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野球部

2020.06.19

長谷川晶一氏特別インタビュー!【第3部】『プロ野球』―ファンクラブありきでヤクルトファンになった―

 第3部はプロ野球について。長谷川晶一氏は『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』、『プロ野球語辞典』などプロ野球に関する作品を多数執筆している。さらに、9歳時から今に至るまで一貫して東京ヤクルトスワローズ(ヤクルト)のファンであり、『文春野球コラム』などヤクルトに関する記事、作品の執筆によって多くのヤクルトファンに親しまれている。そんな長谷川氏に、今年のヤクルトの展望やプロ野球の果たせる役割、今だからこそできる新たな楽しみ方など幅広くお話を伺った。

※この取材は6月14日に行われたものです。

ファンクラブありきでヤクルトファンになった

伊藤智仁氏(左)、宮本慎也氏(右)と写真に納まる長谷川氏

――次はプロ野球についての質問になります。先ほどヤクルトファンになったきっかけという部分で、ヤクルトのファンクラブに入ったことが始まりというお話がありましたが、そもそもなぜヤクルトに興味を持たれたのでしょうか

 最初に見に行った試合が、1980年の4月26日なんですよ。日にちまではっきり今でも覚えているのですが、それがヤクルトが劇的なサヨナラ勝ちをしたゲームなんです。当時9歳でファンクラブに入ってヤクルトを応援しようという明確な意思を持って見に行って。それはヤクルトファンだからじゃないんです、順序逆なんですけど。ファンクラブに入った以上そのチームを応援しようということで見に行った試合が劇的なサヨナラホームランで、子どもながらに大興奮したんですよ。当時千葉に住んでいたのですが、その日は土曜日で、親が新宿の京王プラザホテルを取っておいて、延長戦になっても最後まで野球を見て、その後新宿のどこかでご飯を食べて、最後にホテルに泊まるという子どもながらにゴールデンコースだったんですよ。満員の電車で千葉まで帰らなくていいという。その家族みんなで行く旅行という感覚もあったし、そこでヤクルトがものすごい勝ち方をしたというところで一気にハマって、サヨナラホームランは若松(勉)さんじゃなかったのですが、そこで若松さんがかっこいいというのが刷り込まれたんですよね。

――順序が逆というお話がありましたが、ファンクラブに入られたのはどなたかのご紹介でしょうか

 当時僕は朝日小学生新聞というのを定期購読していて、その中に80年の開幕前に「いよいよプロ野球シーズンが始まる、みんなもファンクラブに入ろう!」みたいなのがあって、12球団全部の特典内容がリストになっていて。それを読んでいるときにうちの母親が「お前も入ってみる?」みたいに言ってきました。その時点でどこのチームのに入っても良かったんですが、一番テレビで見ていて知っていた巨人に子ども用のファンクラブが当時なかったんです。だから11球団しかなくて、その中で特典内容を見ていくとヤクルトが豪華だったというのが一つと、ヤクルトの帽子のカラーが青だったので、かっこいいと。青は男の色だと僕は思っていたんですね。で、カープの赤は女の色だろうと。ゴリゴリの性差別発言みたいですが。中日の水色は超かっこ悪いと思っていたんです、もっと濃い青にしろよと。そう考えた時に、神宮だと千葉から通えるというのがあって、特典内容もいいし、青は男の色だし、当時大洋(ホエールズ、現横浜DeNAベイスターズ)も青だったので大洋とヤクルトで迷ったけど、横浜スタジアムより神宮の方が千葉から近いのでヤクルトのに入ったんです。で、せっかく入ったからには見に行こうと行ったのが4月26日で、すごい勝ち方をしたというところで、ファンクラブありきでヤクルトファンになったんです。

――なるほど、色や合理性など些細なきっかけから40年のファン生活につながったのですね

 僕今言った話を一回本で書いたことがあるんですよ、そしたら朝日小学生新聞の人から連絡が来て、当時僕が見た紙面のコピーを送ってくれたんですよ。「そうか俺はこの記事を見てヤクルトファンになったんだ」と今でもすごく感謝していて。そしたら今日みたいな感じで、朝日小学生新聞の現役の読者たちから、小学生記者という制度があるみたいで、10人くらいの子供たちからインタビューを受けたんですよ。それが朝日小学生新聞の一面になった日があって、それは何か凱旋帰国したような感じでうれしかったですね。

――今名前が出たチームはセントラルリーグの球団ばかりでしたが、やはり当時はセントラルリーグが人気だったのでしょうか

 そうなんですよ、これも本に書いたのですが、当時僕の頭にパリーグは全くなかったんですよ。西武(埼玉西武ライオンズ)だって水色でしたけどかっこいいチームだなと思っていたし、日本ハム(ファイターズ、現北海道日本ハムファイターズ)だって当時は本拠地が後楽園で、千葉からは千駄ヶ谷の神宮より微妙に近かったから日本ハムファンでも良かったのに、何かヤクルトでしたね。パ・リーグは眼中になかったんだと思います。

――長谷川さんが執筆された書籍の中で『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』という本がありますが、他球団のファンと比べてヤクルトファンならではの特徴というのは何かありますか

 もちろんヤクルトファンにもいろいろな人がいますが、比較的穏やかな人が多いなと思いますね。もちろん勝負事なので勝ったらうれしい負けたら悔しいというのはあるんだけど、実際去年もそうだったけど、負け続けると精神のバランスを取る上で、あまりにも勝敗にフォーカスし過ぎちゃうと生きててつらくなってきちゃうんですよね。だから負けの中にも「高橋奎二が頑張ったから良かったな」とか、あるいは「村上(宗隆)のホームラン見られたから良かったよ」みたいな。僕が小学校の時からずっとそうなんですよ。「池山(隆寛)ったから良かった」とか「ギャオス内藤(内藤尚行)が原辰徳を三振に取った」とか、その部分にしか喜びを見いだせないというか、逆に見出せるというか。だから、勝敗に一喜一憂するけれども、浮かれすぎない、へこみ過ぎないみたいな感じの穏やかさはあるなと。

――今年のヤクルトの注目ポイントはどのようにお考えですか

 ちょうどそういうテーマで原稿の依頼が来ていて、明日締め切りなのでそろそろ書こうと思っていたんですよ。それで注目ポイントは何かなというところで整理していてまだ少し整理しきれていないのですが、僕はここ数年変わらず『高橋奎二と廣岡大志の覚醒待ち』と思っています。高橋奎二と村上、廣岡大志、このあたりの20代前半、皆さんと同じくらいの世代ですね。大学生くらいの世代がヤクルトを引っ張っていって、石川とかを楽にしてもらいたいなと。答えになっていないですね、ちょっと迷ったところなので、注目はその2人ということにしてください。

――球団の高齢化という事情もある中で若手が引っ張るべきだということですね

 そうですね、いつの時代も歴史をつくっていくのは若者だと思うので、それはどのスポーツでもそうだし、どのチームでもそうなので、ヤクルトに関していえばさっき言った2人に村上を含めた3人かなと思います。

――プロ野球という大きなくくりについて、コロナウイルスの影響で延期されていたレギュラーシーズンがいよいよ開幕を迎えます。改めて野球の魅力とはどういった部分にあるとお考えですか

 この自粛期間中にZoomで選手たち何人かにインタビューしたんですよ、ヤクルトだけじゃなく他球団も含めて。横浜ベイスターズの山崎康晃さんが言っていたのですが、「無観客試合が続いてファンのありがたさがわかった」という話をかなり熱弁していて、それと同時に「ファンがいないことによる違和感がずっと今でもある」というのと、逆に、自粛期間中は選手同士の接触も全くできなくて合同練習すらなかったのが、少しずつ緩和されて合同練習が始まって、そして練習試合が始まったという中で、「野球って楽しいな」って思ったって言うんですよ。子供の時からずっとやってきて野球の楽しさは自分の中でわかっていたはずなのに、失われたことによって楽しさがわかったと。その楽しさっていうのは具体的に、野球のルールの複雑さや奥深さももちろんあるし、単純に速い球を投げるとか遠くまで飛ばすとか、そういう原始的な。速くとか、強くとか、重くとか、遠くとか。そういうスポーツの持っている全ての魅力が備なわっているんじゃないかというような話を山崎さんとしたのですが、僕もすごくそれを思っていて。投げる、打つ、走る、取る、みたいないろんな動きが一つのスポーツの中に混ざっているという意味で、野球の楽しさや醍醐味を改めてコロナが教えてくれたような気がしますね。

――現在まだまだ日常が制限されている部分が少なからずあると思います。その中でプロ野球というものが果たせる役割というのはどのようなものだとお考えですか

 すごく大きいものがあると思いますよ。まずこれも山崎さんが言っていたんだけど、「自分たちのプレーを通じて見ている人に勇気を与えたい」と言っていたんですよ。実際に練習試合の中継を見ていると、まず単純に楽しいし、やっぱり僕はちょっと勇気が出たんですよね。ヤクルトファンだからヤクルト戦を中心に見ているんだけど、例えばテレビをザッピングしてチャンネルを変えながら、オリックスの試合とか見ていても、「T-岡田すげえな」とか、福岡のギータ(柳田悠岐)のホームランもすごかったし、全部の選手への愛情が深まったような気がするんですよね。もともとぼくは12球団全部のファンクラブに今でも入っていますから、全部の球団に愛情はあるつもりなのですが、よりそれが深まりました。確かに去年の今頃と比べたら楽しみ方というのも変わったと思うんだけど、逆に今しかできない楽しみ方というのもあると思っていて、それをどう見つけるかというのもファンのあり方として大事かなと。ないものを嘆いてもしょうがないので、できることで楽しみをどう見つけるかということですね。これは僕のライターとしての一つのポリシーでもあるんです。もちろん現状をちゃんと書くというのも一つの仕事ではあるけど、その中で夢や希望をどうやって読んでいる人たちに持ってもらえるかというのを意識しているので、山崎康晃さんが言った「野球を通じてファンの人に勇気を与えたい」というのと同じように、僕は文章を通じて勇気を与えたい。今年を振り返った時に絶対に忘れられない1年になると思うので、今年の開幕はみなさんそれぞれに楽しんでほしいなって思って原稿を書こうと思っています。

――今年はイレギュラーな開幕を迎えますが、ヤクルトのみならずいろいろな球団が、今まででは考えられなかったような連戦を戦います。ヤクルトは15連戦ホームでやってから15連戦アウェーというかたちになりますが、長谷川さんの主観的にどのような戦い方を強いられると思いますか。

 やはり連戦が続く場合は先発投手の駒がどれだけ揃っているかで結果が変わってくると思うんですよね。そう考えると先発の駒不足に悩むヤクルトにとっては少し厳しいだろうなというのはあります。これはヤクルトに限らずですが、ホームで15連戦を迎えるというアドバンテージをいかに生かせるかだと思うんですよ。これがビジターだとずっと宿泊がホテルで、しかも大っぴらに外出ができず息抜きができない状況で、ただホテルと球場の往復だけで野球をしてどんどんストレス解消ができないまま疲れだけが蓄積していくというのがいまビジターチームの置かれている15連戦のきつさだと思うんですよ。対してホームで迎えるヤクルトは文字通りホームなので自宅から通うこともできるし、家に帰って家族や恋人とのリフレッシュもできるわけだし、というところのアドバンテージをいかに生かせるかだと思うので、僕は15連戦を13勝2敗で勝たないといけないと思っているんです(笑)。で、次のビジター15連戦を、負け越してもいいけどできれば7勝8敗とかで乗り切ることができれば。だから最初の30試合で一気に決まるような気がします。今年はいつも以上にスタートダッシュの年だと思います。トータルで年間120試合といつもより20試合程度減ったということで、終盤投手を酷使とは言わないけれどつぎ込むことができると思うので、6月19日からのスタートダッシュで7月頭までにちょっとアドバンテージを持っておいて、暑い夏を何とか乗り切って9月10月のラストスパートでつぎ込んで逃げ切れないかと。だから、これは完全に希望的観測なんだけど、僕はいつもよりはヤクルトに勝ち目があると思っているんですよね。

――さっきコロナならではの楽しみ方があるというお話がありましたが、いまリモートでDAZNであったりとかヤクルトだったらフジワン(フジテレビONE)とかでいろいろな楽しみ方を見つけいっていますが、これから球場での試合が復活するにあたってファンとして球場に出向くことがどういう意味を持つのかということを考えているのですが、長谷川さんのご意見をお聞きしたいです

 無観客で始まり、少しずつ観客を増やしていくことになると思います。一説によると5千人くらい入れるという話もありますが、そうすると今まで以上にチケットの争奪戦とかが大きくなってくると思うので、チケットを手に入れた人は今まで以上に1枚の重みや価値というものが増えてくると思うし、逆に争奪戦に敗れる人もどんどん増えてくるわけですよね。まだ漠然としているし、もちろん神宮には行きたいし行くつもりではあるんだけど、たぶん人生史上一番行かない年になるんじゃないかと思っているんですよ。仮にチケットがもちろん取れたらプラチナチケットになるわけだから行きますけど、むやみやたらと僕自身が争奪戦に参加するようなことはしないと思うんですよね。それは今ご質問にあったように、今年の楽しみ方として映像で見るとか、後僕は自分の仕事がそうなんだけど、スポーツ新聞やWeb媒体などの活字で楽しむとかっていう比重が大きくなってくる気がします。いま観戦もそうだけど、取材が試合後引き揚げてくる選手や監督に記者がぶら下がりで取材をすることすらできないので、実況のアナウンサーとかスポーツ新聞の記者とかは全然選手と接触しない状態で紙面を作っています。だから取材の仕方も当然変わってくるし、選手のコメントの重みとかもどんどん例年以上に重くなってくると思うので、そこでどういう取材ができるか、どういう原稿が書けるかというふうに、観戦者としてもそうだし、取材者としてもいろいろなことが問われて試される1年になると思います。でもさっき言ったみたいに僕はそれを全然嘆くつもりはないんですよ。だからチケットが手に入らないんだったら、球場には行けないものだという中でどうファンとして楽しむか、あるいはどうインタビュアーとして話を聞くか、どんな原稿を書くかというのを挑戦しようと思っていますね。もちろん球場に行きたいしはやく例年通りに戻ってほしいけど、やっぱりいまこれだけの経験をしてしまうと、集団で人がいるという時に一瞬威圧感を覚えたりするじゃないですか。今僕は満員電車に乗っていないからわからないけど、乗ったら多分「大丈夫かな」という思いが真っ先に出ると思うんですよね。だから今まで通りに見ることができないんだったら、じゃあ新しい見方を考えよう、その中でDAZNとかフジテレビONEとかスカパーとかの重みは増すんだろうなと思います。

――楽しみ方が変わってくる中で、女子野球やBCリーグなど、生き残りが危ういリーグとかマイナーなリーグとか、あるいは他のスポーツとかも興業のあり方とかが今回のコロナの件で変わってきたと思います。プロ野球も含めて今後どういうあり方になっていくと思いますか

 やっぱりビジネスモデルの見直しを要求されていると思うんですよ。それはどのカテゴリーであっても同じで、女子プロであってもBCであってもNPBであっても、あるいはMLBであっても今全体的にそれぞれが見直しを余儀なくされている中で、どうやってお金にするかということを模索していると思います。幸いにして無観客であっても中継はあるわけだから、放映権料というものは従来通りキープできそうだと。広告収入については、球場のフェンスとかに広告がありますけど、あれも中継に映り込むようなかたちでやるのであれば今まで通りキープはできるかもしれない。問題は入場料収入と、球団によっては球場内での飲食収入ですかね、あとグッズ収入。プロ球団っていくつか収入の柱があるんだけど、その中で今まで通りキープできるものとキープできないものの選別が今行われていて、チケット収入が無理ならば、リモートの開幕戦チケットを販売してみたら僕みたいに買う人もいるわけです。球場のキャパっていうのは神宮だったら3万数千人しか入らないのが、リモートだったら5万とか10万人にチケットが売れる可能性があるわけじゃないですか。ここに活路を見出すしかないと思っているんですよね。いままだ誰も答えが出ていないから具体的な提案は僕にもできないのですが、さっき言った今しかできないことの一つが球団経営の見直しだと思っているので、BCなんかは今相当厳しいだろうけど、クラウドファンディングをやっている球団もありますし、選手個人がクラウドファンディングをやっていたりして、僕も何人かに寄付をしたりはしています。そういう個人で稼ぐとか、球団で稼ぐ、あるいはリーグ全体で稼ぐとかそれぞれのマネタイズというものを模索せざるを得ないし、しないところ、できないところは残念ながら淘汰されていくと思います。

>>第4部『ノンフィクションライター』―活字の持つ力は不滅だと思っている―に続く

(取材・編集 池田有輝、小山亜美、中島和哉 ※取材協力 早燕会)

◆長谷川晶一(はせがわ・しょういち)

1970(昭45)年5月13日生まれ。ノンフィクションライター・スポーツを中心にノンフィクション作品を執筆。主な著書に『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ9つの系譜』『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』(ともに集英社)、『幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)など多数
※長谷川氏のTwitter(@HasegawSh)より

◆早燕会(そうえんかい)

東京ヤクルトスワローズを応援する、早稲田大学中心のインカレ野球観戦サークル。86年設立。19年に現会長前田が事実上消滅していた早燕会を復活。主に神宮での観戦会や、草野球などの活動を行っている。現在、会員37名。詳しくは早燕会Twitter(@soenkaiwaseda)まで