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2021.09.06

【特別企画】WEリーグ開幕記念特集 第4回 佐々木則夫大宮アルディージャVENTUS総監督×外池大亮ア式蹴球部監督 前編

 第4回を飾るのは、2011年女子W杯でなでしこジャパンを初優勝に導き、現在大宮アルディージャVENTUS総監督を務める佐々木則夫氏と、早稲田大学ア式蹴球部の外池大亮監督です。優勝から10年が経った今、女王に返り咲くために日本の女子サッカー界に必要なこととは何か、サッカーをする上での環境の重要性などをお二人に伺いました。

 

※この取材は8月18日にオンラインで行われたものです。

 

「体格が小柄な選手でもアジリティや敏捷性、スタミナもあるので、体の当て方を工夫すれば補うこともできる」(佐々木)

 

日本人の強みを語る佐々木氏

 

――早速ですが、この夏に行われた東京五輪の率直な感想をお聞きしたいです

佐々木 男女とも、僕自身個人的にすごく期待をしていました。今回コロナ禍で準備をするにあたって、他国より準備はできたんじゃないか、日本は高温多湿なので野外スポーツに関して非常に利点があるんじゃないかと思っていました。男子は海外でプレーしている選手も、日本でプレーしている選手も今年は良いフィーリングで、メダルは確実じゃないかと思っていました。女子については、金(メダル)は厳しくても何とかかじりついても銅(メダル)は獲得してほしいと思っていました。期待はしてたんですけど、サッカー界でメダルが獲得できないということは、我々仲間としては非常に残念でした。

外池 オリンピックは世界大会ですが、男子の方はヨーロッパのチームがなかなかベストで来れていないとか、コロナ禍というころも難しかったのかなという印象を改めて持ちました。女子の方はWEリーグ(開幕)という日本の女子サッカーにとって大きな節目のタイミングでしたが、勢いというより難しさや重さを強く感じたなという印象でした。どちらにせよ、国際大会で厳しい戦いができたのは成果というか、次につながる大会になったと思います。24歳以下という中で久保(建英)選手(マジョルカ)や谷(晃生)選手(湘南ベルマーレ)がチームを背負うという新しいかたちが印象的でした。早稲田(出身)の相馬(勇紀)選手(名古屋グランパス)が大学サッカーを背負って三苫(薫)選手(筑波大出身、ユニオンSG)、旗手(怜央)選手(順天堂大出身、川崎フロンターレ)、上田(綺世)選手(法大出身、鹿島アントラーズ)、林(大地)選手(大阪体育大出身、シント=トロイデン)とか、そういう選手に大学を経由した色が出ていたので、大学サッカーに関わる身としては非常にうれしかったというか、手応えを感じることができました。

 

――ここからは女子を中心に日本サッカー全体についてお二人に伺っていきます。近年の女子サッカーを見たときに、欧州の急成長が2年前のW杯、そして今回の五輪でも目立ちました。これまで技術で体格面を補ってきたなでしこがまた世界のトップに返り咲くために必要なことは何だと思いますか

佐々木 日本の女性は昔よりは身長も高くなったり、身体的には強くなっていて、山根(恵里奈)さんというゴールキーパーがいましたが、やはり欧米の185センチメートルを超えた選手の動きを考えるとなかなか厳しい部分もありました。だからこそ日本の女性の特徴を生かして技術の質を上げるということが重要だと思います。僕が(W杯)監督を引き受けたとき、今まで積み上げてきたことにさらにプラスアルファで何ができるかを常に考えていかないといけませんでした。今回、高倉監督の指揮と過程を見て、やはり監督が代わったら自分の単純なイメージだけでは世界と戦えないと感じたので、継承しつつ質を上げていかなきゃならないだろうと思いますね。体格が小柄な選手でもアジリティや敏捷性(びんしょうせい)、スタミナもあるので、体の当て方を工夫すれば補うこともできます。ボールを持っていない(時間の)サッカーの質は、目配り気配りが素晴らしい日本の女性の部分を生かすことが重要です。今の若い選手は技術は上手くなっていますが、それだけで戦っていくわけにはいかないので、もう一度今回の東京五輪を振り返ることでまたチャレンジできると思っています。

 

――技術という面で欧米の選手たちの技術は日本に迫ってきているなという実感はありますか

佐々木 欧米ではパワーとスピードに加えて技術も上がり、さらに戦術的な質は顕著に上がってきていますよね。僕が監督をやった時には、前線から縦のパスコースを切ってボランチに追い込んで、プレッシャーかけてプレスバックするようにしました。すると高い位置でボールを奪えたり、プレスで囲い込むと技術が落ちたりしました。でも今は技術もポゼッションの質も上がって、日本のプレスをかいくぐることができるようになってきました。以前我々がやったサッカーが世界の女子サッカーの大きなヒントになったんです。今度は我々がもっと質を上げて、技術的な要素も上げる。あとは球際の強度も上げないと相手のボールは簡単に取れないと思います。実は我々がW杯で優勝した時はあんな小さい選手ばかりだったんですけど、セットプレーで失点したことが無いんですよ。逆に我々はセットプレーで点を取ったんですよね。それはコーナーキックで相手との競り方を一歩早く相手に体をぶつける、ちょっと早すぎるとファールにも見えるというような競り方をすごく練習していました。そういった意味ではいたちごっこじゃないですけど、もっと技術的な質を上げていかないといけないと思います。

 

――外池監督は女子サッカー全体を見て何か足りないなと思うことはありますか

外池 足りない部分はなかなか見つけにくいですが、(ア式蹴球部)女子部と一緒にミニゲームをするときがあるんですけど、上手さで言うと遜色ない。もちろん強さとか実際のアジリティみたいなところは違いますが。実は男子部と女子部を対比してみて、同じサッカーですけどチームへの向き合い方というか、空気感が違うんですよね。まさに佐々木さんが作り上げたチームは、戦術とかではなくてチームとしての色というかたちが如実に出ていて、それがバランス良く出ると強さを発揮する状況かなと思います。今の五輪を見ていると、男子サッカーを追っている印象を受けたんですよね。男子がトレンドとしていることを同じ方向性として捉えているというか。佐々木さんがおっしゃるように女子サッカーとしてのひとつのあり方、チームとしてのかたちみたいなものにもう少しバランスを持っていくと、良さがもっと生きる環境になったりするのかなというか、そういうオリジナリティある空気感が生まれたりするのかなと感じています。

 

――W杯優勝後の女子サッカーの人気が一過性のものになってしまったという指摘がありますが、どう捉えてらっしゃいますか

佐々木 確かに我々が優勝した時はブーム的な要素だけで、日本全国に女子サッカーのベースを作れませんでした。本当はその時にプロリーグを発信、構築してベースを作っていなければならなかったのですが、10年弱その準備を怠っていました。そんな中でFIFA国際サッカー連盟も女子サッカーに目線を切り替えているので、日本だけじゃなくて全世界が女子サッカーに目を向けていくことが大事ですね。今は競技として女子サッカーをもっともっと繁栄させるために、世界は変わろうとしつつある中で日本も遅れてはいけない。日本の女子サッカーは我々が優勝した2011年は東日本大震災で大変な時で、日本に元気を与えることもできたので、このWEリーグ自体も競技のみならず、女性の活躍の場をもっと広げることを狙いにするのも大事だろうと思います。確かに10年遅れてしまいましたが、これ以上遅らせることはできないので、コロナ禍という厳しい状況ですがプロリーグをやろうという意欲でなんとかここまで来ました。

外池 中学生の娘が(サッカーを)やっていて、中学生年代の環境に課題がある状況を実感しています。競技人口というところでは、小学生の時に結構やっていたのに中学生になって辞めてしまう選手はすごく多いです。トップが旗を振って道をちゃんと作ってあげるということがとても大事で、普及、育成のところも課題があるなと思います。男子もコロナ禍以前から競技人口が減っているという実態もあると思いますし、そこに関わる人たちがどう考えをアップデートしていくのかも大事だと思います。我々早稲田大学の男子部女子部は同じレベル感で取り組ませてもらえているので、そういうところから選手という道もそうですけど、社会全体から広くサッカー界というものを男女問わず見渡せる人を育てたいです。どの業界に行ってもその視点で取り組める人がどんどん出てくれば良いなと思うので、そこを意識していきたいです。

 

「いかに指導者が『一緒になって作ろう』という空気感を生み出せるかというのも日本の若者にとって結構大事」(外池)

 

大学世代の環境づくりを訴える外池監督

 

――環境づくりという視点で見ると、東京五輪のなでしこの中で大学サッカー出身者はゼロでした。一方で男子を見るとユースが発達している中でも多くの学生サッカー出身者が代表に選ばれています。大学女子サッカーからプロにつながる環境づくりの中で何が必要になると思いますか

佐々木 今外池監督が言われたように中学年代の女子サッカーはすごくポイントで、中学でも男子のサッカー部はあるけど女子のサッカー部はないとかね。ジュニアユースのチームもあまり全国に展開されていないという現状があります。ですからWEリーグではU15、U18の創設にも力を入れています。今は直接高校からなでしこリーグで活躍する選手が多くなってきたと思うんですね。しかし大学(出身の選手)の数も増えてきたので、4年間で作り上げたベースの中から今後代表に入れる選手が必ず出てくると思いますよ。大学でプレーしていた選手がWEリーグに入ってきていますし、そういう意味では代表につながる選手は必ず出てくると思いますね。以前よりも少し変わってきたのかなと。

 

――外池監督は学生サッカーに直接かかわる立場から見て男子も含めて学生サッカーの意義がどのようなところにあるとお考えですか

外池 男子に関しては年代別にある程度体系化されていていますが、技術や能力を上げてきた先の大学サッカーの必要性を感じていて、高校生までで教わったことを自分から主体的にできるかってところが課題だと思います。一方女子は、年代の区分けなどは競技人口が少ないところから生まれているとは思いますが、ユースと大学が同じリーグだったり、成長スピードなど、それによるプラスの効果もあるような工夫もされています。だからこそ、これからは大学として更に環境の強みを作っていけるかなと思います。やっぱり学生スポーツの良さは主体性をいかに発揮して、競技だけじゃなくてチームの運営とか、チーム全体を見ながら自分事化して社会、プロで行われていることをトライアンドエラーしていくかです。学生たちがただやるのではなくて、いかに指導者が「一緒になって作ろう」という空気感を生み出せるかというのも日本の若者にとって結構大事だと思います。

 

――大宮には早稲田大学から加入した村上真帆選手が在籍しています。十文字学園で勤務もしながらプレーヤーをしていますが、いかがですか

佐々木 そうですね。うちは新卒は必ずアマチュア契約で仕事をしてもらいます。やはり社会を経験しながら(プレーを)してもらうという趣旨なので、数年やった中でしっかり大黒柱になったらプロ契約するというようなスタンスです。社会性も広げて欲しいですね。村上は十文字(高校)出身なので学園からはすごく期待されてるんですよ。その中で今後プロになるのかというジャッジができます。

 

――早大在学中の鈴木俊也選手の評価も聞かせてください

佐々木 早稲田にいるときはスタメンじゃなかったよね(笑)。

外池 そうなんですよ(笑)。

佐々木 そういう意味ではもう少し経験を積むことによって、少し時間がかかるけれどプロリーグになじむんじゃないかなぁと感じています。でも好青年でチャレンジ精神もある選手です。期待しています。外池さんが「持っていくな」って言ったのに持ってきちゃった(笑)。

外池 鈴木俊也は去年まではサブくらいの選手で本人も壁に当たって苦しんでいましたが、(大宮の)キャンプに呼んでもらって強化指定になる過程とそれ以降でかなり伸びたんですよね。意識レベルがめちゃくちゃ上がりまして、今はチームの中でもディフェンスリーダーのような立場になったので、次(大宮のキャンプに)参加する時には、もう一皮二皮剥けた姿を見せてくれるんじゃないかと思います。

佐々木 そういう意味では様々な経験ができるというきっかけづくりというかね、そういうのはすごくありますよね。

外池 女子部の動きとこのWEリーグやJリーグの姿もみんなリンクして考えているので、環境面においてもそうだと思うんですけど、同じものを描けたりとか一つの共通項ができたという意味でもつながりを生み出してるなというのは感じます。

――ありがとうございました!次回は「WEリーグ」について深く伺います!

 

(取材、編集 早稲田スポーツ新聞会 橋口遼太郎、前田篤宏)

(ア式蹴球部女子部 三谷和華奈)

 

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◆佐々木則夫(ささき・のりお)(※写真右)

現大宮アルディージャVENTUS総監督。電電公社(現NTT東日本)に入社後、NTT関東サッカー部(現大宮アルディージャ)に所属しプレー。現役引退後、大宮で強化育成、ユース監督を務める。2006年に退社し、なでしこジャパンコーチ、監督に歴任。2011年ドイツ女子W杯では、監督として日本初の優勝に導き、アジア人初となるFIFA女子世界年間最優秀監督賞を受賞。2012年ロンドン五輪銀メダル、2015年カナダW杯準優勝を獲得。

◆外池大亮(とのいけ・だいすけ)

1997(平9)年社会科学部卒業。1997年にベルマーレ平塚(当時、現湘南ベルマーレ)に入団。その後横浜F・マリノス、大宮アルディージャ、ヴァンフォーレ甲府など、計6クラブを渡り歩いた。現役引退後は電通に入社。その後スカパーに転職し、現在もスカパーに所属しながらア式蹴球部監督を務める。J通算183試合出場、29得点。

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