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ア式蹴球部

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2021.02.18

【連載】『令和2年度卒業記念特集』第18回 川端涼朱/女子サッカー

大切にしたい全てのことのために

 全日本大学女子選手権(インカレ)の2回戦が行われた三木総合防災公園陸上競技場のピッチ横。誰も予想しなかった初戦敗退を喫し、膝から崩れ落ちて肩を震わせる1人の選手の姿があった。川端涼朱(スポ=東京・十文字)は、涙の理由を「主務として、4年生として、チームを変えきれなかったことに責任を感じた」と語る。なぜそこまで強い思いを抱くに至ったのか。そして、考え続けてきたア式蹴球部女子(ア女)のあるべき姿とは何か。「ア女で、考えてサッカーをする楽しさを知った」という川端の苦悩と成長のサッカー人生に迫る。

 小学1年生の時、友達に誘われて地元のサッカークラブに入部し、ただひたすらボールを追いかけていた。4年生の時にGKを選んだのは、出場できるのが1人だけということに惹かれたからだ。軽い気持ちだったが、それからは市や県の選抜メンバーに何度も名を連ねた。文武両道で有名な十文字高校時代には、全日本高等学校女子選手権で優勝。国体にも参加した経験を持つ。だが、それをどこか冷めた目で見ている自分がいた。「勝ったとしても、それは自分の実力じゃない」。例え自分のプレーに納得できなくても、チームメイトの活躍があれば勝利することができるからだ。女子サッカー界において稀少な存在であるGKが、他のポジションより競争率が低いことにも、無意識に劣等感があった。

 早大に進学したのは、体育教諭になりたかったからだ。もちろんア女でどこまで成長できるか試したいという気持ちもあったが、試合に出たいという野心はなかったという。そのため、下級生時代は「こんな自分がチームにいていいのか」と思っていた。しかし、自分が向上することが結局はチームのためになると先輩から励まされ、気持ちを切り替えた。「今やっていることは必ず何かにつながる」と自分の理想とするプレーを追い求めた川端は、3年時にはスタメンに定着。相手の攻撃の芽を摘むコーチングと守備範囲の広さを武器に、ア女のインカレ準優勝に大きく貢献した。それでも、けがで出場できないGK鈴木佐和子(スポ=浦和レッズレディースユース)の代わりという思いがどこかにあった。「いくらやっても自分は佐和子に勝てない。ここまでの実力だな」。川端は、自分の定位置を失うことに対して、ずっと心の準備をしてきたと打ち明ける。

引退試合となった早慶戦にて、ビルドアップに参加する川端

 最高学年として迎えた今シーズンは、新型コロナウイルスの影響で異例の幕開けとなった。さらに、監督の交代で環境が一新。川端は主務としてア女の雰囲気を引き締めることに力を注いだ。時に厳しい姿勢を貫いたが、自分の発言の真意を理解してくれる仲間に支えられる。しかし、主務として活躍する一方で選手として試合に出場する機会は失われていった。メンバー外になることもあり、「勝敗を素直に感じられない立場が一番悔しかったし、苦しかった」。また、主務としての仕事に加えて、資格試験に卒業論文、教育実習の代替授業などが重なり、精神的に追い込まれたこともある。そんな時、必死にもがいていた川端を救ったのは、母の言葉だった。「そのまま全部大事にしたらいいよ。未来が不安になったり、過去を悔やんだりするけれど、結局今を大事にしないとね」。大切にしたいことをたくさん持っている自分は幸せだと気づいた川端は、一つの『答え』にたどり着いた。「自分が大切にしたい全てのことのために役割を果たす」。主務にも選手にもなり切れない自分に苦悩していたが、後輩たちを育ててチームを創る側の意義に気づいた時、自然と割り切れた。どちらも目指していいのだと。ア女以外のことも、後悔しないように全部やり切ると決めた。

 集大成として挑んだインカレの初戦。『頂』を目指したチームは敗れ、川端はア女での最後をベンチで迎えた。試合の主導権を握っていたことが、より悔しさを増大させた。「人をよく見ていて、必要な時に必要な声を掛けられる。技術も土台がしっかりしていてかなわない」と川端が絶大な信頼を寄せる守護神・鈴木を、アクシデントで欠いたことの影響は否定できない。ただ、監督やコーチ陣に追随し、自分たちで答えを見つける過程をおろそかにしていなかったか。全員がチームのことを真剣に考えることができていたのか。「学生主体で、自分たちで考えてゲームを作る」ア女の強みを生かせなかったことが敗戦につながったのではないか。だからこそ、後輩たちに伝えたい。ア女という組織は、まだ変わることができる。

 卒業後はサッカーを離れ、体育教諭ではなく一般企業に就職する選択をした。ただ、競技に別れを告げるわけではない。「いつかは指導者として戻ってきます」と楽しそうに笑った。サッカーは『人生の序章』。大切にしたい全てのことのために生きる川端涼朱には、どんな未来が待っているのだろうか。さあ、物語が始まる――。

(記事 手代木慶、写真 外部提供)

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