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米式蹴球部

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2020.02.15

【連載】『令和元年卒業記念特集』第17回 柴崎哲平/米式蹴球

早稲田を背負った七年間、最後に待ち受けた苦悩の一ヵ月




「最後まで勝てないQBだったなと思います」―――。




2019年12月15日(日)、阪神甲子園球場。QB柴崎哲平副将(政経4=東京・早大学院)の涙は左目からこぼれ落ちた。


28-38。早稲田にとって6度目となった学生日本一への挑戦はまたしても関西の高い壁に阻まれた。1TD、1FG差。第3クオーター(Q)終了時点では1点差でリードしていたが、勝負の最終第4Qで突き放され、今回で通算30回目の優勝となった王者・関学大との間にある勝利の歴史の差を痛感させられる結果に終わった。結果だけを見れば悔しい敗戦だったが、一時は13点あった得点差を第3Qだけでひっくり返すなど、モメンタムを引き寄せ、観客を大いに沸かせた『闘志』溢れるプレーの数々は、多くの観客の胸を打ったに違いない。その中心にいたのは、柴崎とWRブレナン翼(国教4=米国・ユニバーシティラボラトリースクール)の学生随一のホットラインを中心とした、早大パスユニットだ。今回は、そんな早大パスユニットの司令塔にして、チームの副将も務めたエースQB柴崎が歩んだ、最後の甲子園ボウルへの険しく厳しい道のり。関東大学秋季リーグ戦(リーグ戦)優勝直後にけがを負い、痛み止めを打ちながらも悲願達成へ向けて戦い続けた男の、執念の約1ヶ月間を辿(たど)っていく。


甲子園で敗れ、試合終了後のエール交換に臨む柴崎。


2年連続の関東大学秋季リーグ戦(リーグ戦)優勝を決めた直後、柴崎をアクシデトが襲った。次の試合へ向けた練習中に利き腕である左手の薬指を負傷。指先の感覚が生命線となるポケットパサー(パス特化型のQB)である柴崎にとって致命的なけがなだけに、チーム内にも動揺が起こった。自身としても、なかなか癒えない痛みに焦りもあっただろう。そんな中で迎えたリーグ戦最終節の明大戦、そして甲子園ボウル出場を懸けた東日本代表校決定戦では、「すごい成長している」と信頼を置く宅和真人(政経3=東京・早大学院)、吉村優(基理3=東京:早実)の後輩QB二人に思いを託し、自身は甲子園に焦点を絞ってリハビリに専念した。医師からの診断は3週間の安静。完治してから練習を再開したのでは、約1ヶ月後に迫る甲子園ボウルを万全な状態で迎えることは難しい。なおかつ、チームの精神的支柱であり、攻撃の中心である創部以来初となる学生日本一を目指すチームにとって、柴崎の存在は必要不可欠だった。まだ完治していない左手に痛み止めを打ちながら、徐々に練習を再開していった。


後輩QB二人の活躍もあり、チームは東日本代表校決定戦にて東北大に快勝を収め2年連続となる甲子園ボウル出場を決めた。対戦相手は前年に同じ舞台で20ー37の完敗を喫した関西の雄・関学大。運命のいたずらか。最上級生として挑む、最後の学生日本一への挑戦は、柴崎にとって特別な相手との一戦に決まった。柴崎にとって『関学』FIGHTERSは、早大学院高時代に2回、大学でも2回日本一を懸けた舞台で対戦し、その全てで敗れてきた、まさに因縁の相手だ。「高校の時も負けさせてしまっているので、本当に色々な先輩方の思いを背負って最後に勝たないといけない」。あと一歩のところで『関学』に敗れ、日本一に届かなかったかつてのチームメート、応援してくれるファンや両親、チームに携わる全ての人々の思いを背に受け、決戦の舞台へと準備を重ねた。


そして迎えた12月15日(日)。けがは完治してはいなかったが、なんとか調整し、患部にはテーピングを巻きながら運命の一戦に臨んだ。決して万全ではない状態の中、柴崎は前半からけがの影響を感じさせないクオーターバッキングを披露し、前半最後のオフェンスシリーズでは「昨年の甲子園よりフィールドを落ち着いて見ることができてました」と、相手のミスカバレッジを見逃さず、ブレナンへ55ヤードのTDパスを通し1TD差で試合を折り返す。


柴崎、そして早大パスユニットが真価を見せたのは後半だった。後半開始早々に関学大に追加点を許し13点差で迎えたオフェンスシリーズ。ビッグリターンで敵陣20ヤード付近まで侵攻すると、「何人カバーされても決まる」(柴崎)ブレナンにしか取れないゾーンに相棒を信じて投げ込み、見事TDを奪い6点差に。4年間積み上げてきたホットラインの圧巻のプレーにスタンドからはどよめきが起こった。このプレーでリズムをつかんだ柴崎は、関学大の強力なラッシュにも落ち着いて対処し、RB高瀬滉平(政経4=東京・早大学院)へ走りながらの難しいパスを着実に通し、敵陣深くへ。最後はまたしてもブレナンへのパスを通し、第3クオーター終盤で逆転に成功。球場はこの日一番の歓声を響かせ、柴崎は拳を天に突き上げた。


けがを押して出場した最後の甲子園ボウルで数々のパスを決め観客を沸かせた


その後、チームは関学大に再逆転され甲子園ボウル6度目の敗戦となったが、ブレナンへの3TDなど会場を大いに沸かせた『闘志』溢れるプレーの数々に、感銘を受けた人々は多くいるだろう。それだけ強い勝利への思い、意志が柴崎のパスには感じられた。甲子園ボウルを振り返り、「勝てなかったことがすごく悔しいですし、勝たせられなかったことはすごく申し訳ないです。それでもこの大舞台でこんなにワクワクする試合ができたことはすごく楽しかったです。フットボール人生の中でも本当に忘れられない試合になりました」と柴崎。悲願を達成することは叶わなかったが、一時は逆転に持ち込むなど、勝利への道筋は示した。その思いや意志は、柴崎の勝利を求める姿を最も近くで見つめてきた後輩たちに引き継がれ、いつの日か、悲願の『学生日本一』へ繋がっていくであろう。


 現在、七年間背負い続けた早稲田を飛び出したサウスポーは、日本代表の選考会に参加するなど、新たなステップへ向け踏み出している。大学一のポッケトパサーから日本一のQBへ。いつかその頂に立った時、柴崎の右目から涙が零れ落ちる瞬間を、願わずにはいられない。


(記事 涌井統矢氏、写真 林大貴氏)

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