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2019.11.01

秋季早慶戦直前特集『闘将』 最終回 加藤雅樹主将

 早稲田の看板を背負い続けてきた男が、ついに最後の早慶戦に臨もうとしている。加藤雅樹主将(社4=東京・早実)。三年間にわたって4番を張り、この一年は主将も務めた。そんな『チームの顔』は、自身の大学野球ラストマッチを前に何を思うのか。野球を続けてきた理由や野球観を含め、その胸中を伺った。

※この取材は10月24日に行われたものです。

「春の良かった感覚を追い求めて過ぎていた」

――個人としての今季を振り返っていかがですか

 序盤にすごく苦しんで、チームも一緒に苦しんでしまいました。途中から自分はヒットが出始めましたけど、なかなか納得のいく打席は少なくて、苦しいシーズンだったかなと思います。

――不振の原因はどこにあったと考えられていますか

 不調というよりも、基本的なベースの実力がないのだと思います。良いときは良いけど悪いときは全然駄目、というのは実力がない証拠だと思うので。状態の振れ幅を小さくしないといけないですし、一番落ち目の状態のときでもある程度打てるようにしていかなければいけないと感じました。

――2年秋、3年秋に結果が出なかった際には、メンタルに原因があると自己分析されていましたが

 結果が出ないと周りには「気持ちが足りない」と言われることもありますし、まるでやる気がないかのように言われることも多いですが、(原因は)そこではないと思います。技術があれば結果は出ると思うので、以前は気持ち(に原因がある)と思っていましたけれど、そうではないのかな、と。平常心でいられなかったら話は別なんですけれど、(今季は)気持ちが前にいきすぎていたかと言われればそうではなかったですし、平常心でいられる打席もあったので。そこでの技術不足だと思います。

――かつては「打てない自分を責めていた」とも話されていましたが、現在は本質はメンタル的な部分ではない、と考えているのですね

 そうですね。技術や体力が一番に影響すると考えています。平常心でさえいれば、気持ちが乗ってこなくてもヒットが出ることはありますし、逆に気持ちが充実していても結果が出ないこともあるので。そう(メンタルが結果を左右する)ではないと思います。

――具体的な技術における課題はどこにあると考えていますか

 前に体が流れて、軸をうまくつくれていませんでした。それとバットには当たるのですが、基本的な芯で捉える能力が低いですし、再現性が低いです。

――再現性、というのは大きなテーマになっていると思います

 同じような球が同じコースに来たら、同じように打てるというのはバッターとしてすごく大事な要素だと思います。そういった再現性や修正力が足りていないと思っています。

――そういった課題に取り組まれる際には、一人で黙々と取り組まれるタイプですか、誰かに教えを求めるタイプですか

 自分が経験してきて思うのは、一番自分にとって実になるものは、自分の中から出てきた答えだということです。人の話を聞いて、試してみて、そこで自分が感じたことを大事にしていければいいかなと思います。

――言われたことを100パーセント受け取るのではない、と

 自分なりの答えに置き換えるということですね。人から言われた言葉がすべてというよりは、それを試して自分が感じた感覚が大事だと思います。

――今季は明大2回戦で初安打を放つと、次戦では3安打。気持ちとして楽になったのか、技術的に修正できたのか、どちらでしょうか

 気持ちとしてはいつも同じ状態で臨めていたので、変わったことはないです。技術的には、いろいろ試して修正していました。でもあのヒット(明大1回戦での適時打)は、良い当たりではなかったですか、ヒットが出ない中でいろいろ周りからも言われていた状況だったのでうれしくはありました。

――最短2試合で1カードを消化してしまう大学野球では、少し打てなければすぐに責められることも多いと思います。そういった厳しさは感じていますか

 そうですね。結果が出ないと(叱咤の言葉を)言われるという厳しさは感じます。「努力していない」「やる気がない」と言われてしまうので。それはもっともなのですが、でも苦しさはずっと感じていました。1、2年生の頃は全くなかったですが、2年の秋ごろからはずっとそうした厳しさは感じてプレーしていましたね。

――早稲田の看板を背負う難しさは、福岡高輝選手(スポ4=埼玉・川越東)も口にされていました

 福岡とはそういう話を一緒にします。下級生の時は看板選手でもなかったですし、上の代に付いていくだけというか、打てなくても自分で責任を取ればいいという感じでした。でも(主力を担うようになると)、打てなければ「負けたのは自分のせいだ」と言われることも多くなるので、それは幸せなことだと思うんですけれど、辛さもすごくありました。

――高校野球と大学野球で結果を残す難しさに違いはあるのでしょうか

 高校野球は、本当に良いピッチャーと対戦する機会が少ないので、気持ち的も技術的にも優位に立てていました。それと高校野球は個人記録があまり注目されず、とにかくチームが勝てば全て報われるような感じがあるので、「打てなかったらどうしよう」というより「どうにか塁に出なければ」という気持ちが強いです。大学ではどうしても個人的なことも注目されるので、そこが違うかなと思います。

――明大戦で安打が出た後、東大戦では再び快音なし。やはりプロ野球ドラフト会議が気になる部分もあったのでしょうか

 そうですね。どうしても気になる部分はありました。試合中はほとんど考えていないですが、始まる前は少し神経質になっていましたね。

――それでも、今季結果が出なかった要因はメンタルではなく技術であるとお考えなのですね

 結果イコール実力とは思わないですけれど、これだけ打席に立ってこれだけの内容だと、やはり実力がないのかなと思います。だからといってやってきたことが間違いだったわけではなくて、これまでやってきたことを継続していくだけなんですけれど、でもやはり情けない結果だったなと思います。

――ちなみに、今季は途中からフォームが変わったようにも見えました

 はい、いろいろ試しながらやっています。

――それはどのような理由からですか

 春は柔らかく打つことをテーマに試行錯誤しながら、楽に構えて楽に(バットを)出すことを目指してやっていました。でもそれが結局あだになったというか、秋にはその感覚で振るとバットが下がり過ぎてしまって、見逃した時点でバットが既に下がっているような状態でした。なので、それを修正するためにバットを上げて構えて、トップの位置を固定しました。

――ボールをたたく、というイメージとはまた違うものなのですか

 たたくというよりは、手を後ろに残す。バットが早く出てき過ぎないように、後ろに残して、(バットを)出したいときに一気に出す感じです。今まではバットがぼわ~っと出てきていたので、力がたまるところでためておいて、一気に出すということを目指しています。

――そうした取り組みの結果、立大戦では安打を放ちました。現在の状態はいかがですか

 悪くはない、という感じです。でもリーグ戦に入った当初に比べれば、全然良いと思います。

――修正の成果、ということですね

 オープン戦(夏季オープン戦)の間は、春の良かった感覚を追い求めて過ぎていました。春に戻ろうとしてオーバーになり、バットが出過ぎていたので。手を後ろに残すようにしてから、思い通りに打てるようになってきたかなと思います。

野球を続けているのは「好きだから」

明大2回戦では自らの一打で嫌な雰囲気を払いのけた

――主将として戦った一年間はいかがでしたか

 すごくいい経験になりましたし、光栄で幸せでした。でも同時に難しさもすごく感じましたね。大学野球は(部員)全員が大人ですし、しっかりと考えを持っているので、「これをやりたい」と言った時に「違うんじゃない?」という意見が出てきやすいです。うまく妥協点を見つける難しさがありました。

――以前「チームを無理にまとめるのではなく、各々が志を遂げられる場所にしたい」とおっしゃっていました。それに関して詳しくお聞きしたいです

 まとまろう、というと、みんなが同じ考えにならなければいけない感じがあると思います。でもそれは、甲子園という明確な目標がある高校野球的というか。大学野球はもちろん勝つということが第一なんですけれど、プロ野球に行きたい人もいれば社会人野球に行きたい人もいて、ここ(大学)で野球を終える人もいる。ベンチに入るか入らないかに関係なく、とにかく大学野球を全うしたいという人もいます。なので一人一人に考えがあることが歓迎される環境をつくることが一番大事だと思ったので、なるべく個人の考えを否定しないようにしていました。それぞれが目標を持って、それぞれが目標を達成できるような環境です。

――その理想像に向けて一年間取り組まれてきて、どれくらい理想が達成できたと感じられていますか

 思った通りになったかといえば、そうではないかもしれないです。結果は出なかったですし、辛い思いもたくさんしました。でも、それなりにチームとして良くなってきたのではないかと思っています。

――立大2回戦に勝利した際には、「良いチームになってきた」とチームとしての手応えも口にされていました

 早慶戦は慶応の全勝優勝が掛かっているので、それを止めることは早稲田にとって意義があることだと思いますし、それが達成できれば気持ちがいいと思います。やはり結果が出なければそこまでのプロセスを肯定するのは難しいと思うので、最後にしっかり結果を出したいです。

――ところで、「プロ野球選手になる事以外の野球を続けてきた理由は何ですか」と伺った際に、一言「好きだから」と答えられていたのが印象的でした。詳しくお聞きしたいです

 自分はあまりスポーツができなくて、野球が唯一できるくらいでした。なので自分が唯一得意なスポーツが野球だということ。それと、打てるようになったら楽しいですし、ヒットを打ったら楽しいです。

――そうだったのですね

 『できなかったことができるようになる』ということがスポーツの醍醐味だと思うので、それが達成されるのはすごく楽しいです。今でも越えなかったフェンスを越えられた時は嬉しいですし、そういう楽しさをすごく感じています。

――「苦しいときには未来のなりたい自分像を想像する」ともおっしゃっていました。現在はどんな理想像を描いていらっしゃいますか

 どの方向にもホームランが打てて、高打率を残せるバッターになりたいとずっと思ってやってきました。そんなバッターになれたらどんなに野球が楽しいかな、と想像していつも過ごしています。

――理想を追い求める、と

 早稲田の4番を背負わせてもらっているので、もちろん結果は残さないといけないです。結果が出ないと理想がぶれて、結果を追おうとしてしまいます。でもそれは自分の野球人生にはプラスにならないので、考えを改めました。去年の秋はいろいろ考えていましたけれど、今はそうではなくて、目先の結果でその理想がぶれないように『どうなりたいか』を考えてやっています。

――楽しいという気持ちが原点なのですね

 つまらなかったら野球はやめていると思います。つまらなかったらプロ野球選手を目指す意味もないですし、楽しいから野球を続けていたいと思っています。

「早慶戦は、本当に早稲田に入って良かったと心から思える舞台」

――早慶戦に向けた質問に移らせていただきます。まず、加藤選手は大舞台が好きですか

 どうですかね。自分は楽しいですけど、結果はうまく出ていないので。

――緊張せず楽しめるのですか

 もちろん緊張はするんですけれど、緊張しながらも幸せを感じます。野球をやっていてよかったな、と幸せをかみしめることができる場面なので、楽しいですね。

――秋の早慶戦といえば、ドラマチックな幕切れだった昨秋が印象的だと思います。今年はどんな試合にしたいですか

 一番ドラマチックなのは、10連勝が懸かった慶応から勝ち点を取ることだと思うので、それを達成できたらすごく気持ちよく大学野球を終われるのではないかと思います。

――やはり早慶戦は何度出ても心が躍る舞台ですか

 やっぱり心が躍りますし、「本当に早稲田に入って良かった」「いろんな辛い思いをしながらも、野球を続けてきてよかった」と思える舞台だなと思います。そこに立てるだけで幸せを感じる試合なので、それをかみ締めて一瞬一瞬を味わいながらプレーしたいなと思います。

――早実高から数えれば7年間着たエンジのユニフォームを着て戦う最後の舞台となります。懸ける思いはありますか

 『WASEDA』と名前が入ったユニホームを脱ぐことは正直信じられないような気持ちです。今までずっと当たり前のように着続けてきたものが本当に最後なんだなと実感するので、それをプレーで示して「最後に加藤は頑張ったな」と言ってもらえるような終わり方をしたいと思います。

――最後に、いつも応援している方に向けたメッセージと、早慶戦に向けた意気込みをお願いします

 早稲田の4番として三年、この一年はキャプテンもやらせていただいたのですが、なかなかファンの方が期待するような結果は出せませんでした。でも自分としては苦しいことも含めて幸せな三年間だったと思いますし、それでも応援してくれた方や出待ちしてくれるファンの方もたくさんいて、自分の励みでした。そういった方々の期待に応えられるような早慶戦にしたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 望月優樹)

『WASEDA』を背負った7年間を最高のかたちで締めくくります!

◆加藤雅樹(かとう・まさき)
 1997(平9)年5月19日生まれ。185センチ、87キロ。東京・早実高出身。社会科学部4年。外野手。右投左打。学生最後の早慶戦は、因縁の対決に一つの幕が下りる舞台でもあります。早実高時代に加藤主将が出場した2015(平27)年夏の甲子園以来続く、慶大・郡司裕也主将(4年)とのライバル関係です。早慶戦直前アンケートの『警戒する選手』欄には、加藤選手が「郡司。2015年夏のリベンジ」と書けば、郡司選手は「加藤。最後までやりましょう、バチバチで」と返します。15年は、郡司選手擁する仙台育英高の勝利でした。運命のラストマッチ、勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか。

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