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2022.08.16
【連載】『44の円陣』WEB版 第16回 応援、届いてます(桂蘭/バスケットボール部✕齋藤巽/応援部)
学年関係なく仲の良い女子バスケットボール部と、厳しい規律で有名な応援部。正反対に見える2つの部活だが、桂蘭主将(スポ4=愛知・桜花学園)と齋藤巽(教4=青森)が持つ主将としての悩みには意外にも近いものがあった。同じ早稲田アリーナの部室を利用しながらも、関わりはほとんどなかったというおふたりに話を伺った。
※この取材は6月10日に行われました。
――簡単に自己紹介をお願いします
齋藤 教育学部4年で早稲田大学応援部主将の齋藤巽と申します。青森県出身で、早稲田大学の応援部に入るために1年浪人して、この部活に入りました。コロナの影響で思ったように活動できないこともあって大変ですが、自分が主将になってからの半年間でできることも増えつつあるので、残りの半年もしっかりと頑張っていこうと思います。
桂 女子バスケットボール主将で4年の桂蘭です。出身は東京で、高校でバスケをするために愛知県まで行って、東京の大学に戻ってきました。小学校1年生からバスケットボールをずっと続けてきて、バスケづくしの人生です(笑)。
一同 (笑)。
桂 早稲田は日本一を目指して日々練習に取り組んでいます。早稲田の学年関係なく仲が良い雰囲気や主体的に取り組む姿勢がすごく魅力的で、早稲田に入りたいと思っていて実際に入部を決めました。
齋藤 立派ですね。
一同 (笑)。
齋藤 桜花学園ってとても名門ですよね。
桂 そうです(笑)。
――お会いするのは初めてですか
齋藤・桂 初めてです。
――どちらの部活も早稲田アリーナを練習拠点にしていますが、相手の部活動を実際に見たことはありますか
齋藤 部室が共に早稲田アリーナなので、道を通る時に「練習しているな」といった感じで見かけることはあります。あと、1年生の頃に早慶バスケの応援活動があって、自分は参加できなかったのですが、応援部としては試合に行って応援活動をさせていただいています。
桂 自分も早慶戦の時や行事の時に応援部の応援活動を見たことがあります。練習風景はよくギャラリーで練習していますよね。
齋藤 そうですね、ギャラリーで拍手の練習をしていることがあります。
桂 練習を同時にやっていることもあるので、その時に練習も見かけたりしています。
――相手に部活動を見に来てもらうとして、自分の部活動の面白いところはどこだと思いますか
齋藤 人数がとても多くて、東京六大学の中でも一番多いです。
桂 何人くらいですか。
齋藤 160人くらいです。
桂 全パート合わせてですか。
齋藤 そうですね、リーダー、チア、楽団含めてです。今は164人です。全員が気持ちを一つにして応援することを心掛けているので、月並みですが、迫力のある応援に注目していただきたいです。今は(コロナの影響で)なかなかできませんが、昔はお客さんの近くに行って、われわれリーダーがお客さんをあおっていて、傍から見たら奇怪な感じにも思われますが、泥くさくそこに命を懸けているところにも注目して見ていただきたいです。
桂 学年関係なく仲の良いところや、選手や学生スタッフさんといった学生が主体的に考えて練習をすることがすごく多いので、その主体性は魅力だと思います。学年関係なく雑談を含めてご飯に行ったりして、すごくフレンドリーに過ごせるところがすごく良いところだと思います。
――相手の部にはどんなイメージを持っていますか
齋藤 体育会なので上下関係が厳しいのかなと思っていたので、今のお話を聞いてかなり意外に感じました。
桂 応援部はすごく上下関係が厳しいイメージです。
齋藤 そうなんですよ(笑)。トップダウンの組織なので、正直あまり気安く他の学年の人とは話せないです。物苦しさもありますが、そういったところを受け継いでいくのも応援部の使命の一つだと思っているので、そこは部の使命として受け入れて頑張っています。
――練習場所である早稲田アリーナのおすすめポイントはどんなところですか
桂 スタバがあるところです。スタバ行きますか。
齋藤 たまにコーヒーを買いに行きます。
桂 そういうのは行って大丈夫なんですね。
齋藤 大丈夫です(笑)。
一同 (笑)。
桂 すごい厳格なイメージがあるので。
齋藤 店員の人に「応援部の人ですか?」と話しかけられることはあります。あと、自由に使えるシャワー室があるのはありがたいです。たまにそこで下級生と鉢合わせると少し気まずかったりします。
一同 (笑)。
――部活の面白いところはありますか
齋藤 リーダーに限った話ですが、厳しい応援部の練習の中で、あえて場を盛り上げることを言って全体の士気を上げることがあります。厳しさ一辺倒ではなくて、きつい時にこそ面白いことを言って全体の士気を上げることは、われわれ応援部に必要になってくるスキルなので、そのスキルを鍛える練習も面白いところだと思います。
桂 社会人スタッフさんの誕生日は2年生が誕生日担当になっていて、スタッフさんの誕生日を把握しておいて、プレゼントを買って、みんなから集金して、ハッピーバースデーを祝うのは受け継がれています。あとは、学生の誕生日でもお菓子をあげたりもらったりしていて、ちょっとしたことなのですが、温かい文化だと思います。
――「自分の部のここが変」というところを教えてください
齋藤 精神的な部分を重要視する方向性が、昨今の世間の感覚からは少し離れていると感じています。
桂 他の大学と比べるとルールが自由で、髪も染めていいし、ピアスもOKなので、1部リーグの中では緩い方だと思います。
――練習で絶対に心掛けていることはありますか
齋藤 限界を超えることです。毎回練習はきついですが、自分に妥協せず一歩踏み出すこと。自分の限界に挑んで、もう一回全力を出して疲れて、また全力を出して、その繰り返しをすることで、応援に必要なメンタルや逆境の時に奮い立つ精神が身についてくると思います。われわれも上の代から言われてきましたし、下の代に対しても常々「心掛けろ」と言っていることです。
桂 今年のスローガンが「追求」なので、齋藤さんのお話を聞いていて似ている部分もあるなと思いました。この練習が日本一にふさわしいのかどうかを「追求」しています。「徹底」という言葉も大切だと思うのですが、「追求」の方が終わりがなくて、求め続けるというニュアンスが自分たちのなかでも納得しているので、まだまだ足りないところはありますが、常に「追求」することを心掛けています。
――団結力を高める工夫はありますか
齋藤 今までは合宿や納会が定期的にあって、そこで全体の士気がおのずと高まったり、団結力が生まれたりしていましたが、コロナ禍に入ってからそういった行事が一切できなくなってしまって、去年からZoomで全体に対して働きかけたりしています。あとは、それぞれのパートで士気を高めることもやっています。今これに関しては苦心しているところで、何とかきついところだけじゃなく楽しいところもつくり出してあげて、団結力や連帯感を高める工夫はしています。
桂 仲が良いところが団結力につながると思いますが、仲が良いだけではなれ合いになってしまう可能性もあるとは思っています。今、上級生がケガをしてしまっていて人数も少ない大変な状況のなかで、まだ入ったばかりの1、2年生がコートでメインになってくれている状況なので、下級生にはプレーしながら娯楽の楽しさではなく、努力して結果が結びついた時の喜びや達成感をみんなで共有して、はき違いのない団結力を目指しています。
――練習に指導者の方はいらっしゃいますか
齋藤 指導者の立場の方はいらっしゃいますが、練習は基本的に4年が仕切っています。
――応援部では以前の合同練習で指導者の方をお見掛けしました
齋藤 監督の方です。どうしてもわれわれの自治だけではどうすることもできない問題を対外的に掛け合ってくださったり、全体を通してアドバイスを下さったりします。
――女子バスケ部では、練習に指導者の方はいらっしゃいますか
桂 はい。自分のお仕事をされてから夜に来てくださるので、お忙しい中ご指導いただいています。
――指導者の方とは普段どのようにコミュニケーションを取られていますか
齋藤 われわれは直接お会いする機会が少ないので、行事における対外的なやり取りや情報共有のために、メールや電話を通じて連絡を取っています。練習や試合にいらっしゃってくださることもあるので、お話しに行ったり、ご意見をもらいに行くことはあります。
――直接コミュニケーションを取ることは少ないのですね
齋藤 連絡はしばしば取り合いますが、主には4年が部を仕切ることになっています。
――女子バスケ部は、指導者の方と頻繫にコミュニケーションを取っていますか
桂 そうですね、監督と選手の関係は保ちつつも、話しやすい関係なので、練習メニューについても気軽に相談しています。
齋藤 倉石(平顧問、昭54卒)さんですよね。
桂 そうです。
齋藤 とても有名な方ですよね。
桂 そうですよね。
齋藤 青森県出身で、(青森)ワッツの試合を1回見たことがあって、GMが倉石さんの息子だということを男子バスケ部の神田くん(誠仁、社4=静岡・浜松開誠館)から聞きました。
桂 仲良いんですか。
齋藤 この間ご飯を一緒に食べました。
桂 そんなに仲良いんですね(笑)。
齋藤 この間が初めてでした。ご飯きっかけで仲良くなりました。
桂 何きっかけで仲良くなったんですか。
齋藤 自分の同期が少し仲良くなって、一緒に行くことになりました。
桂 そうだったんですね。
部について話す桂
――トレーニングについてお聞きしたいのですが、女子バスケ部では普段から筋トレをされていますよね
桂 そうですね。
――応援部のトレーニングとしては、精神面の訓練になりますか
齋藤 筋トレはおのおのやってくれという感じです。でも必要な筋肉は自然とつく練習になっていると思います。拍手やテクの練習をするので、おのずと必要な部分に必要な筋肉はついてくると思います。ですが、精神面を鍛える練習がメインです。
――バスケをプレーする中で、応援に励まされたことはありましたか
桂 応援部さんの応援か、観客の応援かはプレーしている最中には分からないのですが、無観客試合になった時に歓声が全然なくて、自分の力が出しづらいということは体感しました。日頃からすごく応援していただいていたんだな、と実感しました。早慶戦の時は開会式や入場の時に応援部の方が盛り上げてくださるので、モチベーションもすごく上がりますし、気持ちもすごく高ぶるので、とてもありがたいです。
――逆に、試合のプレーが応援活動の励みになったことはありましたか
齋藤 われわれはただ応援しているだけではなくて、どのような応援をすれば良いのかを一瞬一瞬考えながら応援活動を行っているので、「こういうプレーが出てほしい」というメッセージ性を込めた応援をして、良いプレーをしてくださった時には、「応援ががっちりはまったな」という充実感があります。そのような瞬間に立ち会えた時は、「応援は楽しいな、いいな」と思います。
――試合中の応援曲は場面に応じて変えているのですか
齋藤 責任者が試合の流れを読んで、適切なタイミングで適切な応援曲のサインを出します。
――早慶戦はどのような特色がありますか
桂 全員が出場して得点したり全員が試合に出て活躍できるチャンスがある機会なので、一人ひとりの「やってやろう」という前向きな姿勢が観客の方に伝わればいいなと思っています。自分たちもそういう姿が、応援したいなと思えるチームになると思うので、そこを見ていてほしいです。
齋藤 (バスケの早慶戦は)どういうかたちで応援できるか決まっていないんですけど、われわれが派遣できるパートも分からないのですが、全力で応援したいと思います。(※取材当時)
――応援部は多くの部活の早慶戦の応援をされていますが、早慶戦への思いを教えてください
齋藤 どの部活も慶大には負けられないという思いを持っていると思うので、それを全力で応援の力で支えようと臨んでいます。
――応援部同士の早慶戦というのはあるのですか
齋藤 早慶でのそのような舞台はないのですが、応援だけのステージで『六旗の下に』があります。六大学の応援団が一堂に会して演技を披露し合うようなものです。そのようなステージが伝統的にあります。応援だけが着目されるステージはそこくらいかなと思います。今はそこに向けた練習をしています。
――ここまで対談をしてきて、相手に聞いてみたいことはありますか
桂 聞いていいのか分からないんですが(笑)。いつも電話しているのはどこに電話しているんですか
齋藤 下級生が上級生に電話をかけるので、部活内でのやり取りですね。
桂 部室に入る時のあいさつもすごいですよね。
齋藤 入室の仕方が決まっているので、やっているうちに意外と慣れてきます(笑)。
桂 あと、下級生らしき応援部の方に廊下ですれ違った時によくあいさつされます(笑)。体育会の人みんなにするんですか。
齋藤 いや、特に決まっていないですね。部内だったら絶対にするのですが、他の部活の方にしているのは初めて知りました。
桂 女バスの中でも話題になることがあって、チアに間違えられたのかなとかみんなで話していました(笑)。
齋藤 学年の隔たりがないというのがとても新鮮でいいなと思ったのですが、キャプテンとしてそういう組織をまとめる上で大変だったことはありますか。
桂 最近、和気あいあいとしているだけじゃだめだということが課題としてあって、ガツンと怒れるタイプではないからこそ、メリハリのない組織になってしまうんじゃないかという不安があって。プライベートでもモチベーションの低い言葉を聞いたら、それはだめだよと言えたらいいんですが、後輩が意見を言いにくくなったらどうしようなどといろいろ考えて流してしまうことがあって、それがだめだったなと最近反省しています。上下関係のない楽しい組織ですが、厳しさもないとだめだなと反省しています。
齋藤 難しいですよね。応援部は厳しさ一辺倒になってしまいがちで。コロナ前はプライベートでご飯に連れて行くこともあったのですが、今はまったくなくて。アメとムチのアメの部分がない状態だからこそ、叱るべきところで叱れなかったりという葛藤がありますね。
応援について話す桂(左)と齋藤
齋藤 応援って届いていますか。
桂 バッチリ届いてます。
齋藤 どういう応援をしてほしいとかありますか。
桂 流れがあるので、得点が入ったりして追い上げているなって時に奮い立たせてくれるような勢いある応援をしていただいたら、自分たちもめちゃくちゃモチベーションが上がって、より頑張れると思います。今までもすごく良かったですが、勢い付ける応援をしていただいたらめちゃくちゃ頑張れます。
齋藤 早慶戦ではそういう応援ができるように頑張ります。
――その部が「早稲田らしい」と表現される時、どんなプレーを指しますか
齋藤 泥くささというのが「早稲田らしさ」だと思います。スクールカラーとして、みんなわちゃわちゃしながらも一つの目的に向かっていくというイメージが早稲田という言葉の中にあるのかなと思います。応援部も人数が多くて一人一人個性があるのでみんなが個性を発揮しながらも一つになって泥くさく全力で頑張っているのが応援部における「早稲田らしさ」かなと思います。
桂 女バスも似ていて、泥くささと一体感というのが女バスの「早稲田らしさ」だと思います。コートの中では泥くさくリバウンド取りにいったりルーズボール必死に追ったりと誰でもできることを当たり前にやろうとする姿勢が早稲田らしくて、そこにコートもベンチも一体となって勝ちに向かうという一体感が早稲田らしさだと思っています。
――大学スポーツにはどんな価値があると思いますか
齋藤 大学は勉強だけの場ではなく、一人の人間として自分のなりたい人間になるという場が大学だと思います。早稲田大学は建学の精神にもともとそういうところがあると思うので、学ぶ場としての意義が大きいと思うのですが、知性も徳も体力もいろんなものを兼ね備えた人間になるという点で大学でスポーツをするという意義があると思います。
桂 大学は学生としての集大成というところがあると思うので、さまざまな人が集まって主体的に作っていくというところが大学スポーツの価値だなと思います。今までは中体連、高体連といった大人の組織が運営する大会に参加するかたちだったけれど、今は学連などの学生が企画する中で選手たちも主体的に取り組むという、大学のスポーツ界のいいところだと思っています。その中で応援されるチームを目指していきたいなと思っています。
――早稲田スポーツの良さは何だと思いますか
齋藤 他のスポーツに力を入れている大学とは違って、もともと伝統として文武両道という建学された時からの意思があるので、他の大学にはない伝統が息づいているのが早稲田スポーツの良さなのかなと思います。
桂 本当にその通りだなと思っていて、文武両道を体現するために今までの先輩方の伝統を受け継いで、更に自分たちの良さを加えて毎年毎年チームは違うけれど早稲田らしいねとか早稲田っていいよねと思ってもらえるチームを目指しているので、そこが早稲田スポーツの良さだと思います。
――お互いの部活の印象は変わりましたか
桂 はい。とても厳格な部活だというイメージは変わらないのですが、一人として話すと人間味があるというか(笑)。すごく喋ってくれてうれしかったです。普通の人でした(笑)。
齋藤 普通の人です(笑)。
――齋藤主将はいかがですか
齋藤 学年の隔たりがないことが意外でしたし素晴らしいなと思いました。和気あいあいとして規則が厳しくなくてもしっかりやるというのは、本当に自己管理ができる人たちが集まっている組織だからできると思うんです。規則に縛られることなく全員で一丸となって目標に向かって進んでいくという理想の組織なのかなと思いました。われわれは日常的には規則を重視する側面が強いので。
――ありがとうございました!
(取材・写真・編集 冷水睦実、横山勝興)
◆桂蘭(かつら・らん)(写真左)
愛知・桜花学園高出身。スポーツ科学部4年。普段からの応援部への疑問を齋藤主将にぶつけてくれた桂主将。早慶戦への意気込みも語っていただきました
◆齋藤巽(さいとう・たつみ)
青森高出身。教育学部4年。物腰柔らかく質問に答えてくださった齋藤主将。対談では、男子バスケ部主将との意外な交友関係も明かしてくれました。引退までの残り半年間も、160人を超える応援部を引っ張っていきます!