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2017.02.08

【連載】『平成28年度卒業記念特集』第5回 林恵里奈/庭球

重圧を力に変えて

 ことしも、早大庭球部からプロ選手が誕生する。林恵里奈(スポ=福井・仁愛女)、主将として部を率い、エースとしてチームの中心で戦った選手だ。不安になることも、スランプに陥ることもあった。それでも走り続けてきた林にとって、この四年間は重圧を力に変え続けてきた日々だった。

 高校時代の林は、進学先を決められずにいた。当時から早大は全日本大学対抗王座決定試合(王座)を制し続ける学生界の王者であり、その中に飛び込む覚悟ができなかったのだ。そんな林が早大進学を決めたのは、高校3年時の総体でシングルス優勝を果たしてから。「もっと伸びるんじゃないかという可能性を感じた」と、日本一の大学へ入学する。1年時から団体戦に出場し、王者・早大の重圧を肌で感じ続けてきた林。「連覇を切らしたくないという思いから、劣勢でも諦めず勝ちにこだわるようになってきた」。伝統の重みを、自分を奮い立たせる誇りに変えていけるようになった。しかし、3年目で最大のスランプが訪れる。全日本学生選手権(インカレ)や関東大学リーグで負けが続き、モチベーションが上がらない。目標さえ定まらなかった。「テニスをやめたら何するのかな、というところまで考えた」。それでも、休日に試合の動画を見ている自分がいた。テニスの雑誌を眺めている自分がいた。浮かんできたのは、「自分にはテニスしかない」という答えだ。前を向き始めた林は、関東学生選手権でシングルスのタイトルを手にする。自信をつけて調子を徐々に戻してゆき、ついにラストイヤーを迎えた。

インカレで悲願のシングルスタイトルを手にした林

 新チームが結成され、林がエースとして戦う年がやってきた。そして同時に、林は主将に任命される。当初は不安ばかりだった。3年時のスランプもあり、最後の1年は自分のテニスだけに集中したいという思いが強かったのだ。それでも林は、その不安を力に変えてゆく。「早大の中で主将としてトップに立っているからこそ、エースとして戦わなければならないという気持ちになった」。結果を出して部員についてきてもらうしかない、と覚悟を決めたのだ。5月には関東学生トーナメントを制し、「(大学テニス界で)自分がトップだという自覚ができて、誰にも負けられないと感じていた」と、早大のエースから大学テニス界のエースへ成長してゆく。そうして迎えた個人戦の集大成、インカレ。過去3年間、シングルスで思うような結果を残せていなかった大会だ。第2シードとして臨んだ林だったが、準々決勝で慶大の押野紗穂を相手に苦戦。負ける一歩手前まで追い詰められた。しかし林は、「諦めかけていたけれど、心の奥底のどこかで諦めていない部分もあった」と逆転勝利。そのまま勝ち進み決勝を制した林は、悲願の単複二冠を果たす。団体戦で培ってきた『諦めない精神』が生きた試合だったのかもしれない。

 最後の団体戦シーズンでは何度か黒星を喫することもあり、林は「個人的にはあまり納得いかなかった」と振り返る。それでも、王座の決勝で部員全員が見守るコートにあったのは、紛れもなく1年間チームを率い続けた主将、そしてメンバーから信頼されるエースの姿だった。フルセットの激闘の末白星をもぎ取った林。涙を浮かべつつ、ベンチで迎えるチームメイト。「1年時の王座優勝は素直にうれしかったけれど、最後の王座は『終わったな』とホッとした」。苦しみながらもテニスと向き合い続けてきた四年間に、終止符が打たれた瞬間だった。

 「早大は、優勝という目標よりも『連覇』という目標に挑める場所」。その伝統が、林を支えてきたに違いない。個人、団体で学生界の頂点に立った林は、卒業後プロに転向する。「まずは経験することが大事。たくさん挑戦していこうと思います」と、1年目は多くの試合に出場しポイントを稼ぐつもりだ。一番近い目標は、ユニバーシアードで代表入りして金メダルを取ること。最終的な目標としては、グランドスラム出場を掲げた。テニスが好きだという気持ち、諦めない精神、重圧を力に変える姿勢。早大で得た多くのものを手に、林は新しい世界へ羽ばたいてゆく。

(記事 熊木玲佳、写真 佐藤亜利紗氏)

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