その他

« 特集に戻る

2017.03.05

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第43回 永井里佳/軟式庭球

貫いたその先に

 ことしのスローガンとして掲げた『貫輝』。ワセダの戦い方を貫き輝き、支えてくれる人に歓喜を――。全日本大学対抗選手権(インカレ)決勝、永井里佳女子主将(スポ=東京・文化学園大杉並)のプレーはまさにそれを体現したかのようだ。「この子たちと勝ちたい」。新たに芽生えた思い、そして誰よりも強い勝利への意地に突き動かされる永井の姿は、見ている者の心を揺さぶった。

 トップレベルの選手と同じ環境に身を置くためワセダに入学を決めた。練習中や試合中、自分にないものを持っている部員を見つけては吸収しようと常に目を光らせていたという。自分をマイペースだと言う永井は部員の主体性を重んじるワセダでの練習の中、現状の自分に満足することなくレギュラーの座を虎視眈々(こしたんたん)と狙い続けた。2年の夏、応援としてベンチから見つめたインカレでは3連覇がかかる場面で女王ワセダが打ち崩されるのを目の当たりにする。ワセダの優勝を確信していただけに、決勝で日体大に敗北したことは衝撃的であった。しかし、目の前の状況にただ悲観的になるのではなく「次は絶対に負けたくない」という勝利にこだわる気持ちが同時に生まれ、逆襲に向けてひたすら練習に打ち込んだ。王座奪還を目指して臨んだ3年時のインカレでは念願叶いレギュラーとして出場を果たす。順調に勝ち上がって迎えた決勝で、再びワセダは窮地に立たされてしまった。誰もが昨年と同じシナリオを思い浮かべる中、勝利の行方を託された小林奈央(平28スポ卒=香川・尽誠学園)のミスを恐れず攻め続ける姿に感銘を受けたという。目に見えない重圧や様々な感情が脳内を支配する中でも、割り切った冷静さで勝負に向き合う背中を見ながら、永井はこれからの自分の試合との向き合い方に重ねた。試合は大どんでん返しの末、ワセダが頂点に返り咲く。3年時のインカレを印象に残った試合の一つだと振り返った永井。このインカレでの経験が主将・永井としての姿に生きているに違いない。

攻める姿勢を貫く永井

  インカレ後、永井が率いるチームワセダが始動した。インカレ連覇達成への熱い思いが湧き上がる一方で「負けたらどうなってしまうのだろう」と大きな不安が一気に襲いかかってきた。絶対エース小林を含む4年生の引退でレギュラーメンバーは総入れ替えとなり、技術面で劣ってしまうことは明らかだ。そう考えた永井は同期と話し合い、チーム力でインカレ連覇を目指すことに決めた。4年生でレギュラーは永井のみ。チーム全体の気持ちをインカレへ向けるためには後輩との信頼関係を築き上げる必要があった。全体を変えるにはまずは自分から変わらなければならない。今まで後輩と関係を築こうとしてこなかった永井だが、チームづくりのため積極的に後輩に話しかけていった。ミーティングに重きを置き、後輩の意見をありのまま引き出せる方法を試行錯誤しながら、常にお互いの気持ちを共有することを心がけた。

 女王として恥じない結果を残すことは簡単なことではない。全国の大学が打倒ワセダを掲げ、守りを捨てて攻めてくる。その攻撃に動揺することもしばしばあった。連覇がかかる試合も数多くあり、勝って当たり前だという周りからのプレッシャーを感じずにはいられなかった。しかしプレッシャーに縛られて自分を見失っては意味がないのだ。「上の代が勝ったからって勝とうと思わなくていい。自分たちの代は自分たちのテニスをしよう」。そう無理やりにでも割り切ることで試合中はプレッシャーを吹き飛ばし、自分のプレーを出し切ることができた。インカレまでの大会を破竹の勢いで勝利を挙げる。同時にチームの信頼関係が深まってきているのを感じていた。その証拠に後輩の口からは「永井さんのために勝ちたい」「4年生を勝たせてあげたい」という言葉が聞こえてくるようになる。今まではチームの中の自分のことだけを見つめてきた永井だが、主将という立場からチーム全体のことだけに全神経を注いだラストイヤーに、「このチームで勝ちたい」、そう自身も思えることが何より嬉しかった。チームの信頼関係は万全だ。最高の状態でインカレを迎えた。危ない局面は何度も訪れたが、「チームワークで乗り越えられた」と永井は振り返る。コートに立つ選手だけではなく、22人の部員全員がお互いのために全力を尽くせる関係があったからこその結果だった。インカレ連覇という形で永井の努力は見事証明されたのだ。優勝の瞬間、喜びよりも安堵の気持ちが大きかったという。ワセダの主将はそれほどまでに重荷であったが、いかなる状況下でも自分を保つ芯の強さ、忍耐力、信頼しあうことの大切さ、そしてなにより一つのことを成し遂げる達成感を得ることができた。

 この先競技は続けない可能性の方が大きいと言う永井。ソフトテニスはどのような存在であったか問うと、「それがなくなったら全部自分が空っぽになってしまう」とぽつりと答えてくれた。引退したらまた別のものに夢中になれば良いと楽観していたが、想像以上にソフトテニスが自分の一部となっていた。楽なことばかりではなかったが、人と違う強みをいくつもソフトテニスが作り出してくれた。今までの経験を生かして今後も『貫輝』というスローガンのごとく自分を貫き通し、輝く永井の姿がきっとあるだろう。永井の第2の人生が幕を開ける。

(記事 栗林桜子、写真 吉澤奈生)

« 特集に戻る