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2017.03.21

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第62回 小林大地/サッカー

ふたつの涙

 小林大地(スポ=千葉・流通経大柏)の脳裏に焼きついて離れない試合がある。2015年5月9日。関東大学リーグ戦(リーグ戦)前期第8節、早慶戦。6試合勝ち星から遠ざかっていた早大は、最下位に沈んでいた。まさに瀬戸際。チームの命運を左右する重要な一戦に、当時3年生だった小林は、ダブルボランチの一角として先発出場した。

 「自分のせいなのではないか」。チームの不振に対し、責任を感じていた。それでも身を奮い立たせ臨んだ、人生初の伝統の一戦。チームは小林のアシストから奪った1点を守りきり、1−0で勝利をもぎ取った。試合終了のホイッスルが吹かれた瞬間、小林は泣いた。自信をなくし、不安だけが支配していた小林の心に、一筋の光が差し込んだ。「あの試合がなければ、間違いなく自分は変わっていない。あの試合がすべてを変えてくれた」。この一勝はチーム全体にとっても、失われていた自信を取り戻すきっかけとなった。始まった快進撃。次々と勝ち星を積み重ね、19年ぶりのリーグ制覇を達成した。

勇猛果敢なプレーで主力を担い、リーグ制覇に貢献した

 満を侍して臨んだ最後のシーズン。「苦しすぎ。毎日が苦しかった」。結果がなかなかついてこない。最上級生としての重圧。徐々に気持ちのバランスが崩れていく。プレーしていても、あっという間に息が上がってしまう。「サッカーがつまらない」。そんなことを思ったのは、人生で初めてだ。気づけばスタメンの座を後輩に奪われ、募っていくのは焦りばかり。夏のアミノバイタルカップではスタメンの座を取り戻したものの、今度は決勝で足首を負傷。3日後に迫っていた早慶定期戦にも出られなかった。「本当に出たかった。みんなに成長した姿を見せたかった」。ピッチの外からチームメイトを眺めることしかできない。1万人の大歓声を聞いても、空虚な気持ちになるだけだった。

 2016年11月5日。リーグ戦後期第10節。2−3で敗れ、12年ぶりの2部リーグ降格が決まった。ツートップの一角としてスタメンに名を連ねた小林は、その瞬間をピッチの上で迎えることになった。「ピッチでは絶対に悔し涙は流さない」。昔からそう心に決めていた。それでもこのときだけは、こみ上げる悔しさを抑えることができなかった。とめどなくあふれ出る涙が、頬をつたって芝の上にこぼれ落ちた。

 じっくりと時間をかけて、苦しかった最後のシーズンを思い出す。ゆっくりと丁寧に、頭の中で時間を巻き戻していく。「本当に、本当にみんな一人ひとりが必死にがんばっていたと思う。同期も後輩たちも、全員が自分にできることを考えて行動していたと思う。それでもやっぱり足りなかった。そういうことだと思います」。無念さをにじませながら、小林は振り絞るようにして言葉を紡ぎ出した。

 すでに新たな挑戦はスタートしている。J3昇格を目指す東京武蔵野シティFC(JFL)の一員として、これからも日々サッカーと向き合っていく。「Jリーガーになった同期と、またいつか同じピッチに立ちたい。自分が挑むすべてに対して、100%の力を注ぎ続けます」。

 小林大地。次に流すのは、歓喜が生み出す涙か、それとも悔しさが生み出す涙か。

(記事、写真 栗村智弘)

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