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2017.03.21

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第63回 岸浪卓志/サッカー

人生を懸ける場所

 「人間的に信頼できること」。この姿こそが、岸浪卓志(社=東京・早実)がア式蹴球部での4年間で追い求め続けてきた、理想のGK像である。ピッチの後ろから仲間を鼓舞し勝利に貢献したい、何よりもチームのためにプレーしたいという、岸浪の性格がよく表れている言葉だ。しかし、その熱い思いとは裏腹に、スタメン争いでは苦しみ続けた。それでも、ア式で過ごす最後の1年は、副将としてチームをけん引する立場となることを選択する――。誰よりもア式を愛した男は、何を思い4年間を過ごしてきたのだろうか。

 早実高からの内部進学で早大へ入学。大学まではサッカーをやりきろうと決めていた岸浪は、ア式蹴球部の門をたたく。活躍を夢見る岸浪だったが、入部後まもなく、大きな挫折を味わうこととなる。高校生の時は強みだと思っていたプレーが、大学では通用しないことを痛感させられたのだ。試合でミスを繰り返すあまり、仲間からも冷たい視線を向けられる日々。この状況に危機感を覚えた岸浪は、技術では周りに勝てない自分が、チームから信頼される男になるためにはどうすればよいのかを考えた。そして出した結論は、自分が努力する『姿勢』を見せるということだった。毎日自主練習に励み、必死に食らい付こうとする岸浪を、次第に周りは認めるようになったという。この時期を「苦しかったけど、自分の土台になったと思う」と振り返った。

誰よりも熱く、率先してチームを盛り上げた(写真右から2番目)

 そうしてア式での時は流れ、3年時にはリーグ優勝を経験する。出場機会こそなかったものの、当時の気持ちを「安堵(あんど)したし、うれしかった」と語る。もちろん、試合に出場できずベンチを温める日々にはやりきれなさも感じていた。しかし、重圧に打ち勝ってきた仲間を知っているからこそ、何よりも喜びが大きかったという。それだけに、4年時の2部降格のショックは大きかった。「いい経験だった、なんて言いたくない。その一言で片付けてしまうと、そこで全てが終わってしまうから」。ア式に対して何か還元しなければならないと語る岸浪の表情からは、責任感が強く感じられた。それは、副将としての役割でもあった。

 副将には自ら立候補して就いた。その背景には、自分が後輩たちに刺激を与え、チームを勝利に導きたいという思いがあった。「試合に出ていないのに、副将になっていいのか葛藤もあった」と言うが、それでもやはりチームに対する思いが上回ったという。目指したのは、1年時に主将だった中田航平(平26スポ卒=横浜F・マリノスユース)のように、冷静に物事を分析し指摘できるようになること。しかし、現実は『降格』という結果に終わる。理想を体現することはかなわず、達成感はほぼないと、悔しげに語った。

 「人生を懸けるべき場所」。岸浪はア式蹴球部をこう例えた。これほど環境や仲間に恵まれた場所は他にはないと言う。結果が全ての世界だからこそ、人生を懸けてやりきってほしいと、厳しくも愛のあるエールを後輩たちに送る。「ことしは(リーグ戦で)上がってもらわないと」。最後まで『副将』としてア式の勝利を願う姿が、目に焼きついて離れなかった。

(記事 山下夢未、写真 篠原希沙)

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