漕艇部

« 特集に戻る

2018.04.20

【連載】早慶レガッタ直前特集『花信風』 第7回 5:伊藤大生

2017年、4月16日。晴れ渡る隅田川に『紺碧の空』が響き渡った。接戦を制し、6年ぶりに早慶レガッタで勝利した早大対校エイト。伊藤大生(スポ4=埼玉・南稜)も、その歓喜の渦の中心にいた。あれから一年。まったく新しいクルーで挑む伝統の一戦を前に、主将になった伊藤は何を思うのか。その胸中に迫った。

※この取材は3月11日に行われたものです。

一人一人に寄り添う主将

穏やかさに定評があり、監督からの信頼も厚い

――主将就任から半年近く経ちますが、この半年を振り返ってみていかがですか

やることが全然違くなったな、というのがあります。漕手やってたときは練習時間に漕いで、それ以外の時間は何もなかったんですけど。今だと練習以外の時間にも練習メニューを組む必要があったり、練習が終わってからもそのフィードバックをまとめたりしなくてはならなくて。ボートに関わる時間が増えたかなという風には感じます。

――それは主将の仕事なのですね

そうですね。最上級生の仕事としてクルーリーダーというのもやるようになって、主将としては週の予定の骨組みを作る仕事もあります。細かいところは監督が決めるんですけど、そこで少し主将としてやることは増えたかなという感じです。

――主将の仕事はやはり大変ですか

そうですね。毎回みんなの疲れ方とか、今の技術がどこまで進んだかというのも見ながら組み立てるので、たまに1時間くらい長くなっちゃうことはありますね。

――主将になってからご自身の中で意識の変化などはありますか

そこは特にないかなと思っていて。僕自身1年生の頃から『挑戦』という言葉を信条にしていて、そこを買われて主将になったという感じがしているので。そういう点に関してはあまり変わったところはないと思います。

――理想の主将像はどんなものでしょうか

みんなからこういう主将でよかったと思われるような主将になるのって難しいと思うんですよ。1つのことを言っても、みんなそれぞれいろんな捉え方があると思うので、大勢の前で一言バンッと言うよりも、皆に寄り添って、一人一人と話していけるような主将になりたいと思ってます。

――漕艇部には大勢の部員がいますが

そうですね。部員が60人近くいるので結構大変だとは思うんですけど。やっぱり部で決めた目標があるので、そのためだったら多少大変でも自分がやっていく価値はあるのかなぁと思います。

――内田達大前主将(平29スポ卒=山梨・吉田)とご自身を比べて似ている点や異なる点はありますか

似ているなぁと思うのは、お互いに一人で漕ぐと力があるという点ですね。僕は内田さんには敵わないんですけど(笑)。内田さんはシングルスカルでジャパン選考を勝ち上がるくらい強くて、僕はそれになれるかなれないかくらいのところなんですけど。個々の力があって、それをいかにチームに還元していくかという点が似ているのかなと思います。違う点は、周りとどう接するかという点だと思います。内田さんは周りにすごく厳しい方で。まぁ当然なんですけど。練習に関してもすごく厳しい方だったんですが、僕は練習を厳しくというよりは、練習も楽しんでやろうというところを大事にしていて。どんな厳しいことでも楽しくやらないと続かないし、その日の達成感もまたちょっと変わってくると思っていて。やっぱりこの時期早慶レガッタが近くて、練習もハードなんですよ。距離が長くて、その中で厳しくやって雰囲気が悪くなるよりも90%くらいの力をずっと継続できるように楽しんでできるなら、そっちの方が僕はいいかなと思っているので。今までよりは楽しくやっているというのが違うところですね。

――新体制になってから部の雰囲気はいかがですか

基本的には新体制になったといっても4年生が抜けるだけなので、あまり大きく変わらないかなとは思うんですけど。やっぱりリーダーというか、主将と副リーダーの副将、それと主務が入れ替わるので、そこは違ってきているかなと思います。去年は物事を全体に向けてはっきり言う人が多かったんですけど、ことしは個別に呼んで、ひとつずつ課題を直していくという感じにしてます。なので、ちょっとだけ静かになったかな、とは思います(笑)。

――練習の際の教え方なども変わりましたか

それは変わりましたね。漕ぎ方ひとつとってもみんな違って、今もっている課題もそれぞれ違ってくるので。練習していても、お前はここを直さなきゃいけない、君はここを直さなきゃいけないというのが違うので、自分がクルーになった時に意識してるのが、クルー全体で一つの課題を持って、もう一つ個々の課題を持つ、二つの課題を常に持って練習するということです。課題が三つや四つになると意識が色々なところに分散しちゃうんですけど、二つならみんな意識できるので。そういう感じで取り組んでいます。

――伊藤大選手から見て共に最高学年になった同期の方々に意識の変化はありますか

やっぱりやらなきゃな、と皆が自覚してきているようには感じますね。4年生だとなんとかリーダーになることが多いんですね。僕はもちろんですけど、トレーナーやコックスも4年生がリーダーを務めるので、自分がやらなきゃいけないという自覚はしてくれていると思います。自分が知らないところで後輩の指導とかしてくれていたり、僕のやりやすいように皆やってくれているかなと感じることがあって、すごく嬉しいです(笑)。

――後輩の皆さんについてはどうですか

最近だと次に入ってくる新入生が練習に来ていて。それを見ていると、今まで一番下の代だった次の2年生の、先輩としての顔がちょっとずつ見えてきています。次の3年生も部の運営のことをすこしずつ考えられるようになっていきているなという風には思いました。

――部員の中ですごいな、と思うのはどなたですか

それぞれ項目で考えるといっぱいいるんですけど(笑)全体としてすごいなと思うのは二人いて。一人は主務の深津(陽平、法4=東京・早大学院)で、あいつはマネジャーなので、目立つところでの活躍は無いんですけど。自分が主将になって深津とはよく話すようになって、早慶レガッタのことだったり、その他の部のことだったり、なんでもわかってるんですよね。例えば、お金の管理とかもマネジャーがしているので、急に予算とかの話になっても何でも答えられたり、部のことが何でも頭に入っていて、こいつはすごいんだなぁと思いますね。

――もう一人はどなたですか

もう一人は井踏(直隆副将、文構4=東京・早大学院)です。今第二エイトのクルーリーダーをやってるやつなんですけど、あいつは本当に人を見る目があって。例えば部で悩んでる人間がいたらいち早くわかるし、ちょっと問題が挙がったらそれが大きくなる前に収められるような人間です。観察力が優れていて、全然僕が気付かなかった問題点も解決してくれています。問題を発見して報告をするんじゃなくて、発見して解決してから報告してくるんですね。もうやっておいたから、みたいな感じで(笑)。助かってますね。

――そんな井踏選手の乗る第二エイトも安心ですね

そうですね。4年生で乗っているのは井踏だけなんですけど、全然心配なく任せられますね(笑)。

『強い選手』への挑戦

――ご自身の強みはどのような点だと思われますか

自分の強みは一年生の時から継続している挑戦者であることかなと思っていて。もう守りに入るような立場ではないんですけど、挑戦してこその成長があると思っていて、それがワセダ全体に広がってきている気がします。

――技術面の強みについてはいかがですか

僕は部の中でこれだけは言えるんですけど、体力だけは一番なんですね。エルゴメーターなら誰にも負けないという自信を持ってやっています。あとはシングルスカルですね。これも部内では絶対に負けない自信があります。エイトになるとスイープなんですけど、スイープでもそれを発揮できればなと思ってやっています。技術になると、2人以上で乗るスイープだとわからないんですよね。技術と速さという点で自分がどれだけ影響させているのかがはっきりわからないんですけど、自分はバウサイドでは一番であるという自信を持ってやっています。

――こういう選手でありたいという理想はありますか

ざっくり言うと強い選手になりたい、と思っています。強いって一言で言ってもいろいろあると思うんですけど、みんなからこの人は違うなと思われるような選手になりたくて。女子主将の米川(志保、スポ4=愛知・旭丘)とかはめちゃくちゃ努力家なんですよ。まだ23歳以下のカテゴリであるにも関わらず、シニアの代表を十分狙えるくらいの選手なんですけど、それでも部で一番の努力家なんですね。だから彼女は速いから、とか思う人はいなくて、努力してるから速いんだと皆からは思われていると思うんです。それも一つの強さだと思っていて、自分も努力して力を付けて、伊藤さんは強いな、と思われるようになりたいですね。主将としてではなく、個人として、あの人は強いんだなと思われる選手になりたいです。

――食べることに関してこだわりなどはありますか

高校生の時とか、去年とかと比べても量が食べられなくなってきたので、自炊もするんですけど、食べるものの質を良くしています。少しでも美味しいものを食べようとするのがこだわりですね。

――昼食は当番制なんですか

あ、違います。きょうもそうなんですけど、お昼は寮としては出ないので。個人で作ってます。僕もその一員で、お腹空いたなぁって時にちょっと良い物を買ってきて、それで作って、みたいな感じです。

――オフのときは何をされていますか

僕は溜まった録画を見て過ごしてます。僕テレビ好きなので(笑)。今は就活が入ってきててあんまり見られてないんですけど、平日は練習して、疲れたから寝るみたいな感じで過ごしているので、録画が溜まっていくんですよね。で、日曜の夜までテレビを見て、次の日ゆっくり起きて、またのんびりしながらテレビ見て、って感じの暮らしが好きです(笑)。あと結構インドア派なんですけど、アウトドアも好きで。予定があればその時は外に出てます。冬場はあんまりですけど、夏場はよく出てますね。

――夏場は何をされるんですか

ロードバイクを持っているので、思い切って遠くの方まで出かけたりします。秋になると荒川をずっと下って行って、海だけ見て帰ってくるとかやってます。片道25キロくらいあるんですけど(笑)。

――もし長期オフが取れたら何をしますか

長期オフが取れるとよく旅行に行くんです。去年も北海道と大阪に行きまして。長期オフになると遠くに行ったりしますね。行くとこは結構思いつきなんですけど。北海道の時は海鮮丼が食べたいって理由で行って、大阪は行ったことないから行きたいみたいなノリで(笑)。部のメンバーで行きました。

主将として迎える早慶レガッタ

――数ある大会の中で、伊藤大選手にとって早慶レガッタとはどのような位置づけですか

夏に向けての大事な一戦なのかなと思っていて。やっぱりシーズンの最初の一戦ってすごい大事で。これによって夏までどういうクルーができるかちょっと見えてくるんですね。練習ひとつ取っても新体制で初めてエイトを組んで、今までと違うところがいっぱいあったので。自分たちの良さがどういうところなのかがわかる大会かなと思います。あと、出場するクルーがワセダとケイオーの二つしかないので、勝つか負けるかがはっきり分かれているんですね。その中でいかに相手に勝つかというのがとても難しくて。ケイオーって本当に強いんですね。そしてことしは出られた状態から始まるので、そこをどう差して、どう勝ちに行くのかが難しい大会だと思います。

――昨年の早慶レガッタではご自身も対校クルーに乗って、完全優勝を果たしました。その時はそう思われましたか

去年のレースは本当にしんどくて(笑)。楽しかったんですけど、接戦だったので。去年は色んなことを想定して、それが形になったレースだったなと。今まで負けてきていたので、その悔しさをやっと晴らせたかなと思いました。漕いでて、ちょっとでも出たら「行ける!行ける!」って皆が思っていて。今振り返るとすごくしんどくて、すごく楽しいレースだったなと思います。

――完全優勝を果たした翌年ということで、周囲からの期待も高まっているかと思いますが、プレッシャーはありますか

プレッシャー自体はあまり感じてないですね。特に僕は、絶対に連覇って言葉を使わないようにしていて。去年は対校クルーに4年生が6人乗っていて、それが全員抜けてことし対校に乗ったことがあるのが、自分と鈴木大雅(スポ4=埼玉・県浦和)ってやつくらいなんですね。あと一個下の堀内(一輝、スポ3=山梨・富士河口湖)がいるんですけど、ことしは第二エイトなので。対校エイトに引き続き乗るのが自分と鈴木大の二人なんですけど、その状態で連覇しろっていうのは、僕の中で違うような気がしていて。ことしのメンバーで、自分たちの力で勝つというのが大事だと思ってます。ここも挑戦ですね。なのでそんなに、勝たなきゃっていうプレッシャーは無いかなと思います。

――ことしのレガッタに向けてはどのような点を意識して練習されていますか

意識しているのは、やっぱりいかに艇速を出すかというところで。エイトって9人も乗っているので、最初と中盤と最後とでタイムが結構違うときもあるんですよ。それをどう無くしていくかというところですね。毎回の練習でタイムにこだわるという点ですね。

――ことしの対校クルーをどういう集団にしていきたいですか

部で一番輝いている存在というか、強い存在というか、そういう風にしていきたいなとは思っていて。やっぱり対校だからといって周りの部員からひとつ離されて置かれちゃうと、夏に向けて部全体として強い集団にはなれないと思うんですね。対校に乗っていないメンバーもあんな対校に乗りたいと思えるような対校でなければ、夏のインカレ(全日本大学選手権)で複数のメダル獲得という目標は達成できないと思うので。対校メンバーが頑張って練習して、それを見て周りの部員があのクルーに乗りたいと思えるような集団にしていきたいと思います。

――今の対校クルーの長所や課題はどのような点ですか

長所としては、さっきも言ったんですけど楽しくやれていることだと思います。毎回の練習でポジティブにやれているかなと思うので、それはいいことかなと。課題はいっぱいあるんですけど、まだまだ技術不足なのかなぁというところですね。まぁ伸びしろがあるという捉え方もできるので、クルーにはそう言っています。

――ことしの慶大の印象は

強いと思っています。

――早慶レガッタを行う隅田川は波がとても高いですが、その点についてはどう捉えていますか

隅田川では二回漕いでますけど、2年前の一回は落ちているので、コースで漕ぐのとは比べ物にならないと思います。意識する点としてはストロークの海靖(田中、スポ2=愛媛・今治西)に合わせて漕ぐという点が本当に大事だなと思います。穏やかなコースでちょっとでもズレているようでは隅田川では大きいズレになってしまうので。小さなズレも無くしていかないといけないのが隅田川の特徴だと思いますね。

――早慶レガッタは漕ぐ距離も通常のレースより長いですが、それについては

距離については、漕いでいるといつの間にか半分過ぎていたりするんですよね。隅田川って本当に荒れているコースじゃないですか。あの中でずっと漕いでいると、いくつかある橋にすぐ着いて、また着いた、あ、もう半分だって勢いでやってるんですよね。距離が長いとは感じるんですけど、漕いでいるとそんなに気にならないです。

――では最後に早慶レガッタへの意気込みをお願いします

こういう質問が僕一番苦手で(笑)。意気込みとしては、挑戦者として自分たちのメンバーで最高の勝利を目指す、ということですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 坂巻晃乃介)

色紙には入学当初からの信条である言葉を書いてくださいました

◆伊藤大生(いとう・だいき)

1996年(平8)9月13日生まれ。身長180センチ、体重72キロ。埼玉・南稜高出身。スポーツ科学部4年。何事も楽しく続けることが信条と語った伊藤選手。完全優勝を果たした昨年の早慶レガッタも、すごく楽しいレースだったと振り返ります。ことしもレースを楽しみ、最高の結果を残せるか。期待がかかります!

« 特集に戻る