スケート部

2017.12.22

第86回全日本選手権 女子SP 12月21日 東京・武蔵野の森総合スポーツプラザ

無念の全日本終幕、その舞台裏。中塩美悠が見せた『強い笑顔』

 演技を終え、ミックスゾーンに姿を現した中塩美悠(人通3=広島・ノートルダム清心)。左脚甲のケガの状態を問われると、こう絞り出した。「挑んだら痛くなって、また休んで、もう一回やったらまた痛くなって…」。あふれ出しそうになった涙をこらえ、言葉を続けた。時に、取材陣の前で悔しさをあらわにすることもある中塩。だが、この日は違った。悔しい気持ちを必死に抑え、いつも通りに笑ってみせた。それは中塩が、ケガと戦いながらも特別な舞台にたどり着いた、強いスケーターであることの証しだ。

 全日本選手権(全日本)の女子ショートプログラム(SP)。紀平梨花(関大KFSC)がトリプルアクセルを決めるなど若い選手の好演が続き、会場は徐々に熱気を帯びていく。そんな中、第3グループの最終滑走で中塩が登場した。まずは冒頭、ケガの影響で思うような練習のできていなかったトリプルトーループ―トリプルトーループに挑む。朝の公式練習ではきれいに降りていたコンビネーションだが、一つ目がオーバーターンとなり、二つ目は2回転に。その後も緊張は解けない。トリプルサルコー、ダブルアクセルはいずれも着氷が乱れ、全てのジャンプで出来栄え点のマイナスがついてしまった。その他の要素で巻き返すことはできず、本来の実力とは程遠い44.60点。30人中28位に終わり、フリーに駒を進めることはできなかった。

大勢の観客に迎えられ、リンクへ向かった

 今回の全日本には特別な思いがあった。「刑事くんが五輪を目指して頑張っている姿を見て、私が弱音を吐いたらダメだなって」。名前が挙がったのは、平昌五輪男子代表の3枠目を狙う田中刑事(倉敷芸術科学大)。同じコーチの下、同じリンクで練習を続けてきた戦友だ。憧れの舞台を目指すトップスケーターの隣で、何度転んでも立ち上がってきた。五輪代表枠を懸けた争いは男子だけではない。激しい女子代表枠争いの中、基礎点の高いジャンプを持たない中塩が見せたかったのは、「スケーティングや、スケートに対する思い」。結果こそ伴わなかったが、それは間違いなく、共に戦ってきた仲間の、ファンの目に焼き付けられたはずだ。自分のためだけではなく、誰かのための全日本。だからこそ、中塩は胸を張って、『強い笑顔』を見せた。

「私にはこれがあるんだぞ」。苦しみながらも自分のスケートを表現した中塩

 演技を終えてしばらくした頃、リンクから少し離れた場所で、涙を流す中塩の姿があった。悔しくないわけがない。こらえてきた思いがあふれた。この悔しさを、今度は中塩のために滑るスケーターたちが、晴らしてくれるはずだ。そして、SP『Time to Say Goodbye』はラストイヤーの来季も継続することを明言した。最高の笑顔で言う「さようなら、ありがとう」はまた来年。ここから、物語の結末へ向けた、強く、美しき最終章がスタートする。

(記事 川浪康太郎、写真 石黒歌奈恵)

結果

▽女子SP

中塩美悠 28位 44.60点

コメント

中塩美悠(人通3=広島・ノートルダム清心)

――ショートプログラム(SP)を振り返って

練習はしっかりしてきたんですけど、脚のケガの影響でずっと3-3はできていなかったので、そこはすごく不安でした。今までの実力を信じて、ぶっつけ本番でやるしかないという感じで、そこで最初(のジャンプ)でハマらなかったのにびっくりしてしまってどんどん崩れていってしまいました。

――脚のケガの具合はいかがですか

挑んだら痛くなって、また休んで、もう一回やったらまた痛くなって、を繰り返していたので、試合だけ降りたらいいよという感じでやっていたんですけど…。

――朝の公式練習では好調ぶりが目立ちましたが、手応えはいかがでしたか

ずっと練習してきて、自信もあったし、滑りもよくなっていたので、朝は自信満々でできました。でも、緊張ですかね。緊張したんですかね。

――ジャンプの構成については

本当はループを跳ぶ予定だったんですけど、西(西日本選手権)から確実に跳べるようにサルコーにしました。難易度を下げた分、確実に降りなければいけなかったんですけど、それがうまくいかなかったです。でも、構成の難易度を下げるのは嫌ではなかったです。

――今季は五輪イヤーでしたが、どんな思いでここまで来ましたか

チームメイトに(田中)刑事くん(倉敷芸術科学大)がいて、刑事くんが五輪を目指して頑張っている姿を見て、私が弱音を吐いたらダメだなって…。(実際は)吐きまくってたけど(笑)、刑事くんの手前、私みたいな選手が弱気になったらダメだなと思って、頑張って一緒にやってきました。私がどうこうというより、チームメイトが五輪を見据えてやっていたので、そこはいつもの全日本とは違うなと感じていたところです。

――ここまでロヒーン・ワード氏の振り付けを踊ってきて感触は

やっぱり難しいし、ジャンプを入れるのもすごく時間がかかったんですけど、これが最後のSPだし、他の日本人選手とは違う面白い振りもたくさん入っているので、踊っていて楽しいです。

――今大会は若い選手が多く、年齢順だと上から二番目という立ち位置でしたが、なにか意識したことはありましたか

みなさんはジャンプが素晴らしくて、今の採点法だったらジャンプを跳ばないと点が出ないけど、私がそこに対抗していこうと思った時に、年齢が上だということを考慮したところ、スケーティングや、スケートに対する思いが若い選手とは違うところだと思いました。ジャンプで戦えない中で目立とうと思った時に、「私にはこれがあるんだぞ」というのを思いながら滑りました。