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2018.10.25

『パラスポーツ特別連載企画 supported by 日本財団パラリンピックサポートセンター』

第1回/日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)前田有香さん インタビュー

 早スポによるパラスポーツ連載企画がスタート。第1回に登場していただくのは、日本財団パラリンピックサポートセンター(パラサポ)の前田有香さんだ。普段は各競技団体の運営や競技の普及、PRに関しての助成事業を行っている前田さん。パラスポーツを支える立場から感じる魅力について、たっぷりと伺った。

※この取材は9月11日に行われたものです。

パラスポーツに感じる『新しい可能性』

パラスポーツとの出会いは偶然だったとか

――まず初めにパラスポーツに関わろうと思ったきっかけを教えてください

前田 本当に偶然です。私は元々障がい者福祉とかの研究をしていて、障がいのある方が社会と接点をもつところはどこなのかというのが自分の関心事でした。いろいろなところにフィールドワークに行っていたときに、たまたま障がい者スポーツに触れたんです。初めて見たときから福祉的なイメージは持っていなくて、選手がすごく活き活きとプレーしていている姿を見て、楽しそうだなと思ったのがパラスポーツに関わろうと思ったきっかけです。

――前田さんが思う、パラスポーツの魅力とは何でしょうか

前田 もちろんたくさんありますが、新たな可能性に気付かせてくれるというのが一番の魅力かなと思います。

――『新たな可能性』とは具体的にどのようなことでしょうか

前田 単純なイメージですと、パラスポーツは障がい者スポーツと言われることが多いので、リハビリとしてのスポーツというイメージを持たれている方が多いと思うのですが、いろいろな障がいの種類がある中で、私たちの想像を超えるようなパフォーマンスを彼らは見せてくれます。私たちは何かができないと思った時に思考が止まってしまうことが多いと思うんですけど、できないなら他の方法でなんとかやってみるということを、彼らはプレーの中で示してくれているところに新しい可能性を感じています。アイデアの一つとして気付かせてくれるものが多いのではないかなと思います。

――パラスポーツがより普及していくためには何が必要だと思いますか

前田 私たちも日々模索しているところなんですけど、パラスポーツへの世間のイメージが変わるということが大事かなと思っています。パラスポーツに接点がない人たちにとってはつまらないもの、福祉的なものとしてその魅力に気付いてもらう前に諦められてしまうというか、気付こうともしてもらえていない部分があります。なので、パラスポーツは一回は見てみる価値があるものだという魅力をもっとPRしていきたいです。一度会場に足を運んでもらって、選手たちの空気に触れてもらえればその魅力は絶対に伝わると思っているので、パラスポーツに関心を持ってもらうためのハードルを下げるようなPRなどイメージ戦略をしていければなと思います。

――パラサポのキーメッセージは『i enjoy!~楽しむ人は強い!~』ですが、どのような経緯で決まったのですか

前田 それはパラサポができた時にできたものですね。パラリンピックは2012年に開催されたロンドンパラリンピックが史上最高のパラリンピックと呼ばれていて、その時にイギリス国営放送チャンネル4が作ったCM『Meet the Superhumans』が大きな反響を呼びました。パラリンピックに出場するアスリートたちを『超人』と呼んで、すごくかっこいいプロモーションを作って、特にイギリス人選手をクローズアップして、パラリンピアンはスーパーヒューマンであるというイメージを広めていったんです。イギリスはスポーツ文化が根強い国なので、その一環としてパラリンピックも見に行きたいという気持ちが世間的に高まって、チケットが完売したというのがロンドン大会でした。大会自体は成功だったのですが、選手たちを『超人』だと言いすぎてしまった結果、見る側との間に距離ができてしまったという問題が起こりました。なので、東京大会ではそのまま同じようなことを行うのではなく、選手たちはすごい方たちであるというのはもちろんですが、彼らはその競技が好きで、プレーを楽しんでいるからこそ様々な困難を乗り越えて成長しているというのを伝えたくて、『i enjoy!』というメッセージになりました。これは選手だけではなくて、マネージャーやトレーナーといった多くのサポートがなくては競技は成り立ちません。その人たちも各競技のことが本当に好きで、その競技に関わることが楽しいからこそ携わっているということが伝わるようなメッセージになっています。

――前田さんのイチオシの競技は何でしょうか

前田 どの競技もおすすめですが、私はパラサポに就職する前からウィルチェアーラグビーが大好きで、追っかけみたいなことをしていました(笑)。それだけウィルチェアーラグビーが好きだから採用されたんじゃないかっていうくらい大好きです。特定のこの選手が好きっていうのはないんですけど、JAPANの選手はかっこいいので、チームJAPANは好きですね。

――前田さんがパラスポーツと関わっていく中で気をつけていることはありますか

前田 障がい者扱いっていうのはあまりしないですね。始めは少し意識していたかもしれないんですけど、やはり選手たちと接していると自分たちよりすごい人たちなのであまり特別なことはしてないですね。すごい人たちだと思いすぎて配慮すべきことを逆に忘れてしまったりすることもあるくらいです(笑)。何かをやってあげようというふうにはあまり思わないようにはしています。アスリートの人たちは自分にできることと、できないことが明確にあるので、頼まれたら手伝うというようにしています。必要以上に手伝うことは、トレーニングを積んでいる彼らにとってプライドを傷つけてしまうことにもなるかもしれないので気をつけています。

――選手とのコミュニケーションはよく取られるのですか

前田 選手の友達も多いので、試合会場に行くと話はしますし、ご飯に行くこともありますね。選手との距離が近いので、試合を見に行けば選手と写真を撮ったりもできますし、選手もそういったお願いをしてもらえるとすごくうれしいと思うので、ぜひ会場に足を運んでみてほしいです。

――パラスポーツに最初に抱いた印象から、ここが変わったということはありますか

前田 はじめは単純にかっこいいなというだけだったんですけど、今は尊敬の念の方が強いです。最初は大きい大会で選手たちが最高のパフォーマンスをしているというところしか見えていなかったんですけど、選手と知り合ったり、競技団体の方と話をしていくと、見えていない部分で相当な苦労があるというのを、ものすごく感じました。例えば、車いす競技だと都内で体育館を貸してもらえないから、普段の練習のために片道三時間かけて足利まで行って、二時間練習して帰ってくるという、ほぼ競技のために一日使ってしまうという感じなんです。そこまでしてでもやりたい競技なんだなということをものすごく感じました。今は2020年の東京五輪が決まっているので世の中の関心が集まり、パラスポーツがすごいというメディアの取材も増えてきましたが、今まさに活躍している選手というのは、五輪が決まる前から競技をやっていたという方がとても多いんです。全然パラリンピックについては報道されないし、競技をやっていると言ってもすごいとも言われず、むしろ「なにその競技?」と言われてしまうような中で、何時間もかけて練習場を探して、使えるところで練習していくという困難を乗り越えてまで、パラスポーツをやってきたというところをみると、その競技そのものにすごく魅力があるということなんだろうなと思います。それでもなおやりたいと思える部分を深く知っていき、その魅力をもっと伝えていきたいなと思っています。選手自身にすごい逆境を乗り越えられる力があるからそれを人として尊敬する部分はもちろんあるんですけど、パラスポーツそのものが秘めているパワーや魅力といった、始めのころに抱いた単純にかっこいい以上のものがあるんだろうなというのを今は思っていて、かっこいいの中にすごく厚みがあるという印象を持つようになりました。

「パラスポーツのファンで居続けたい」

パラスポーツの魅力を語る際の笑顔が印象的でした

――競技団体の方など、パラスポーツを支える側ならではの熱意というのはどう感じていますか

前田 競技団体の方々は今まで注目度や資金面などで恵まれない環境にいて、選手と同じくそれでもなお続けてこれたのは、熱意でしかないなと思います。外から賞賛されるわけでもないですし、やはり日本は普段からパラスポーツに接する環境がつくれていない中で、パラリンピックでメダルを狙ったり、競技をやっていくというのはすごく大変なことだと思うんです。選手がその競技をやるためには自分たちが頑張らないと、選手が練習すらできないし、パラリンピックに出るなんてもっと難しいことになってしまうので、少しでも知名度を上げて、少しでもいい環境で合宿や遠征に行かせてあげたいという思いで支える側は普段の業務にあたっています。そこは使命感や熱意で皆さん携わっていると思います。

――前田さんが一番やりがいを感じることは何ですか

前田 私自身が普段している仕事は、競技団体の運営をサポートすることなのですが、競技団体の運営がしっかりすることによって大会に多くの観客の方が来てくれたり、ファンが増えたりすると、選手が直接「パラサポありがとう」と言ってくださるので、それがすごいエネルギーになっています。また、体験会などイベントの運営側のスタッフに入ることもあるのですが、そこでは初めてパラスポーツに接し、体験した方が、なんとなくやって帰っていくというよりは、「初めてやったけど、すごく楽しかったです」と言っていただけたりするので、その言葉を聞くとやってきてよかったなと思います。

――具体的にはどんなお仕事をされているのですか

前田 パラサポの事務所には各競技団体のオフィスがあります。普段は助成金を出して、各競技団体のホームページ運営や、競技紹介のパンフレット、競技団体自身が行う体験会などに活用していただいています。またパンフレットを作成するときなどは、より分かりやすさを高めるためのコンサルティングのようなこともしています。

――私たちがパラサポさんとつながるきっかけがインターン活動でお世話になったことでした。他大のスポーツ新聞部も合わせての取り組みですが、この活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか

前田 若い力が必要だと思ったことです。パラスポーツは熱意のある方がこれだけ広めてくださったと思うのですが、20代で運営にかかわっている方が本当に少ないんです。50、60代の方々が30年以上携わっているという状況で、若い世代を受け入れる体制が整っていません。でも発信していくときには固い文章で書いても若い人には刺さらないと思ったので、学生の目線で書いていただき、学生本人に取材していただくことで、若い世代に口コミ的に広がっていくんじゃないかなと思ったのがきっかけです。地道だけど一番効果があるのではないかなと思っています。

――今回の連載はどういったものになったらいいなという希望はありますか

前田 「私はこの競技が好き!」って言ってくれるようになったらいいなと思っています。パラスポーツと一口にいっても多くの競技がありますし、障がいの種類や競技の魅力も違ってきます。自分はこの競技が好きだというものを皆さんに持っていただければうれしいです。

――前田さん自身は今後、パラスポーツとどのように関わっていきたいですか

前田 2020年大会が終わったあとも、私自身はパラサポのスタッフである以前にパラスポーツのファンなので、そこは変わらずファンで居続けたいなと思います。

――最後に、これからパラスポーツにはどのような広がりを見せていってほしいですか

前田 2020年の東京大会が成功したと国際社会に認められるというのが、最低限クリアしなければいけない条件だと思っています。試合会場が満員になって、日本の選手だけでなく、他の国の選手にも観客から声援が送ってもらえるというのが達成したい目標です。そしてそれが一時のお祭りごとで終わらず、「2020年のあの大会があったからこそ変わったよね」と言われるような何かを残せればなと思います。例えば、車椅子に乗った障がいのある方の移動が便利な社会になったり、旅行がしやすくなったりとか、少なくとも障がい者スポーツの存在をみんなが知っていて、その競技をやっていることに対して素直に、かっこいいね、すごいねといった言葉が普通にかけられるような社会になるきっかけを作っていけたらなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 吉田優、涌井統矢、栗林真子)

次回は、早スポ取材班が実際にパラスポーツを体験!そのレポートをお伝えします。