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2017.02.27

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第35回 佐藤未来/ハンドボール

強くなるために

 「悔しい。でも、すべてを出し切ることができたと思います。後悔は全くありません」

 最後の公式戦となったインカレの試合後。佐藤未来(スポ=東京・文化学園大杉並)は、淀みない口調で力強くそう答えた。敗れたことへの悔しさはもちろんある。しかし、それ以上に込み上げる達成感のようなものが、佐藤の心を包み込んでいたに違いない。屈託のない、透きとおるような表情こそが、何よりもの証拠である。

  早大女子部のキャプテンを務めるということ。それは想像をはるかに上回るプレッシャーとの戦いだった。特に神経をすり減らしたのは、毎日休むことなく練習メニューを考えることだった。限られた練習時間をチーム全員にとって有意義なものにするため、自分なりにメニューを考案し、その意図をわかりやすく、的確に伝える必要がある。「毎日が手探りでした」。重圧と疲労が重くのしかかる。週に一度のオフでさえも、頭の中は翌日の練習のことでいっぱいだ。練習が迫ってくると腹痛に襲われることも幾度となくあった。気がつくと、チームを強くしたいという気持ち以上に、重責を担うことに対するストレスの方が大きくなってしまっていた。

 満身創痍のなか、救いとなったのは中学時代の恩師・尾石智洋監督の言葉だった。「失敗を恐れていてはいけない。だめだったらすぐに切り替えて、次に進めばいい」。自分のやっていることが本当に正解なのかどうかなんてわからない。だからこそトライし続ければいいんだ。うまくいかないことがあったとき、この言葉を思い出し、「またあした。切り替えればいい」と自分に言い聞かせた。そしてもう一つ、ギリギリのところで踏ん張れたのには理由がある。中高時代、同じくキャプテンを務めていたときの苦い記憶だ。「自分のことばかり考えて、チームのために必死になるということが、全然できなかった。それがものすごく心残りでした。大学でもしキャプテンをやれたときは、自分じゃなくてチームのために全力を尽くそうと決めていました」。心に刻み込んだ、ひとつの誓い。曲げられない信念を内に秘めていた。

リーグ最終戦、ベンチから熱のこもった言葉を送り続けた(写真左)

 9月に行われた関東学生秋季リーグ。前日の試合で負傷した佐藤は、最終戦に出場することができなかった。その無念さがいかに大きなものであったかは、想像に難くない。だが、佐藤は現実をしっかりと受け入れ、たったいま何をすべきかということだけを考えていた。「チームのために何ができるのか。とにかく勝つために自分ができることをしっかりやろうと、それだけを考えることに必死になっていました」。ベンチで思わず立ち上がり、声が枯れるまで一人ひとりに声をかけ続けた。周りが見えず、自分のことにしか必死になれなかった過去の佐藤は、もうそこにはいない。何よりもチームのことを最優先に考える。ゆっくりと着実に、キャプテンとしての意識に変化が生まれていた。

 思えば、すべての始まりは、「どうせやるなら強いところでやれ」と背中を押してくれた両親の言葉だった。その言葉があったからこそ、恩師と出会い、ワセダに進み、唯一無二の経験を積むことができた。「だからこそ、家族には本当に感謝しています。負けたときは、私よりもお父さんの方が機嫌が悪いんです(笑)」。そういって、茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。そして、最後は少し照れくさそうに、感謝の想いを言葉にのせて表現した。「でもそれくらい真摯になって向き合ってくれたし、アドバイスも色々してくれて、本当に感謝しています。まあ、こんなこと面と向かっては言えないですけどね(笑)」。

 心優しく、誰よりも真摯にチームと向き合ったキャプテンの背中。ともに戦ったチームメイトたちは、決してそれを忘れることはないだろう。

(記事 栗村智弘、写真 田中一光)

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