野球部
2019.05.21
不定期掲載『番記者の目』 吉澤一翔
待望の一打!誰もが見ていた吉澤の努力/吉澤一翔
待ちわびた。そう、誰もが待ちわびた一打であった――。法大3番手・新井悠太朗(4年)の高めに浮いたスライダーを逃さず、豪快なフルスイング。打球は風に乗り、吸い込まれるように左翼席へと消えていった。苦手とする変化球を、一発勝負の代打で仕留めてみせた。「まだ試合は終わっていないから」と表情を崩さずベースを回るのは、吉澤一翔(スポ3=大阪桐蔭)。しかし、わずかに笑みがこぼれていたのを番記者は見逃さなかった。
ゆっくりとベースを回る吉澤。表情はどこかうれしそうだ
「みんなもうめちゃくちゃ喜んでくれて。泣きそうになった」――。珍しく喜びを隠さなかった。吉澤の一発にベンチの雰囲気は最高潮。一番にベンチから乗り出した小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)の興奮気味なグータッチが、すべてを物語っていた。「最も期待している部員は誰ですか」。「一番努力しているから、吉澤に頑張ってほしい」。多くの選手が口をそろえて、その名を挙げる。徳武定祐コーチ(昭36商卒=東京・早実)も、そんな吉澤の野球に取り組む『姿勢』を評価してきた。吉澤のたゆまぬ努力をみんなが見てきたのだ。
吉澤を迎える早大ベンチ
昨秋は思うように結果が出なかった。開幕戦の法大1回戦ではスタメン出場したものの、同カード3回戦からは一気にベンチ外に。豪快な本塁打でスタンドを沸かせた春とは一転。悔しいシーズンとなった。年が明けても、ボールにタイミングが合わない。春季オープン戦でもなかなか調子が上向かなかった。そして迎えた東京六大学春季リーグ戦。スタメンの座を高校の後輩・中川卓也(スポ1=大阪桐蔭)に譲った。「このままじゃ終われへん」――。なんとかこの状況を打破しようと奮闘する日々が続いた。徳武コーチには個別指導を志願し、あの手この手を試した。スタンスを狭く。右足を軸にして打つことを意識。さらにバットを出す角度にも気を付けた。そして、その成果がやっと結果に表れた。
結実の本塁打となった
しかし、この一発で完全復活となったわけではない。それは本人も自覚しているであろう。吉澤の潜在能力の高さからすると、ようやく出た一本に過ぎない。ただこの一本は、応援してくれる人の期待を肌身に感じ、結果でしか語れないバットマンとしての役割を再認識した、再出発の一打であった。ここまで決してくじけなかったのは、応援してくれた人がいたから。「その人たちの期待に応えられるように」。貪欲に結果を求めるこの男の決意は、固い。
(記事 江藤華)
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コメント
吉澤一翔(スポ3=大阪桐蔭)
――なかなか出場機会に恵まれませんでした
今年の入りが良くなくて。結果も出ていなかったですし、仕方なかったんですけど、チャンスはいつか来ると思って。それを信じてやってきました。
――腐ってしまったりしたことはなかったのでしょうか
それはないですね。いろんな人が応援してくださっていたので、その人たちの期待に応えられるように頑張るだけでした。
――いろいろな方とは
部の中もそうですし、親もそうですし。本当にいろいろな方が応援してくださっていたので。
――スタンスをかなり狭くされたようですが、この意図は
バッティングのことをいろいろと考えた中で、軸回転ができていないのかなと思って。スタンスを狭くして、しっかりと右足を軸にして打つことを意識していますね。
――今までは軸でしっかり回転して打てなかったのでしょうか
そうですね、どうしても前にスライスしていく感じがあって。
――本塁打の感触はいかがでしたか
ちょっと上がり過ぎたのかなと思ったんですけど、うまく風が持って行ってくれたという感じです。
――打った球は
スライダーです。高めの。
――狙い球だったのでしょうか
狙っていたというわけではないんですけど、詰める意識というか。右中間に強く打てる球を待ちながら、うまく反応できたのかなと思います。
――スタメンを外れる時間が続きました。その間、監督や仲間から言われたことはありますか
「チャンスで使う」とかですね。あんまり何も言われてないですけど、絶対(チャンスは)来るなと思っていました。
――苦しんでる間、大切にされてきたことはありますか
このままじゃ終われへん、と。もう春も終わってしまうので、このままじゃ終われへんとずっと思ってやっていました。
――ベースを回る間は表情を崩していませんでした
まだ試合が終わっていなかったので、試合が終わってから喜ぼうと思っていました。
――ベンチではどのように迎えられましたか
みんなもうめっちゃ喜んでくれていて。そこはもう泣きそうになりましたね(笑)。