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2022.08.08

【連載】『44の円陣』WEB版 第8回 大自然を相手に限界に挑む(伊藤大貴/航空部✕星野誉貴・山本侑弥/スキー部)

 危険と隣り合わせの大自然に挑む。何かと共通点のある両部活。航空部・伊藤大貴主将(基理4=神奈川・浅野)、スキー部・星野誉貴主将(スポ4=群馬・利根商)、スキー部・山本侑弥(スポ3=長野・飯山)の3人に深掘りする中で、比較したからこそ際立つ各競技の魅力が見えてきた。費用面や引退時期などの話題では親近感を抱く様子も。終始互いの部へのリスペクトであふれ、「スキー競技/グライダー競技を現地に見に行きたい!」、そう思わせる対談となった。
 ※この取材は6月2日に行われました。

――まずは自己紹介をお願いします

星野 スキー部主将を務めております、スポーツ科学部4年の星野誉貴と申します。雪の上を走るクロスカントリースキー競技を専門として行っていて、競技自他は中学から始めました。3歳くらいのころからスキーをし始めて、ずっとスキーとともに歩んできた人生を送っています。

山本 ノルディック複合をしています、スポーツ科学部3年の山本侑弥です。ノルディック複合というのはスキージャンプとクロスカントリースキーの複合競技です。始めたのは生まれてすぐで、父親が競技をしていたのがきっかけでした。

伊藤 航空部の主将を務めております、基幹理工学部4年の伊藤大貴と申します。航空部、グライダースポーツを始めたのは大学に入ってからです。もともと横浜で生まれて、宇宙への憧れがあり今の学科を選びました。航空宇宙に関連するサークルで何か面白いものがないかな、と思って出会ったのが航空部でした。週末はグライダーに乗りに熊谷で活動しております。

――スキー部の二人と航空部の伊藤主将は面識はありましたか

一同 ありません。

――お互いの競技は見たことがありますか

星野 ないですね。対談するにあたり軽く調べた程度です。

伊藤 実際に自分の目で見る、現地に行ったことはありませんが、五輪などは見たことがあります。

――それぞれご自分の競技の概要をお願いします

星野 僕が専門で行っているクロスカントリースキーはノルウェーが発祥で、元々、生活に根付いている歩くスキー、移動手段から発展したスポーツがどんどん競技になりスピードを競うかたちになって、現在に至ります。大きく分けて2つの種目があり、コースの中に2つの溝が掘られていて、その中を走るクラシカル競技と、足をハの字に開いてスケートのように滑らせていくスケーティング競技というものがあります。スケーティング競技は後で山本から話があると思いますが、ノルディック複合種目でも採用されている競技でかなりスピード感のある競技です。短い距離だと1・2㌔から長い距離だと50㌔までさまざまな距離で、この2つの種目をかけ合わせたり、入れ替えたりして五輪や世界選手権が行われる競技です。過酷なスポーツと呼ばれますが、本当にその通りだと思います。

山本 ノルディック複合は最初にスキージャンプをします。そこでいろいろ細かいルールなどはありますが、ジャンプの結果の中の順位が決まり、そのジャンプの結果を使って後半のクロスカントリースキーを走ります。ジャンプの結果がポイントでつき、1ポイントの差であれば後半のクロスカントリースキーのスタートに4秒の差がつきます。1位と2位の選手で2ポイントの差があると、1位の選手がスタートしてから8秒後に2位の選手がスタートします。それでゴールした順で結果がつくというスポーツです。先ほど星野さんがおっしゃられたようにスケーティング競技で足をハの字にして、スキーを滑らせて走っていきます。星野さんのされている競技は、それぞれ15秒間隔でスタートしていきますが、ノルディック複合では前の選手を抜かせばそれだけ順位が上がるので、例えば前の選手についてずっと体力温存して、最後に抜かすとか、そういう戦術もいろいろあり、そういったところが見どころです。

伊藤 グライダーはみなさんが想像されるような鳥人間やハンググライダーなどいろいろあると思いますが、そういうものとは少し違い、上級滑空機という法律で定められた飛行機に乗って競技を行います。滑空機にはエンジンがついておりませんので、最初に高度を得るため、ウインチという魚釣りのリールの巨大なバージョンのようなものをエンジンで動かして凧揚げの原理で上げるウインチ曳航(えいこう)と、小型飛行機に空中で引っ張られて高度を得る飛行機曳航(えいこう)という主に2つの方法があります。僕たちが大学で行っている大会はウインチ曳航(えいこう)という凧揚げの原理で500メートルくらいの高度を得て、そこから上昇気流を見つけ、その上昇気流のあるところで旋回をして留まり高度を獲得して決められたコースをより早く帰ってくるという速度スポーツになっています。グライダーは高度2000メートルくらいまで上げることができ、危険と隣り合わせのスポーツではありますが、爽快感があり病みつきになるスポーツかなと思います。

――いつ競技を始めたのか、またきっかけについて教えてください

星野 今専門で行っているクロスカントリースキーは中学生のころから本格的に始めました。スキー競技ということで考えますと、もともとアルペンスキーという、決められた旗門を通過しより速くゲレンデを下るという一般的なスキーを専門で行っていて、その競技自体は小学生からしていたのでスキー競技というくくりだと小学生からになります。スキーを始めたきっかけは自分の家の近くにスキー場があったということと、親がスキーをやっていたというのが、ほとんどのスキー部員がそうだと思いますが、強いてあげるならそこかなと思います。本当に雪深い地域で生まれたので、スキーが当たり前にできる環境にいというのがスキーを始めた大きなきっかけだったと思います。

山本 競技自体は小学校3年生、4年生くらいに始めました。スキーに乗ったというのであれば、自分の最古の記憶からになるので、今あるいちばん最初の記憶がスキーに乗っている状態だったので、それくらい小さい時からやっています。競技は父親がノルディック複合の選手だったということもありますし、兄も同じ競技をしていたので始めました。

伊藤 僕は大学に入ってから競技を始めました。航空宇宙系で何か面白いサークルや部活がないかなと思って探していて、大学入学した時に航空部の存在は知りませんでしたが、体験搭乗という、実際に教官の方が後ろに乗って飛べる機会があり、その時に体が加速していく感じや上から見る景色など、部員のみなさんが団結して1発でも飛ばしてやろうという熱い姿に心を打たれまして、入部しました。

――航空部の伊藤主将に競技を見てもらうとして、自分の競技の面白いところは何ですか

星野 基本的な競技は15秒間隔でスタートして、誰が1番で走っているか全く分わらなくてつまらないと思いますが、強いて言うなら人が苦しんでいる姿を見るのが好きな人だったら面白いかなと思います(笑)。あとは、人間の限界に挑戦している、限りなく人間が限界に近い競技、人間が限界に近づく競技だと思っているので、人間がここまでできるんだ、というのを見てもらえれば面白いかなと思います。

山本 スキージャンプは人が板を2本はいて、大空に飛んでいくというのがいちばん見どころなのかなと思います。それだけの競技もあり、それ以外で何が面白いかというと、クロスカントリースキーで前の選手を追い越せば1位になるというのがあります。例えば前回大会の北京五輪では、11番スタートの選手が金メダルを獲得して、最後まで何が起こるか分からないというのが見どころだと思います。

――スキー部のお二人に競技を見てもらうとして、自分の競技の面白いところは何ですか

伊藤 グライダースポーツは24㌔のコースを回ってくるので結構目視が難しくなってくる、遠くに行くと見えなくなってしまいます。面白いところは自然の力を利用して、どれだけ高度があったらどこまで進めるのかという「滑空比」を計算しながら、安全に高度を得て回って帰ってくる、人間が自然に挑戦する姿は見ごたえがあるなと思います。応援合戦みたいなものもあるので、地上で応援するクルーなど、パイロットだけではなく、チーム全体で戦っているというのも大学のグライダースポーツの見どころなのかなと思います。

――相手の部にはどのようなイメージをもたれていますか

星野 非常に危険を伴うスポーツであるということと、道具を扱うスポーツということでスキーと結構似ている部分があるかなと思います。そういった特色がある競技であるので、事前の準備が大事なので、普段からしっかりやられている部活であるのかなと思います。道具が機械であるので、勝手に理系が多いのかなというイメージがありましたが、ホームページを見させてもらうと文系の方もいらっしゃるようで、イメージと違ったなと感じました。(航空部の)活動場所である利根川の源流の村出身なのでそこに親近感を覚えました。

伊藤 率直にお金がかかるんだろうなというイメージはありますね(笑)。渡部暁斗(平23スポ卒=現北野建設)選手など有名な選手の方を輩出されている、すごく伝統のある部活だと思います。スキー部のSNSなどを見させていただき、合宿をしてみんなで力を蓄えるというところは僕たちとすごく似ていて親近感を覚えました。星野さんが言ってくださった準備やけがのリスクなど、そういうところもすごく似ているところがあるなと思って、今回の対談がすごく楽しみでした。

――ちなみにスキー部はお金が掛かるというイメージは合っていますか

山本 本当にみなさんが思っている3~4倍は掛かっています。

星野 親には足向けて寝られないですね(笑)。

――航空部は費用という点ではいかがですか

伊藤 航空部も結構掛かりますね。お金が位置エネルギーに変わってという感じです(笑)。

――部活ならではの面白いところはありますか

星野 スキー部の監督(一戸剛、平11卒=青森・弘前工)は五輪選手ですね。部活の面白いところで言うと、それぞれ頭のネジが飛んだ競技をしているので、それぞれの部分で頭が飛んでいる人が多いかなと思います。ノルディック複合は、空を飛ぶスキージャンプと、人間の限界を越えるようなクロスカントリーの両方やっているのでいちばん頭おかしいと思います(笑)。アルペンスキーだったら、時速100キロを越えるようなスピードで決められた旗門をカリカリのアイスバーンの上で滑って、モーグルやエアリアルなどのぐるぐる回る競技に関してはイメージが僕は湧かないですね(笑)。クロスカントリーの人たちは比較的ネジは飛んでないかなと思いますが、どうかな、侑弥。

山本 そんなことはないですよ(笑)。僕は(クロスカントリースキーのように)30キロ、50キロも走りたくないです。絶対嫌です(笑)。でもいちばんイメージが湧きやすいのはクロスカントリーかなと思います。

伊藤 大学から始められるというところと、空を飛ぶという活動に参加するということで、少し似ているのですが個性のある人が結構集まっていますね。例えばすごくプログラミングが得意な人が、グライダーで使うGPS専用の携帯アプリを開発して僕たちに競技で役立つようなアプリを作ってくださる先輩がいたり、気象条件ごとに今までの飛んだデータを分析してどこに上昇気流が生まれやすいのかということを導いてくれるプログラムを作った先輩もいたりして、個性が輝く部活だなと思います。また、基本的に週末に合宿などで長い時間一緒にいるので、夏休みなどは1週間とか長い時間いて、知らないことはみんななくなっていったり、だんだんおかしくなっていったりみたいな(笑)。楽しい部活ですね。

――競技中に景色がいいイメージがありますが、実際はどうですか

星野 競技中は景色を見ている余裕がないので何とも言えませんが、練習で天気がいい日にあたると本当にやってて良かったなあと思います。この景色はなかなか見られるものではないと思っているので、スキーの魅力のひとつかなと思います。

山本 僕の場合、クロスカントリーでは星野さんがおっしゃっていた通りですが、ジャンプだとたまに板をはくところで、海外だとふっと上を見てみるとすごい山がきれいだったり、札幌で夜に飛んだりするとすごい夜景がきれいだったりします。その景色に向かって飛んでいく感じも少しあるので、そこは景色がいいなと思います。

伊藤 僕も競技中の速度を追求している時は、景色を見ている余裕はないですが、先日5時間耐空という5時間飛び続けるという1つの章があり、チャレンジをした際に、高度1800メートルくらいまで上げて雲の下までいって、雲ができたり消えたりしているのが上で見えたり、遠くまで見えたりしました。鳥も近くにいて一緒に鳥と飛ぶなどグライダーでしか見られないような景色はすごく見ることができますね。

――今までで好きな景色やきれいだった思い出の景色はありますか

星野 好きな景色で言うと、長距離を走っているのでフィニッシュのボードが見えた時の達成感が半端じゃないですね。きれいだった景色で言うと、寒すぎるとダイヤモンドダストという雪の結晶が光に反射してきれいに光り輝く景色が見られるのですが、そういうのを死にそうになりながら見て、そこは寒いけど走って良かったなと思うことは多々あります。

山本 大会になるとジャンプ台が整備されていたり、クロスカントリーのコースも整備されていたりして、そのジャンプ台やコースがすごくきれいなのを見るとすごくきれいだなと僕は思います。

星野 きれいだよね。

山本 光が反射していい感じですね。

伊藤 周回といって決められたコースを回ってきて無線を入れて「ゴール手前2K」と言って、2キロ手前で無線を入れて「ゴールしました、高度350」と言って着陸するのですが、その時に無線を聞いた地上のクルーが浮きを持って全員でわーみたいな感じで待ってくれているのが、ファイナルパターンで降りてくる時に見えて、開けて「おめでとう」と言ってくれている時は、あー良かったなあとすごく思う景色です。

――一番思い出に残っている、きれいだった場所はありますか

星野 侑弥はW杯に出場して海外に行っているからきれいな景色めちゃくちゃいっぱいありそう。

山本 そうですね。僕の場合は、いちばん良かったのはフィンランドかもしれないですね。フィンランドって日が落ちるのがすごく早くて、日本の午前6時、7時(の高さ)がフィンランドの正午12時の太陽がいちばん上に昇るところなので、すごく日が昇るのが短いです。そこで12時頃に見た、日がいちばん高い時に、フィンランドはめちゃくちゃ寒いのでダイヤモンドダストが出ていて、それもあり日差しもあり、空気もすごいきれいで澄んでいるところがいちばん良かったです。

伊藤 今は亡くなられた教官の方と初めてかなり長い距離を、すごく条件が良い利根川を南下していっていろいろなところに連れていっていただいたのがいい景色でしたね。明確にどこというのはないですが、それが一番です。

――飛ぶことに対する恐怖心はありますか

山本 あまり恐怖心はないですね。ジャンプだけだともっと飛んでほしいなとか競技中には思うし、もっと高いところ、もっと早く進みたいという風に思うので、あまりジャンプだけの恐怖心はないですね。

伊藤 恐怖心は確かにそこまでないかもしれないですね。飛べるようになっていく過程で少しずつステップアップを積み重ね、最初は2人乗りで飛んでそこから初めてソロで飛べて、30分飛べて、1時間飛べて、2時間飛べて、5時間飛べてと少しずつ自分のできる範囲を広げながら競技に臨んでいっているので、そういった意味で恐怖心は克服しているのかなと思います。

――競技前に重さに関して意識していることはありますか

伊藤 軽くなければならないとか重くなければならないというパイロットの体重に関する制約はそこまでないですが、機体に乗る上で定められている重心位置にセットしないと、力の釣り合いで飛んでいるのでパイロットが軽すぎたり、重すぎたりすると操作不能になってしまうことがあります。自分たちも決められた重さになるように重りを積んで重心位置を合わせています。それを怠ったことで起きてしまった事故が過去にあるので、きちんと重りを積んでいるのかというのは自分もクルーもチェックして、ダブルチェックして飛ぶように心掛けています。飛行機でも重心位置を合わせるというのは、専門の部署があるぐらい重要なものです。

山本 明確にルールで足を40センチ開いた状態で身長を計って、僕の場合は162センチで体重が50キロくらいなので、そうすると何メートルの板、今は2メートル22センチの板が最大ではけるという数字があります。スキージャンプは浮いていく風などもあるので、軽ければ軽いほど良くて、(板が)長ければ長いほど飛んでいきます。その体重でその長さの板を履けないという規定があります。僕が昔、風邪をひいてしまい体重が2、3キロ落ちてしまったことがありました。そういった時には、ルールの体重まで戻さなければならないので、試合前に500ミリリットルのペットボトルを6本くらい飲んでスタートするということもありました。そういう少し過酷なところもあります。

――風の読み方など、試合前の気象チェックはどのように行っていますか

伊藤 僕たちは前日に気象ミーティングを行います。気象庁が出している天気図を見て、風向きや風の強さなどの天候を判断したり、レーダーや天気予報を見たりします。また、地上と高層の温度差があればあるほど上昇気流は発生しやすいので、高層天気図を見たり、グライダー専門の天気予報サイトを見たり、いろいろ複合的に情報を得て、最終的には自分たちがこうなんじゃないかと仮説を立て、気象を読み取っています。

山本 気象に関しては運営側が全てやってくれることもありますが、風はコーチが見てくださります。ジャンプを飛ぶ際には信号があり、赤の時は板を履いているところで待ち、黄色になったらスタートゲートに進んで、青になったらスタートするという感じです。青になったら10秒以内にスタートしないと失格というルールがあり、その10秒の間にコーチが一番いい風で出してくれるということを信じて僕たちはスタートするだけなので、風のことに関して言うと、コーチがやってくださります。

――普段の生活で競技のために気をつけていることはありますか

伊藤 実際に飛んで活動ができる時間はすごく限られているので、そこに至るまでに地上にいる時GoProで動画を撮っているので動画を見返して、自分の操縦を振り返ってみたり、地図に書き込んでシミュレーションを行ったり、部室でグライダーのフライトシミュレーターを使って練習したりしています。グライダーはすごく頭を使うスポーツなので、頭を使うことを怠けないようにしています。

星野 ノルディック複合や航空部の方がおっしゃっていたような体重管理などのシビアな部分はクロスカントリーにはないですが、強いて言うなら1日1回は必ず自分の滑りと理想とする滑りを動画で見て、照らし合わせて理想と現実のギャップを埋めていくという作業を僕はしています。あとは毎日練習するなど基本的なことをやっています。

山本 競技特性でもありますが、瞬発系のスキージャンプと持久系のクロスカントリースキーの複合競技なので、別々なところにあるような競技です。そういった競技の練習をどちらもしなければならないので、そこが難しいところです。クロスカントリースキーに偏ってはいけないし、ジャンプに偏ってもいけないので、そのバランスはいつも考えて練習しています。また、先ほども言った体重管理はすごく重要になってくるので、普段の生活は食に関しては意外と気を使っています。

――競技をしている人特有の職業病のようなものはありますか

星野 スキー部は階段でクイックをすることが万人共通かなと思います。上りで使うスケーティングの技術なのですが、これに関してはノルディック複合もクロスカントリースキーも多分ほとんどの人が学校の階段でやったことがあると思います。

山本 僕はスキージャンプの助走姿勢のかたちは鏡で見るので、駐車場などで車の窓に反射している自分の姿勢をチェックしちゃいますね(笑)。

伊藤 グライダーで飛んでいる中でサブGという、速度をつけて急に抜くと体がふわっとする感覚があり、そういう時にも冷静に対応できるように訓練しているのですが、3年生くらいになって久々にジェットコースターに乗ったら体が慣れすぎていて、サブGがかかった時に絶対に声を出したらだめと教わっていたこともあって、あんまり声が出なかったということはありましたね(笑)。

スキー部について話す山本

――お互いに聞いてみたいことや気になることはありますか

伊藤 スキー部のみなさんはどういうところに就職されるんですか

星野 就職先は本当に人それぞれですね。一般企業に就職する方も一定数いますし、競技を続けるとなると大体の人が自衛隊体育学校という北海道の札幌にある自衛隊に行くか、自分で一般企業を見つけてそこにお願いしてスポンサーとなってもらうかです。あとはスキー部は教員が多いかなという印象はありますね。地元の役場や公務員が多いイメージがあります。外資系やコンサルのような華やかな業界よりは公務員や競技を続ける人が多いです。ちなみに航空部の方はどこに就職されますか。

伊藤 航空会社の一般職やパイロットになる人が結構多いですね。あとは一般企業に務める人が多いです。コンサルとかが割と多いです。

山本 僕はジャンプやっているんですけど、高所恐怖症なんですよ。伊藤さんは高いところは大丈夫ですか。

伊藤 大丈夫かもしれないです(笑)。僕たちが乗っている機体はFRPという強化プラスチックのようなもので作られているのですが、グライダーは鋼管羽布張りという布で覆われたタイプです。そういうめちゃくちゃ軽そうなもので高いところを飛ぶのは少し怖いなと思うのは少しありますね。お二人は大学での競技生活でけがをされたことはありますか。

星野 僕は競技を始めたころから大きなけがをしないことが強みというか特徴だったので、大学に入ってもそれが継続できていて、大きなけがはないですね。ローラースキーという夏のスキーのトレーニングでこけて、でかい擦り傷作ったとか顔切ったくらいです。骨折などは全くないです。

山本 僕もあまり大きなけがはなくて、口から摂るものがいちばん体に響くと思うので大きいけがをしないために食生活に気をつけています。転んだ時にけがをしないためにもストレッチをよくするなど対策はたくさんしているので、そのおかげもあるのかなと思います。

伊藤 僕もスキーは趣味程度でやるのですが、アイスバーンのところを時速100キロくらい出して滑ることを考えたら、本当に怖いなと思います(笑)。

星野 伊藤さんが早大に入ったきっかけや選んだ理由はありますか。

伊藤 今僕は機械科学航空宇宙学科に在籍しているのですが、その学科があるということで早大を選びました。星野さんと山本さんはいかがですか。

星野 本当に小さいころから漠然と早大に行きたいという気持ちがあり、その中でスキーをやってきていました。スキーがいちばん強いところはどこ、と言われた時に真っ先に早大が浮かんだのが、早大を選んだきっかけかなと思います。

山本 今ノルディック複合をやっているトップチーム、先ほどおっしゃっていた渡部暁斗さんなど昨年いらっしゃったメンバーは全員早大出身の方で、早大に行けば何か理由があるのかな、強くなるための秘訣が隠れているんだろうと思い、早大に入学しました。

――スキー部では早慶戦は開催されますか

星野 早慶戦というかたちではないですが、全日本学生選手権(インカレ)で慶大は早大と同じ1部の土俵で戦っているので、そこでお互いに意識して早慶戦枠になっているのかなと思います。野球部や庭球部などのように直接対決をする早慶戦はありませんが、一応早慶戦というかたちになるかなと思います。特徴的なのは早慶交流というものがあり、毎年慶大スキー部のみなさんが所沢キャンパスに来てくださり、バレーボールやサッカーなどの球技をして交流を深めるという行事があります。一昨年と昨年は開催できませんでしたが、僕が1年生の時は開催していたので、と今年は何とかして開催したいと考えています。

――航空部では早慶戦は開催されますか

伊藤 はい、早慶戦は2月に行われます。4年生の3月の全国大会まで部活があり、その前に早慶戦があり、そこで勝利した方が全国大会の優勝よりも意味があるみたいな感じで、早大も慶大もかなり熱が入って行われます。慶大は特殊で高校に航空部があり、航空部の中では珍しい7年選手、高校で3年間、大学で4年間競技をしている選手もいます。そういう飛行経歴の差を埋めるためにもかなり頭を使い、シミュレーションをして勝っていくかということが大事になってくるかなと思います。

――スキー部の寮はありますか

星野 はい、あります。僕と山本は今、別の部屋にいるのですが、他の部屋からゲームの叫び声が聞こえきていて(笑)。毎日本当に楽しい寮生活を送っています。

――(寮は)所沢ですか

星野 そうですね、所沢キャンパスから自転車で5分くらいのところにスキー部だけの寮があります。

――スキー部の寮のおすすめポイントはありますか

山本 ご飯がおいしいですよね。

星野 そうだね、ご飯がおいしいですね。栄養士の方が献立を考えてくださって、みんなで作ることもあるので、そこも面白いと思います。寮内にトレーニングルームがあるのは結構大きいかなと思います。スキーの直接的に関わる動きができるウエイトトレーニングなどが、寮内でできるので学校のトレーニングルームが空いていなくてもできるのは魅力的です。

「早稲田ポーズ」をする星野

――いちばん好きなメニューは何ですか

星野 うわー、迷う。

山本 迷うほど全部本当においしいです。

――航空部は寮はありますか

伊藤 寮はなくて、活動する時は合宿所にみんな泊まっています。

――航空部の合宿所のおすすめポイントはありますか

伊藤 機体や飛行機を見るのが好きな人は、格納庫にグライダーが格納されているのを見ると、面白いかもしれないです。関東の大学が集まって共同で使っているので、規律を守って、6時に起きて10時には消灯するというルールで規則正しく生活できることがいいところかなと思います。

――「自分の部のここが変」というところを教えてください

山本 やっぱり金銭感覚はおかしい気がします(笑)。

星野 それはそう(笑)。金銭感覚がおかしいのもそうですし、本当にみんな競技がネジ飛んでいる競技ばっかりなので、常識人かと思いきや実際そうでもないみたいなことがあります。常識人のハードルが多分他よりもかなり低くいと思います。あと私服を着ている人が極端に少ないです。私服という概念が多分ないですね。ジャージばっかりです。今年の1年生は私服が多いですが、2年生以上はほとんどみんなジャージで学校に行っています。

伊藤 人間性みたいな点で言うと、一瞬で判断が必要となるスポーツなので、サバサバしている人、あんまり悩まない人が多いかもしれないです。あとは、積雲という綿あめみたいな雲があるとすごく条件が良くて飛びたくなって、今日飛びたいな、と思うのは航空部のあるあるかもしれないです(笑)。

――「早稲田らしい」と表現される時、どのような時や出来事を指しますか

伊藤 早大には進取の精神があると思いますが、幹部の代がチームとして強くなるためにシミュレーターを導入してみたり、新たな滑空場で関係性を築いて訓練ができるようにしたり、座学の資料を整理したり、挑戦していくこと、チームが強くなるために難しいことにチャレンジしていくことが「早稲田らしさ」だと思います。

星野 スキー部は強さに貪欲である時が「早稲田らしい」と思います。山本はW杯で活躍する選手で、競技に対してかなり真剣に考えているし、熱いものをもっていて非常に頼りになる自分も参考にしなければならない頼もしい後輩だと思います。スキー部には伝統もあり、強い先輩方がたくさんいらっしゃいます。インカレや学生の大会で頂点に立つという「早稲田らしさ」もあると僕は思います。

山本 今の4年生の代が率先して練習に行っていて、この先輩方の背中を見ていると自分も頑張らなければいけないと思うことが多々あります。切磋琢磨(せっさたくま)しようと思ってしているのではなくて、それが自然体となってスキー部のかたちに表れているのが今のスキー部にあり、それが僕的には「早稲田らしい」と感じます。

――今までの対談を経て、お互い部活に対するイメージは変わりましたか

星野 印象が変わったというよりは共通点が多くて、「おー」となることが多かったです。先ほど4年生の3月まで競技を続けるとおっしゃっていましたが、僕たちスキー部も2月にインカレがあり、そこまでは絶対4年生も続けるので、そういったぎりぎりまで大学スポーツを続ける仲間かなと、ものすごく親近感が湧きました。

伊藤 印象が変わったという点においては、スキー部も航空部も命懸かっていて、そのために準備をして日常生活の中でも自分のフォームや食生活を意識していて、1発の重みを感じました。見た目は全然違いますが、共通点は多いなと感じました。

――プロスポーツではない大学スポーツには、どのような価値があると思われますか

星野 勉学をしながらスポーツをすることが大学スポーツの大きな特徴だと思います。またユニバーシアード(現世界ユニバーシティ大会)があるのが大きな魅力かなと思います。プロスポーツであるとチーム内のメンバーがなかなか変わらないと思いますが、大学スポーツでは4年生は抜けて1年生が新しく入ってきます。毎年毎年それぞれの学年によってチームのカラーが少しずつ変わっていくことも、大学スポーツというよりは学生スポーツかもしれませんが、4学年いることでそれだけ個性が集まり、それぞれの色が出てくるので大きな魅力だと考えています。

伊藤 大学スポーツは4年間という明確な期間が決まっている中で行う部活で、先ほど星野さんがおっしゃったように各代によってカラーがあり、幹部の代が挑戦してそこによって創り上げられるレガシーがどんどんチームに受け継がれて、強くなっていく。4年間だからこそ、勉学やアルバイトをしながら濃密な時間を部員と一緒に過ごしていく中で醸成される、積み重なったものがあるのが大学スポーツの良さだと思います。

――早稲田スポーツの良さは何だと思いますか

星野 全ての部活で、横のつながりが他大よりも強いのかなと感じます。早慶戦であれば、僕も3年の秋に野球の早慶戦を見に行き盛り上がったり、隣の全く知らない人と肩を組んで紺碧の空を歌ったりしました。他大と比べいろいろなスポーツもあり、横のつながりもあります。稲門会があって強いというのはあるので、そういった点で仲間ができることは早稲田スポーツの最大の魅力だと思います。

伊藤 早大はすごく伝統のある学校で、どの部活も強いと思います。野球の早慶戦だったら早稲田キャンパスで応援部のパフォーマンスが行われ、学校全体で応援する雰囲気があり、早大に所属していることに誇りを持てるという良さがあると思います。紺碧の空を歌って、早稲田っていいなと思えるので、星野さんの意見に完全に同意です(笑)。

「早稲田ポーズ」をする星野

――最後に、感想や面白かったことはありますか

伊藤 ぜひ現地に観戦に行きたいなと思いました。

山本 僕も航空部の大会を現地で観戦してみたいと思いました。

星野 でも2月なんですよね(笑)。スキー部の大会時期とかぶってますね。

山本 そうなんですよね。

星野 今年はユニバーシアード(世界ユニバーシティ大会)や世界選手権に出場する選手がたくさんいると思うので、早スポさんにもたくさん取材していただいて、スキー部をもっと盛り上げていきたいなと思いました。こういった機会を機に、僕も積極的に動いていこうと思った次第です。

伊藤 体育会に所属しているとはいえ、体を動かすタイプのスポーツとは少し異なるスポーツなので、今日はスキー部の方と接点を持ててうれしかったです。

――ありがとうございました!

(取材・写真 佐藤豪、堀内まさみ)

◆伊藤大貴(いとう・だいき)
 神奈川・浅野高校出身。基幹理工学部4年。航空宇宙への憧れから学部・学科を選び、航空部への入部を決めたという伊藤主将。グライダースポーツの基本的なことから魅力まで、どこまでも論理的に、分かりやすく答えてくださりました!

◆星野誉貴(ほしの・よしき)
 群馬・利根商業高校出身。スポーツ科学部4年。今回の対談では、何度も場を笑顔にしてくださった星野主将。対談の最後にはスキー部をもっと盛り上げたい、と力強いお言葉を頂きました!

◆山本侑弥(やまもと・ゆうや)
 長野・飯山高校出身。スポーツ科学部3年。穏やかな話しぶりと笑顔がとても印象的だった山本選手。ジャンプ競技をなさっていますが、高所恐怖症だそうです!

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