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ア式蹴球部

2021.10.23

ア式のエースの系譜を継ぐ者 FW奥田陽琉に託された思いと覚悟

 「俺が点を決めてヒーローになる」。早慶戦に対し、強い思いを抱く男がいる。

 FW奥田陽琉(スポ2=柏レイソルU18)。ア式のストライカーの系譜を継ぐ者の、燃えたぎる情熱の源に迫った。

パスを要求する奥田

 2019プレミアリーグEAST得点王の輝かしい実績をひっさげ、昨年早大ア式蹴球部に飛び込んだ奥田。しかし、その日々は苦難の連続であった。始まりは練習生期間。初回の新入生練習会からチームに合流していたものの、なかなか入部が認められない。周囲の新入生が続々と正式入部を勝ち取る中で、自身の振る舞いの至らなさに加え、肩の脱臼での離脱も重なり、入部をつかむことが出来ずにいた。そんな奥田の状況を変えたのは、ゴールだ。ゲバ(対内練習試合)に出場し複数得点をマーク。「(苦境に置かれても)落ちない姿が入部の決め手」と指揮官・外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)に言わしめ、6月下旬にようやく正式入部が決まった。

 奥田が入部した直後の7月に、予定より3カ月遅れて開幕した関東大学サッカーリーグ(リーグ戦)。開幕戦にいきなりメンバー入りを果たすと、60分より出場。その期待の高さを伺わせる起用となった。しかし、翌節以降のメンバーに奥田の名前はなかった。開幕戦の翌週に行われた練習試合において、右肩を脱臼。高校時代に一度手術を経験した右肩での症状再発であった。ようやく立った大学サッカーのスタートラインだが、思わぬ負傷・手術に出鼻をくじかれてしまう。7月末から8月にかけて手術を行い、ピッチへの復帰には4カ月を要することとなった。

第72回早慶クラシコでシュートを放つ奥田

 そんな奥田の復帰戦は、願ってもない大舞台となった。12月5日、駒沢陸上競技場で行われた、リーグ戦20節・第72回早慶クラシコのピッチに立つ。大学での初スタメンは、多くの観衆のなかで行われる伝統の一戦であった。「すごく時間が経つのが早くて。めっちゃ緊張していました」。鳴り響く吹奏楽の応援に、こだまする観客の歓声。「楽しかったけど、悔しかった」。チームがビハインドを背負った55分にピッチを退き、不完全燃焼で初の伝統の一戦を終える結果となった。ただ、続く21節、22節にも出場を果たすと、年明けに行われた全国大会 #atarimaeni CUPでは3得点を奪い、ブレイクの予感を感じさせてシーズンを締めくくった。

 迎えた21シーズン、開幕より常にメンバー入りを果たすも、十分な出場時間が得られない。FW加藤拓己(スポ4=山梨学院)の存在だ。「出られないのは当然というか。もちろん負けたくないが、正直負けていた」。4年生となり、一段と存在感を増した絶対的エースストライカーの加藤。J1・清水エスパルス加入が内定している、憧れの男の背中はあまりにも大きかった。しかし、そんな加藤にアクシデントが起こってしまう。

 7月1日の練習でのこと。雨で濡れたピッチに足を取られ、加藤がピッチにうずくまった。「嘘の痛がりであって欲しいと思った」。奥田の思いも虚しく、翌日に加藤は全治6カ月の大ケガと診断された。その夜、加藤は奥田とFW駒沢直哉(スポ1=ツエーゲン金沢U18)を、寮の一室に呼び出した。

駒沢に声をかける奥田

 「あの日は本当に忘れられない」。奥田は当時をこう振り返る。「4年生に最高の景色を見せてくれと言っていて。俺の分まで頼んだぞと。その中でもここでいなくなってしまって申し訳ないとか、ゴリくんが一番苦しいはずなのに謝っていたりして」。憧れの先輩ストライカーが、涙ながらに伝えてくれた思い。それは、奥田の心に強く訴えかけるものであった。「自分がやらなきゃいけない。ゴリくんの背負っていたものを全部背負う」。覚悟を決めることに、そう時間はかからなかった。

 以来、奥田は加藤の思いも胸に、ピッチに立つ。手首に巻かれたテーピングには『ゴリ』『ゴール』『感謝』と書き記されている。「ここ(手首)をふと見て。どんなに苦しい状況でも、試合に出られない人がいる。出たくても出られない人がいると思う」。逆境に立とうとも、自身に全てを託した加藤を思えば、奥田は常に突き動かされるのであろう。

決定期を逸した奥田の手首に宿る加藤の魂

 24日、第73回早慶クラシコが開催される。奥田の目標は極めて明確だ。「俺が点を決めてヒーローになる」。そう強く宣言する。この思いに至ったのは紛れもなく、尊敬してやまない『ゴリ』の存在がある。「ゴリくんも2年の時に早慶戦でMVPになっている。絶対にゴリくん以上の活躍をして、MVPを取って、早稲田を勝たせたい」。一方の加藤も、「今年は奥田がやってくれますよ。絶対に」と期待をのぞかせる。

 明日、ア式の新たなストライカーが、新たなスターが、大学サッカーの聖地・西が丘から誕生する。

 その瞬間を、見逃すな。

(記事、写真 橋口遼太郎、写真 初見香菜子氏、永田悠人)

◆奥田陽琉(おくだ・ひりゅう)

2001年(平13)5月23日生まれ。181センチ、80キロ。柏レイソルU18出身。スポーツ科学部2年。関東大学リーグで、1部通算16試合出場1得点(10月23日現在)。

早慶戦で決めるゴールは誰に1番に見て欲しいか、と奥田選手に問うと「やっぱり親ですね。親に見てもらいたいですし、ゴリくんにも見てもらって。ゴリくんのところに飛びこみたい。ゴリくんがケガをしないように飛び込みたいと思います」と答えてくださりました。特に大切な3人への感謝を、ゴールという最高の形で届けます!