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2017.03.20

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第60回 山田紅葉/女子サッカー

情熱の主将

 全日本大学女子選手権(インカレ)連覇という快挙を成し遂げたア式蹴球部女子(ア女)。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、人一倍安堵の表情を浮かべていたのは山田紅葉(スポ=東京・十文字)だった。とめどなく流れる涙の裏には、主将として計り知れない重圧と戦い続けた苦悩の日々があった。

 小学生の頃、兄の影響ではじめたサッカー。中高は強豪・十文字学園で研さんを積んだ。転機が訪れたのは高校2年生で出場した皇后杯全日本女子選手権関東予選の時だった。対戦したア女のプレーやチームの空気感に一目惚れした山田はいままで選択肢にはなかった早大に進学することを決意。そして約1年半後、山田のア女での4年間がスタートした。とにかく大きな先輩の背中を追い続けた1年生。同期や先輩の支えを強く感じた2年生。1つ上の先輩のためにピッチ内外で尽くした3年生。数えきれないほどの思い出の詰まった3年間はあっという間に過ぎ去り、ラストイヤーとなる今年度は主将に就任。しかしこの『主将』という肩書きの重さは想像を絶するものだった。

喜びを爆発させる山田(写真中央)

  「似合わないけれど、とにかくやるしかないという感じだった」。チームを引っ張るよりも支える方が向いていると感じた高校での経験からか、主将になってから生まれた心の迷いは日を追うごとに膨らむばかり。チームの雰囲気も良くならず、何もかもが上手くいかないという最悪の状況だった。

 そんなどん底から山田を這い上がらせたのは、ともにさまざまな苦難を乗り越えてきた戦友だった。ある日、同期の1人と本音をぶつけあった。「きついのは自分だけじゃないと気づくことができた。これまでは熱いことを言ってもかわされてしまうんじゃないかと思ってあまり言わなかったけれど、人からどう思われるかを気にしている場合じゃないなと。私には同じ思いをもってくれている仲間がいるんだから他人に何を思われてもいいんだと吹っ切ることができた」。主将となり、なかなか消えることのなかったわだかまりがなくなった瞬間だった。これ以降、色々な人と積極的に会話をして、チームにも包み隠さず熱く語りかけるようになった。そしてその想いは確実に後輩へと伝わっていた。インカレでのインタビューで後輩たちが「4年生のために戦った」、「感謝しかない」などと口にする姿を、後日テレビ越しで見たという山田。「テレビを見て泣きました。全然直接言わないんです。みんなツンデレなんですよ」。そう照れくさそうに、そしてうれしそうに笑った。チームメイトから信頼され、愛されたキャプテンの姿がそこにはあった。

 偉業を達成したばかりだが、山田はすでに次の目標に向かって歩み出している。「後輩の木付(GK木付優衣、スポ3=ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)の存在が大きかった。このままだとまずいと思った」。ポジション争いをする中で、苦手を克服しようと必死に練習したことで自分の成長を肌で感じた。自分にはまだ伸びしろがある、この自信が山田を突き動かしたのだ。新天地に選んだバニーズ京都SCでの目標は試合に出場してチームを昇格させることだという。情熱でチームを引っ張ったア女の主将。チームは変われど、山田らしい熱いプレーで、言葉で人々を魅了するに違いない。

(記事 篠原希沙、写真 新庄佳恵氏)

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