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アーチェリー部

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2021.03.16

【連載】『令和2年度卒業記念特集』第52回 市川遼治/アーチェリー

アーチェリー7年、まだまだ初心者

 「野球でいう甲子園、ラグビーでいう花園のような、大学生アーチャーにとって目指すべき舞台」――それが王座、全日本学生王座決定戦だ。団体戦として、学内の精鋭4人のみが戦える特別な場。その舞台に4年連続で立ち続けていたのが、市川遼治(スポ=群馬・高崎商大付)だった。

 高校で新歓ビラを最初に受け取ったことから、偶然興味を持ったアーチェリー。序盤こそ地味な練習に退屈さを感じたが、実際に弓を引くと楽しさに取りつかれた。3年春の全国高校選抜では、予選で全体2位の点数をたたき出すまでに成長する。それを機に上達を感じ始め、大学でも競技を続けたいと考えるようになった。「やるからには強いところがいい」と早大への入学を決意。大学1年で部内選考を勝ち抜き、入部3カ月にして王座への出場を決めた。

 だが、初めての大舞台は甘くなかった。雰囲気に圧倒され、本来の実力を全く発揮できない。4年生の引退がかかった大事な試合。鳴り物とその声量で、どこの大学のものかすら分からなくなるほどの応援。そんな中で代表として射つことのプレッシャーは、生半可なものではなかった。「自分が外してしまって負けた」。結果は決勝トーナメント初戦敗退。優勝を目指していたアーチェリー部にとって、あまりにも早すぎる幕切れを招いてしまった。さらに追い打ちをかけるようにケガが襲う。競技生活で初めての経験のため、調整方法も分からない。周りが上達する一方で調子が上がらないことに焦りを覚え、「現実逃避したい」とまで感じていた。

 そんな鬱屈(うっくつ)した日々は、ひょんなことから終わりを迎える。2年生に上がる直前の春、きっかけは先輩からのささいなアドバイスだった。「ちょっと親指伸ばしてみ?」アーチェリーでは人差し指、中指、薬指で弦を引き、親指はあごの下につけている。その親指の先を真っすぐに伸ばして射ったらどうか。たったそれだけだった。しかしそのアドバイスで、弓の持ち手側など、全体に感覚の変化を感じた。「1個の考え方でこんなにも変わるんだ」。今まで気づかなかったような細部まで一つ一つ意識して射つと、点数は一気に100点以上伸びた。その勢いのまま、2年生でも王座に出場。予選では自己記録を大きく更新し、全体5位の点数をマーク。翌日のトーナメントでも順調に勝ち進み、チームは3位入賞を果たした。

4年時の王座、3位決定戦で行射する市川

 変化したのは技術面だけではない。それまでは漠然と試合に臨み、毎度緊張に押しつぶされそうになっていた。だが、緊張している状況を冷静に受け止め、その瞬間に何ができるのかを考えるように。すると、試合でも練習を超えるほどの高いパフォーマンスが発揮できるようになったのだ。「いつもと違う状況でどれだけできるのかという、自分への挑戦という意味で試合がすごく楽しい」。親指の位置一つで、技術面も精神面も大きな成長を遂げた。

 3年時には主将としてチームを率いた市川。その1年は、王座予選敗退からの船出であった。競技よりも先に、幹部として、部の運営について考える毎日。自身が下級生の頃は先輩のやり方に反発を覚えることも少なくなかったが、いざ運営側に回ると、一から練習や試合の予定を組むことがどれほど大変かを痛感した。そして、王座の前哨戦の意味合いも持つ関東学生リーグ戦を目前にして、コロナ禍に巻き込まれる。先が見えない中で、どうチームのモチベーションを保つか。翻弄(ほんろう)されながらも、がむしゃらに目の前の課題に取り組んだ。

 王座に臨む前に幹部は交代となり、迎えた4度目のひのき舞台。当日の調子は悪く、理想の感覚には程遠かった。3位決定戦では、残り10秒で市川が最後の1射を射つことに。勢いに乗る相手を止められず4位で幕を閉じた。だが最後に湧き上がった思いは「楽しくできた」。出場するたびに「アーチェリーとしても考え方としても成長していけている」と感じていた王座。大役を果たし終えた市川の顔は晴れやかだった。

王座の最終セットを終え、笑顔で仲間と健闘をたたえ合った

 試合の中でもそのときの感覚に合った射ち方を積極的に試し、ベストパフォーマンスを引き出せることが自身の強み。だからこそ、引退後の試合でも市川は安定した成績を残せている。早慶戦では「引退した4年生らしい軽い弓ができあがった」と苦笑しながらも、チーム8人中トップの点数。全日本室内選手権でも、練習量は格段に落ちたと振り返りながら、前年の大会と同じ点数を出していた。アーチェリーの魅力は、同じように「その人に合った射ち方をすれば誰でも勝負できる」ところ。体格や年齢などによるアドバンテージは少なく、道具を使うため、各個人に合った調整もできる。自分を理解し、その場その場で最適な対応をすることで、結果を残し続けた4年間であった。

 市川は卒業後も競技を継続すると決めている。競技生活は8年目に入るが、自身のことをいまだに初心者だと感じているという。「いつまでたっても長年やってきた人の気持ちに追いついていない気がする」。全国大会などハイレベルな試合で上位の選手と関わるたび、自身の未熟さを実感しており、今でもアーチェリーは「憧れているというか、少し遠い存在」。しかし、まだ届いていない高みだからこそ、目指す楽しみがある。経験を積むことで、さらなる強みも見つけられる。「社会人でアーチェリーを続けていくという挑戦は、今はすごく楽しみに感じる」。市川はこれからも、頂点を狙い続ける。

(記事 朝岡里奈、写真 橋口遼太郎、朝岡里奈)

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