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2022.08.19
【連載】『44の円陣』WEB版 第18回 狙いを定めろ(宮本裕喜、杉山瑞季/射撃部✕佐藤桃佳、横山舞香/剣道部)
射撃と剣道という、どちらも少しマイナーなスポーツ。無縁とも思える2競技だが、意外にも似通った競技であることが分かった。今対談では射撃部主将の宮本裕喜(政経4=東京・早大学院)、剣道部女子主将の佐藤桃佳(社4=山形・左沢)だけでなく、射撃部から杉山瑞季(スポ4=神奈川・横須賀学院)、剣道部から横山舞香(スポ3=京都・日吉ヶ丘)の2人にも参加していただき、競技や部のことについて大いに相互理解を深める場となった。
※この取材は5月31日に行われました。
「ちょっと似ているかも」(佐藤)
笑顔で話す佐藤(左)、横山
――自己紹介からお願いします
宮本 政治経済学部射撃部4年主将を務めています、宮本裕喜と申します。よろしくお願いします。
杉山 スポーツ科学部4年で射撃部の杉山瑞季と申します。よろしくお願いします。
佐藤 社会科学部4年の佐藤桃佳と申します。よろしくお願いします。
横山 スポーツ科学部3年の横山舞香と申します。よろしくお願いします。
――お互いに面識はありますか
一同 ないです(笑)。
――お互いの競技を見たことはありますか
佐藤 ないです。
宮本 チラッとくらい。ニュースとか。あと高校の授業で。本当に軽い部分しか知らないです。
――競技はいつ始められたのですか
宮本・杉山 大学からです。
佐藤 私は中学校から。
横山 私は幼稚園。
――相手に競技を見に来てもらうとして、自分の競技の面白いところはどこだと思いますか
宮本 射撃というものを簡単に説明すると、アーチェリーを銃で撃っているようなイメージで、競技的に10点を外してはいけない競技だから、(面白いところは)そのスリル感というか、緊張感かな。
杉山 あとはそもそも銃自体が日本で使えないのに、銃で競技しているっていうのが。
宮本 音とかもね。
杉山 音とかもやっぱりパーンって弾むし。
佐藤 剣道は見てもらえるとしたらちょっとつまらないかもしれないんですけど(笑)。「一本」って簡単に言うのですが、基準が結構曖昧というか、人が審判するので、言葉で言ったら気合、振っている剣と体の気・剣・体で一本になると言われています。多分やっている人にしか感覚のところがなかなか難しいかなと思うんですけど。声を出してはいけない、足もすり足とか、そういうところを予習していったら面白いかもしれない。
――お互いの部にはどのようなイメージを持っていますか
佐藤 銃を使っているのがシビアというか、緊張感とか緊迫感が。
杉山 剣道も似たような感じ。間合いとか。
宮本 礼儀が大事そう。道ってついているところはスポーツとは違う気がします。
――剣道は礼儀で大切にしていることはありますか
佐藤 試合とか試合の内容もなんですけどやっぱり礼儀。一本取ってガッツポーズしたら取り消しになってしまうとか、そういう礼儀はすごく大事にしているルールです。
――射撃にそういったルールはありますか
宮本 試合とかだとない。
杉山 礼儀はないな。
――ガッツポーズは大丈夫ですか
宮本 大丈夫(笑)。
杉山 しちゃいそう。
宮本 (剣道は)全国大会で優勝した人とかもしないんですか。
佐藤 拍手だけなので。声援も駄目、基本拍手だけ。相手を敬う行動を、みたいなルールがあって。
横山 確かに試合なんですけど、目的は勝負っていうよりかは礼儀とかを学ぶような。
佐藤 人間形成みたいなのがメインなので。
宮本 すごい偏見なんですけど、結構やじがすごいイメージが。
佐藤 昔はもうちょっとあったんですけど、最近はすごく厳しくなって、逆に注意されることもあります。大会会場で声援をやめてくださいみたいなのがかかったり。
一同 へー。
宮本 結構静かなスポーツ?
佐藤 そうですね、厳粛な空気で、みたいな感じ。
宮本 射撃と似ているかもしれない。
杉山 ルールとしてはないけど、やっぱり後ろでうるさくしていたりとか、あとコーチがこうしたほうがいいよと後ろから言っちゃったりするのはルールとして禁止なので。
佐藤 ちょっと似ているかもしれない。
――では各部の面白いところと言えばどこですか
佐藤 男子のキャプテン・大串(快晴、スポ4=愛知・星城)はもともとすごく有名な選手で、すごくパワフル剣道なので、どんな人が来るのかなって思ったら、なんていうんだろう、我が道を行くというか、アスリートってこういうものなのかなって。普段は仏みたいにずっとにこにこしています。(剣道部全体では)もともと剣道ずっとやっていた人から、高校水泳部だったとか。剣道界では珍しい体育会の部活かなと。
――射撃部はいかがですか
宮本 やっぱり大学から始める人が少ないので、高校時代いろいろなスポーツをやっている人が集まっています。中ではダーツで世界大会に出ている人が射撃やったりとか。そういうのが面白いっていう言葉で表しきれるか分からないけど、面白い人が多いよね。
杉山 多い。各個人が我が道を行くというか、全員がバラバラの方向に行っているような。
――部の変わった練習はありますか
佐藤 練習気になる。
宮本 変わった練習か。
杉山 (画像を見せながら)50m先の的に、10点の枠が1cmしかなくて。あと、銃が2種類あって、こっちは10m(用の物で)、ちょっと短いんですけど5円玉の円くらいが10点。だから10点を取り続けてる人は、5円玉の円に入れられる人。
宮本 姿勢がいくつかあって、こうやって寝て撃つとか、座って撃つ姿勢とか。
――射撃の弾の大きさはどのくらいですか
宮本 22mm。直径は5.6mmか。
杉山 点数の表示みたいなのは、こういうふうにどこ通ったかというのをセンサーが座標で反応して。どこに当たったかこれで分かる。
宮本 弾はこんな感じ。これはまあ2cmくらいでそんなに大きくはない。
杉山 練習に関しては結構自分個人の課題があると思うけど、私だと試合になると力んじゃって練習と同じように当たらなくなっちゃうので、試合で力まないように普段から力まないというのを意識して練習しています。射撃って20万くらいするセンサーが売っていて、それで軌道が全部分かるので、どこに当たったかとか、どこを通って銃口がどこを通ったかみたいなのが分かって、これを使うと自分はこう動かしているつもりはなかったのに右にいっちゃってたとか、そういうのが分かるので、そういうのをつけて練習したりとか、自分が見えないことを見る練習をしています。
――剣道だとセンサーはありませんよね。練習中は他の人にアドバイスすることはありますか
佐藤 そうですね。やっぱり今年から特にアドバイスも先輩後輩関係なくしようっていう環境づくりみたいなのは意識していました。
――具体的にアドバイスを受けて良かったなというところはありますか
横山 射撃部さんのようなセンサーはないのですが、自分がこう動いて打ったつもりだったとか、それは他人から見てどうだったかとか、主観と客観では全然違うので。アドバイスは大事だし、やっぱりコミュニケーションが生まれるので、そういうのもチームワークとして深められればいいなって感じです。
「いろいろなバックグラウンドを持つ人がいる」(宮本)
手振り付きで話す宮本(左)、耳を傾ける杉山
――ここからは主将としてのお話に移っていきたいと思います。主将から見た部の一番の強み、魅力はどんなところですか
宮本 先ほどのどういった部活かを話した時と同じですが、いろいろなバックグラウンドを持つ人がいて、ダーツをやっている子だったらダーツの動きを射撃にどう取り入れているか、バスケットボールや陸上をやっている子だったら体幹の鍛え方というように、お互いに教え合えるところは、いろいろなスポーツをやってきた上で大学で射撃をやっているからこその魅力だと思います。
佐藤 (宮本さんと)同じで、いろいろなバックグラウンドの人が集まっているからこそ意見交換が有意義だと感じます。また、女子部はすごく人数が多いわけでもなく、今年はスポーツ推薦もないので、他の大学と比べると、飛び抜けて強い選手が在籍しているわけでもありません。ただ、だからこそ一人一人が自主練などで貪欲に頑張っていたり、そういった後輩から刺激をもらったりして今年のチームワークにつながっているなと思います。その効果で、競技歴では「早稲田はそんな(に長くないん)だな」とよく言われていましたが、昨年は全日(全日本女子学生剣道優勝大会)に出たり、「早稲田最近やるようになったな」と周りに言ってもらえるようになったりしています。
――主将になってから最も大変だったことは何ですか
宮本 部員をまとめることと、大人との調整です。監督からやりたいことを「駄目だよ」と言われるところはありますね。
佐藤 (監督と部員との)板挟みというか、そこの難しさは主将になってからすごく思いました。ミーティングをして、発言できる機会をつくっています。
宮本 うちも同じで。部員の声をまとめて監督にぶつければちゃんとうなずいてもらえるので、(監督に駄目だと言われた時は)部員にもう一度意見を聞いて、まとめ直してから監督に伝えています。
――主将の働きを見ていていかがですか
杉山 大変そうだなあって(笑)。
一同 (笑)。
横山 私たちの意見を頑張って尊重して通そうとしてくれていて、そういった姿を見ていると自分たちも頑張ろうって思います。
佐藤 後輩連れてきたから、言わせてるみたい(笑)。
宮本 部員がやりたいことをできるのが一番かなって思うので、理解してくれるのはありがたいですね。
――主将として心掛けていることは何ですか
宮本 射撃は団体もありますが個人の部分が強い競技です。特にコロナ禍で顔を合わせる機会もなくなっていることもあって、積極的に自分から顔を出しに行くことを心掛けています。そこでコミュニケーションを取って、下級生の考えていることをくむようにはしていますね。
佐藤 団体戦といっても一対一の競技なので、個人競技というところは共通ですね。後輩の前で言うのは恥ずかしいですが(笑)。私は自分が引っ張っていくよりも、みんなの意見を引き出していかなければいけないと思っています。稽古外では同期のように仲良くしてみんなの思いをくみ取りつつ、稽古でもそれを生かしていくことを意識しています。
――稽古外のお話がありましたが、稽古外ではどのようにコミュニケーションを取っていますか
佐藤 やっぱり(みんなで)ご飯に行くことが多いですね。私はターリー屋がすごく好きなのですが、女子部員にも好きな子が多いです。
横山 好きです。
宮本 射撃部もコロナ前はよく(ご飯に)行っていたのですが、最近は時々になってしまいましたね。でも麻雀とか、共通の趣味を部活と切り分けて楽しむことはありますね。(他に)何かある?
杉山 学生の試合だけでなく一般の試合に出ることもあるのですが、私は最近OGの方と仲良くなりました。この前は2人で仙台まで車で行って、牛タンを食べて帰ってきました。
――大学の部活に入って、高校と違うことはありましたか
宮本 私は高校までバスケットボールをやっていたので、競技性が全く違って。全体としての課題というよりも、個々の課題を、自分にしか分からないものをどう他人に答えを出してもらうかというか。「ここ分からないんだけどどうすればいい?」と聞く時の伝え方というか。チームスポーツだと同じもの(課題)が見えているのですんなり伝わりやすいですが、個人だと考えていることや、自分に適した姿勢が違うので、どううまく相手に分かってもらって、適切なアドバイスをもらうかを学びましたね。
杉山 高校の時と比べて、他の部員ときちんと意見を交換することが大事だなと思って。結局は個人競技ですが、違う方向を向いているとレギュラーになっても意識が違ってしまうので、そういうところをまとめるために、主将だけでなく部員同士でも話さないと、気持ちに差が出てきちゃうんだなと思いました。
横山 監督がいるといないとでは全く違うと思いました。高校の時は気付きませんでしたが、大学になって、自分の力で強くなるのはとても難しいことなんだと思いました。周りの意見を聞く力や、アドバイスをする話す力はとても大事だなと学びました。
佐藤 主将を通してという話で言うと、高校の時は監督の意向に沿うことが多かったですが、大学の主将になってからは、自分自身の言葉がみんなの気持ちやモチベーションを変えるなと気付きました。それからはみんなの日頃の様子を見るようになって、自分の言葉に重みがあるからこそ、真剣に向き合わなければならないなとより一層感じるようになりました。
「(早慶戦は)勝たなきゃいけない」(佐藤)
――各部の早慶戦の特色を教えてください
杉山 早慶で仲は良いよね。
宮本 一般の学生の試合とは種目が少し違うので、例えばインカレで慶応に負けていたとしても、早慶戦だったら別の戦略で勝てるという状況も生まれますね。
杉山 普通の試合よりもOB・OGの力が入っているし、射撃部は早慶戦が引退試合なので、先輩に勝って終わってほしいというところで、なんなら普段の試合よりも緊張感があります。
佐藤 やっぱりOB・OGの方々が「打倒慶応」を掲げられているので、「勝たなきゃいけない」ところはありますね。早慶戦では(公式戦と違って)声援がOKなので、いつも抑えられている分、みんなのなおさら盛り上げようという気概がすごくて。いつもは拍手ですが、(早慶戦では)一本取った瞬間にみんな立ち上がって「わー!」と言って、お祭りのような雰囲気です。「そんなにやる?」とも思うのですが、その方が(試合をしている)こっちもテンションが上がります(笑)。
宮本 あとは、1年生の芸出し大会のようなところもあります。ただ、コロナ禍でそういった交流の機会が減ってしまって、下の代はあまり(慶応と)面識がないかもしれません。
杉山 自己紹介合戦とかも昔はあったのにね。自己紹介の定型文があるので、それを大声でお互いに言うのがあるんですよ。ありますよね?
佐藤 新入生は、入部したら部のみんなの前でやりますね。
杉山 「はなはだせんえつながら~」みたいなやつですよね。
佐藤 あ、ちょっと違うかも。
杉山 じゃあ主将に(教えてもらって)。
宮本 大声は出さないですよ(笑)。「(こんに)ちは! はなはだせんえつながら自己紹介させていただきます。私(わたくし)、東京都私立(わたくしりつ)早稲田大学高等学院出身、早稲田大学政治経済学部政治学科、競技スポーツセンター射撃部4年の宮本裕喜と申します。以後よろしくお願いいたします。(ありがとうございま)した!」
杉山 っていうのを、大声で言わなきゃいけない。
佐藤 剣道部は「失礼します。自己紹介させていただきます。私(わたくし)この度早稲田大学社会科学部に入学いたしました、佐藤桃佳と申します。段位は三段、出身校は山形県立左沢高等学校です。今後の抱負は○○です。」ここでちょっと男子は面白いことを言わなきゃいけないっていうのがあって、最後に「以後よろしくお願いいたします」で締めます。
――お互いにこの口上があることはご存じでしたか
佐藤 全然知らなかったです。
杉山 私はスポ科っていうのもあって、他の部活の話を聞いていたらみんな(口上が)あったので、剣道部さんにもあるのかなと思っていました。あとは高校名を言った後に(部員が)「名門ー!」って言ったり、早稲田出身だと「裏口ー!」って言ったりとか。
佐藤 剣道部にもやじあるよね。社会科学部って言ったら社学の先輩は「うぇーい」って言って、スポ科の先輩は「わ~」みたいな。
「意外と共通点がある」(杉山)
興味深そうに話を聞く宮本(左)、杉山
――今日の対談で、お互いの部の印象は変わりましたか
杉山 意外と共通点があるなと思いました。
宮本 礼儀を大事にしていながら、男子は面白いことをやらなくちゃいけないギャップが面白かったですね。
佐藤 もともと全く想像のつかない競技だったので、実際の写真を見せてもらったり、部の雰囲気を聞いたりしてすごく理解が深まりました。
――では、大学スポーツならではの価値とは何だと思いますか
宮本 射撃は大学で始める人も多いので、他のスポーツで言う高校の部活のような面もあるのかなと。
杉山 射撃は楽しみながらできます。
佐藤 剣道はプロがないので、大学の後は実業団や警察で続けていくことになります。どのスポーツも同じかもしれませんが、大学までやっている人って本当にその競技が好きな人なので、大学スポーツは「学生最後の剣道生活」として力を出し切るものではないかなと思います。
――それでは最後の質問になります。早稲田スポーツの良さとは何だと思いますか
杉山 いろいろなスポーツがあるところ。
宮本 確かに。OB・OGの方々の、悪い言い方をすれば圧、良い言い方をすれば盛り上がりがあるところですかね。
佐藤 他の大学でも○○戦はありますが、やはり早慶戦の熱はすごいものがあると思います。それから、母校愛が強い人が早稲田には多いので、そこも良いところですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 臼井恭香、荒井結月 写真 荒井結月)
◆杉山瑞季(すぎやま・みずき)(写真左)
神奈川・横須賀学院出身。スポーツ科学部4年。射撃部。今対談でも試合同様に存在感を放ってくださった杉山選手。今後もエースの活躍に期待がかかります
◆宮本裕喜(みやもと・ゆうき)(写真中央左)
東京・早大学院出身。政治経済学部4年。射撃部主将。文武両道の宮本選手。今対談では笑顔で射撃部愛を語ってくださいました
◆佐藤桃佳(さとう・ももか)(写真中央右)
山形・左沢高出身。社会科学部4年。剣道部女子主将。チームへの愛が人父倍大きな佐藤選手。部員について話す時、笑顔が止まりませんでした
◆横山舞香(よこやま・まいか)
京都・日吉ヶ丘高出身。スポーツ科学部3年。剣道部。物腰柔らかな印象的ですが、試合になると部で一、二を争うほどのパワフルさを見せます