野球部

2017.09.20

『番記者の目』 第1回 岡大起

スタメンでも、控えでも――チームのために戦う4年生/岡大起

 当会野球班では『番記者制度』が存在する。一年間の取材活動を通して担当選手を追いかけるのだ。この秋は春から担当選手を見続けてきた番記者が選手個人に焦点を当てた記事を執筆。各カード終了後に掲載していく。題して『番記者の目』。記念すべき第1回は岡大起(社4=東京・早実)。

 大歓声の中、背番号『8』が塁上で飛び跳ねた。喝采を浴びながらベンチに拳を突き出してみせたのは、なかなか日の目を見ることができなかった控えの4年生、岡大起(社4=東京・早実)だった。

 東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)の明大3回戦は延長戦にまでもつれ込んだ。10回裏、1点のビハインド。ベンチ入りメンバーはほぼ使い果たしている。1死二塁、一打同点の好機で代打を託されたのは岡だった。マウンド上に立ちふさがるのは明大の絶対的エース・齊藤大将(4年)。1回戦では完封負けを喫した左腕に、早大打線はこの日も苦しめられていた。万事休すか――。観客の多くが明大の勝利を確信していただろう。

同点打を放ち塁上で大きくガッツポーズをつくった岡

 「自分のペースに持ち込むこと」。好投を続ける齊藤を前に、岡はそれだけを考えて打席に入った。仲間がつくったこの好機を逃してはならない。頭をよぎったのはことしの春季リーグ戦、立大2回戦での打席だ。2死三塁、一打出れば勝ち越しの場面。途中から試合に出場していた岡は、この打席で遊飛に倒れた。直後にチームはサヨナラ負け。「あそこで自分が打っていたら」と、敗戦の責任を感じて唇をかんだ。悔しさを胸に、夏はバットを振り続けた。そして秋、再び回ってきた好機。「あの時を取り戻すのはここだ」――。3球目の甘く入ったスライダーを振り抜き、右前へ弾き返す。スタートを切った二塁走者が一気に本塁へ生還。起死回生の同点適時打となった。

 結果の出ない日々が続いていた。早実高出身の岡は高校時代、当時熊田睦(教4=東京・早実)が率いるチームで春のセンバツに出場し甲子園の土を踏んだ。そして早大野球部に入部。しかし、現実は厳しかった。リーグ戦初出場は3年秋。早慶戦でスタメン入りを果たしたが、最上級生として迎えた今春はスタメンはおろか出場機会さえ限られていた。それでも、自分の出番は必ず来るはず。決して諦めることなく、どんな場面でもベンチから積極的に声を出してチームを励ました。そんなひたむきな姿勢をそばで見てきたからこそ、この一打に対するチームメイトの祝福の声も大きかった。

ベンチでは常に先頭に立ってチームを鼓舞する

 主将、エース、四番。いつだって脚光を浴びるのは試合に出て活躍するメンバーだ。熱心なファンでなければ、スタメン以外は名前も覚えてもらえない。試合に出られずに悔しい思いもした。試合に出られても結果が出せず歯がゆい思いもあった。けれど、メンバー入りもかなわずサポートに回る4年生、応援してくれる人たちの思いを背負ってここにいる。「もう今は自分のためにという意識はまったくありません。『少しでも恩返しをしたい』という気持ちでやっています」。自分のためではなく、チームのため、そして支えてくれる人たちのために。真摯(しんし)に野球と向き合う最上級生の姿は、きっと後輩たちの手本となるだろう。

(記事 三浦遥)