に部の強化に充てたいという思いがある。ただ、それ以外の大半の部活、当時でいえばボートやフェンシング、武道系などは何でもいいから普及活動をしないと、この国でこの競技をやる人がいなくなってしまうと。やる人間がいなくなれば、必然的に大学でこの競技をする人が減ってしまうから、とにかく何でもいいからやりたいですという思いがほとんどで、今となってはラグビーも同じような状況。ラグビーはワールドカップ等で盛り上がっているようには見えるけど、中学、高校の部活動としては衰退の一途を辿っていて、だからこそそういった活動をしていかないと、ラグビーをやる人間がいなくなってしまう。だから、広義の意味で言えば大学に人材を送り込むというのは確かにその通りではある。

――「日本のスポーツ改革」という大きな目標を掲げるワセダクラブですが、大切にされていることは何か

後藤 この活動を始めてしばらく経って気づいたことというか、気付かされたことがある。ラグビーの活動に関しては元々自分が中心にやっていて、技術指導に加えて自分が早稲田のラグビー部時代に培われた人間育成の部分を子供たちにも伝えたいという思いでやってきたんだけど、他の競技に関しては安全面に対する配慮だけを万全にしてやってくださいということで、何を目的にするかはあまりうるさく言わないでやっていて。その中で、2、3カ月に一度、各競技の担当者と情報共有するんだけど、どの部も同じ思いを抱えていて、武道系は特に極端なことを言ってしまえば勝ち負けはどうでもよくて、教育の部分に重点を置いてやりたいと。やはり、早稲田大学の体育各部が培ってきた伝統がバックボーンにあるから、それぞれの種目のスクールが立ち上がった時からワセダクラブとしてのオリジナリティがあったと。最近は中学・高校の部活動の顧問がいないとか部活動の地域移行とかの問題があるけど、このワセダクラブで積み上げたノウハウを、このような時代だからこそ世の中に発信していきたいという思いがあるね。

人間育成、社会貢献

今後の展望を語る後藤さん

――ワセダクラブの今後の展望は

後藤 立ち上げから20年が経って、人間育成という部分がどの競技種目においても自信を持って世の中に発信できるものに確立しつつある中で、さっき言ったように世の中の状況としては部活動が衰退していると。スポーツから生きる力をというか、自分としてもラグビーやっていなかったらどうなっていたか、道を外していたかもしれないし、そういったスポーツの価値は間違いなくあると思っています。本当に今後もスポーツが衰退してしまうとなると、日本の経済もシュリンクし続けている中で、日本の子供たちの中からマトモな人間が出てくるのか。これは個人的な表現ということになるんだけど(笑)。繰り返しにはなるけど、20年間かけて積み上げたものを世の中に強く発信していくことができれば、ちょっとは日本の将来を変えることにつながるのではないかと思っています。今、ワセダクラブだけで早稲田大学の施設だけを使って活動を続けていると、ものすごく限定的な活動になってしまうから、学校の部活動と連携しながら、日本全国のいろんな場所をターゲットにしていくことで、我々の思いが伝わる人数も範囲も増えるしね。いろんな難しい問題はあるけど、そうすることで社会への貢献というのが実現できるというイメージは勝手に思い描いています。

――重複する部分があるかと思いますが、日本全体におけるスポーツの価値が向上し、スポーツが現在以上の地位を築いているためには何が必要だと考えますか

後藤 大学スポーツという範疇だけで考えても、これは全くの個人的な考えだけど、大学としての使命は何かと言ったら「世の中で役に立つ人間を輩出すること」っていうふうに、それが全てではないけど、一つの要素であるべきだと思っていて。寮とグラウンドだけで4年間の大半を過ごして、その選手がスーパーアスリートとしてプロに行くんだったらまだしも、そんなのは絶対にほんの一部だから。その他の選手は4年間をそのような環境で過ごして世の中に出されても、役に立つわけがない。大学スポーツというカテゴリーの中で日本一を目指すのであれば、そうすることが一番の近道なのは分かるけれど、その辺を社会や大学全体として見直さないと。子供たちのスポーツをする環境が衰退していったり、厳しくすることが悪いことではないけれどハラスメントの問題なんかもあったりして、その中でスポーツをやる意義が何なのかっていうとき、自分はやっぱり「人間育成」に行き着くわけ。大学がそれなりの資源や資金を投入してやるんだったら、やはり役に立つ人間を輩出するということだと思うし、その中で社会における実績をどんどん出していけば、スポーツの評価というのは必然的に上がるか、維持され続けるはずだと思う。

アスリートも、一般の方も

コンディショニングルームはワセダクラブ接骨院ならでは

――この接骨院では、どのような施術が受けられますか

榎戸 コンテンツとしては、はり、美容鍼灸、マッサージなど、巷の接骨院ができることは全部できるのですが、ここの接骨院に関しては、コンディショニングルームというのがあります。ケガをして痛みを取ったら終わりです、ではなくて、そこから先のところ、もうケガをしない体を作っていこう、健康的な生活を送りたいというところを、トレーナーとマンツーマンでエクササイズを通して作り上げていくルームです。例えば、「ゴルフでもっと飛距離を出したい」「慢性の腰痛を改善したい」「もっと早く走れるようになりたい」といった個人の目標に合わせて、ストレッチやトレーニングといったエクササイズメニューを行っていく。こういう姿勢を改善すればこういう痛みが取れるとか、こういうところに筋肉をつけてこういうところを柔らかくすればもっとボール飛ぶよ、みたいなそういう各目標に合わせた体のエクササイズを処方して、根本的なカラダのサポートができるところがワセクラ接骨院ならではの強みですね。

――それはアスリートの方だけではなくて、一般の方も対応されているんですか

榎戸 そうですね。一般の方は、スポーツ愛好家の方や慢性的な腰痛を持っている方、小さな子供など、幅広い層の方々が来院されています。早稲田の体育会の選手でも、新入生で(大学の練習に)ちょっとついていけないとか、練習の強度が上がってケガばかりしていて悩んでる選手とか。うちに来て「こういうケガばかりしているんですけど、この先どうトレーニングしていいか分からないので聞いてください」という例も多いです。「こういうトレーニングをやっていこう」みたいにアドバイスしてケガを防いでいくというのを学生にも対応してやっています。

――これまで見てきた早稲田の選手の中で、印象に残っている方はいますか

榎戸 今年のホットな話で言うと、阪神タイガースに移籍した大竹選手(大竹耕太郎、平30スポ卒=現阪神タイガース)。大竹選手も1、2年生の時によく来ていてケアされていました。阪神に移った途端、今年はすごかったよね。(阪神タイガースが優勝したのは)彼の貢献度はものすごく高かったと思います。そういう風に、ここにきて、いろいろ話をしていた選手が今すごく頑張っているというのを見ると、こちらもエネルギーをもらえています。

――この接骨院にはどのようなスタッフが在籍しているのですか

榎戸 現時点で、私も含めて、早稲田大学の卒業生スタッフは一人もいないのですが、米式蹴球部のアスレチックトレーナーや、スケートやクライミングのナショナルチームについているトレーナーであったり、ラグビー女子日本代表についているトレーナーであったりも在籍しています。あとは長くサッカークラブやバスケとかを見ていた先生もいますし、いろんな畑でやっていた人たちが集まっている治療院ではありますね。皆、いろんな場所でいろんな技術を持ってやってきたんで、結構バラバラな感じもあるかもしれないですけど、それが強みの一つでもあるんですが、一つの症状に対して色々な引き出しがあるというふうに。スポーツマッサージに関しては基本を共通で習得しています。

――そういったスタッフはどのようにして集められたのですか

榎戸 (早大ラグビー蹴球部でトレーナーをしていた)星川が業界に顔が広いので集めてくることがあるのと、今は(ワセダクラブ接骨院が)業界の中でもスポーツに強い治療院みたいな印象があるみたいで、意外と外から「スタッフは募集していますか」みたいな感じで来たりすることもあるので、それで選んでいくということもあります。

多種多様なスタッフ、患者に合った施術

設立当初からの変化を語る榎戸さん

――他の接骨院にはない強みはありますか

榎戸 当院は早大ラグビー蹴球部やトップアスリートのサポートで培われたノウハウを、現役のアスリートはもちろん、地域住民やスポーツ愛好家の皆様にも還元したいという目的で設立されました。そのため、治療だけでなく、リハビリや再発予防、患者の各目標に向けたトレーニングなどといったサービスを経験豊かなスタッフで提供できることは大きな強みです。他の治療院は、一つのやり方は絶対やるみたいな感じで皆同じことをやるということがあって、それも大事なんですけど、うちはいろんな技を持っている人たちがその方(患者)に絶対に合った治療を提供できます。治療院が始まってから、ラグビー部以外の体育各部がたくさん来るようになって、ほとんど全ての競技の選手が来ている感じです。来てない部活動を探すのが難しいくらいだと思うんですけど、各競技ごとに特性があるので、こういう競技はこういうケガが多いというように、症例を多く見ている治療院かなと思います。

――以前お話を伺った時がちょうど設立当初でしたが、約8年間で変化した部分はありますか

榎戸設立当初、後藤さんが監督だった時代に、オープニングスタッフはラグビー部のトレーナーとして現場でサポートさせて頂いていたこともあって、半年くらいはほぼラグビー部の人しか来ていなかったんですけど、今はそこから広がって、来ていない部活がないぐらい、いろいろな選手が来るようになったのが一番変わったところではありますね。

――逆に変わらないところや設立当初から大事にされていることはありますか

榎戸 この治療院は利用される方の幅が広くて、子どもいますし、プロやトップアスリートが来ることもあります。近所のスポーツ愛好家も来ます。当たり前ですが、どの方が来ても同じ高さの目線で見たいなというのを僕自身が一番大事にしているところでもあります。それを他のスタッフにもちゃんと共有してやっていますし、(部員の)在籍が多い部活においても、トップチームからC、D以下のチームの選手が来ても同じ目線で見るということは(設立当初から)変わりません。

――今後、もっとこうしていきたいなどと治療院の展望はありますか

榎戸 お陰様で早稲田大学体育会の選手と多くの関わりがあり、現役のスポーツ科学部の生徒さんなどこれからこのような業界を目指す人達の為にも、ここで臨床的な実習や勉強ができるというような取り組みをやっていきたいなと思っています。たくさんの症例があることは強みなので、これ(強み)を他に還元していきたいというのはすごくあります。

――最後にお二方に聞きたいのですが、今後の早稲田スポーツの未来について期待することや、現役のアスリートの方にメッセージをいただけますか

榎戸 やっぱりうちにも小さい子どもがいるんですけど、そういう子どもたちが見てワクワクするような、夢を持つようなところをいっぱい見せてほしいというのがあります。あとは、(学生スポーツは)本当に時間が限られているので、学生生活の4年間という期間を悔いなく終えられるように頑張ってほしいと思います。

後藤 先代がこれまで築き上げてきたものをそのまま継承するのではなくて、そこを礎にして、早稲田でなければできないことを、今の学生は今の時代に応じて作り上げてほしい。そのために、もちろん勝つことを目指すんだけど、これもちょっと誤解を恐れずに言えば、毎年毎年勝ち続けるなんて、学生スポーツでは異常なわけなので。勝つことがあって、負けることがあって成長することもあるわけ。だから、早稲田で過ごしたからこその人間になってほしいし、そういう人間をどんどん輩出してほしい。競技種目を問わずに、(スポーツを)やっているやつだけじゃなくて、一般学生に向けてもそうなんだけど、そうやって得た経験をもとに世の中に出て、社会のそれぞれの分野でリーダー的な存在になって、世の中を引っ張っていってほしいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 川上璃々、安齋健、谷口花 写真 谷口花)

後藤さん(写真左)と榎戸さん

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