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2014.07.01

【連載】創刊500号記念特集 第1回鎌田薫総長

 早稲田スポーツ新聞会は、7月1日に『早稲田スポーツ』創刊500号を発行しました。記念すべき節目の号で鎌田薫総長(昭45法卒=東京教育大付駒場)の独占インタビューをさせていただきました。創刊500号の紙面では鎌田総長に伺ったお話を元に記事を執筆しましたが、今回はその紙面では載せ切れなかった鎌田総長へのインタビュー取材のすべてを特集します。

※この取材は5月13日に行われたものです。

ワセダとスポーツ

総長室にて早スポの独占取材に答える鎌田総長

――本日はお忙しい中ありがとうございます。早稲田スポーツ新聞会は7月に創刊500号を迎えます

 500号おめでとうございます。

――ありがとうございます。早速ですが、鎌田総長は現在学生スポーツを観戦されることはありますか

 総長として観戦に行っています。野球部とラグビー蹴球部の早慶戦、漕艇部の早慶レガッタは毎年行っています。おととしにア式蹴球部が進出した全日本学生選手権決勝には国立競技場に観戦に行きました。

――鎌田総長が大学生だった頃にスポーツを観戦した経験はあったでしょうか

 無いわけではありませんが、学生時代よりもその前や後の方が多いと思います。

――鎌田総長の好きなスポーツは何ですか

 ワセダのスポーツで一番印象深いのは剣道です。私は高校時代に先輩と一緒に剣道部を創ったのですが、その時に指導者がいませんでした。そこで高校の近くに道場があるのを見つけて、剣道を教えてくださいと言いに行きました。その道場主が笹森順造先生(明43政経卒=青森中)というワセダの大先輩で、国務大臣も務められた日本剣道連盟の会長でした。そのような先生にずうずうしいながら剣道の指導をお願いしました。笹森先生はとても親切な方で、ワセダの剣道部の部員をふたり高校に呼んでくれました。私たちは喜んで指導を受けていましたが、いま思えばお礼などを笹森先生が出して下さっていたのだと思います。

――高校時代からワセダと関わりがあったのですね

 剣道が一番のワセダとの関わりです。ワセダに入学してから、剣道部の早慶戦は道場に応援に行きましたが、そのときはすごいという感情を持ち、まるで後光が差すような感じでした。私が入学する前年に全日本学生優勝大会で優勝していた剣道部はまさに黄金期でした。

――その後は剣道部とのエピソードはありますか

 私が総長になったのが2010年(平22)のことです。その2010年に剣道部が45年ぶりに1位になりました(全日本学生優勝大会団体優勝及び全日本女子学生優勝大会団体優勝の創部史上初の男女アベック学生日本一に輝いた)。その時にお祝いの会に出席しましたが、高校の時に指導に来てくださった方と55年ぶりに再会を果たしました。とても印象深いです。

――他の競技ではいかがでしょうか

 ラグビー蹴球部は私が大学を卒業してからの方が強かったですが、早慶戦も早明戦も、大学選手権にも応援に行きました。野球部も私が大学1年と3年の時に優勝してちょうちん行列に参加し、最後は戸山キャンパスの記念会堂前にある広場に集まった記憶があります。普通では神宮球場に入れないくらい人気がありました。

――スポーツはこれまでワセダにどのような影響をもたらしたとお考えですか

 教育的観点で言うと、学生にとってのスポーツという意味では昔から大隈重信さんが「スポーツの励行」を掲げていました。教育というのは本来、自分で自分の可能性を見つけ出し、それを一生かけて伸ばしていく、そういう力を身に付けさせるためのものです。大学時代には一生学ぶために必要な足腰を鍛え、『学び』を続けていくためのスキルやマインドを身に付ける必要がありますが、そのためにはスポーツは非常に役立ちます。体を鍛えるだけでなく、協調性やひとつのルールの中で自分の限界に挑戦し、それに突破しようと努力するという、自分との戦いを経験できます。チームプレーやライバルとの様々な勝負などいろんな意味で人間的な成長が望めます。

――逆にワセダがスポーツにもたらした影響は何ですか

 日本のアマチュアスポーツを支えてきたのは昔になればなるほど大学です。東京帝大もワセダもケイオーもアマチュアスポーツをけん引してきました。アマチュアスポーツに始まり、そしてプロへと続きさまざまなスポーツを盛んにしてきたというなかではワセダは非常に大きな役割を果たしたと思います。

――米国や英国でも大学スポーツが盛んと伺います

 欧州や米国でも伝統的な名門校というのはどこも文武両道です。ただ机にこびりつくだけではなく、スポーツをし、勉強をし、さらには社会的貢献もしているという例があります。こういった全人的に発展していくことが、大げさに言えばエリートの社会的責任だと思います。やはりエリートとしての余裕がスポーツでも表れると思います。英国ではオックスフォード大とケンブリッジ大が伝統的な対抗戦を行っていますし、米国のスタンフォード大はプロ選手の養成学校のような一面を持っています。タイガー・ウッズも中退ですがスタンフォード大です。ワセダも五輪やパラリンピックに多くの選手を輩出しています。しかしUCLA(カルフォルニア大学ロサンゼルス校)の在校生と卒業生のロンドン五輪メダル獲得数は、日本のメダルの数よりも多いということのようです。

――先日のソチ五輪にもワセダから出場する選手がいましたが、過去の五輪にも多くのワセダOB・OGが出場しています

 ソチ五輪でもワセダ生が活躍しましたが、これまでの五輪はワセダ無しでは成り立たなかったと言っても過言ではありません。戦前から五輪には多くの在校生やOB・OGが出場しメダルも獲得していました。五輪にまつわる役員にもワセダ出身の方が多かったそうです。戦前は選手と役員の半分はワセダとも言われ、そういう意味ではスポーツの発展に大いに役立ったと言えるでしょう。1964年の東京五輪には学生38名、校友59名が出場したという記録が残っています。

総長が語るワセダとは

本年の入学式にて式辞を述べる鎌田総長

――スポーツに限らず、鎌田総長が考える「ワセダらしさ」を教えてください

 ワセダらしさを改めて聞かれると難しいですね。一つはワセダというのは自由と多様性に満ちています。私がワセダに入学して最初に驚いたのは、こんなにたくさんのいろいろな人がいて、それぞれが自分の個性を発揮していて、こんな面白い世界はないと思いました。

――何かエピソードはありますか

 私は法学部だったのですが、法律は全然できないけど文学や哲学を語らせたらすごい友達がたくさんいました。大学というのはいまでもみんなの個性がぶつかり合い、自分に無いものを見つけ追いつこうとしたり、逆に反面教師にしたりする場だと思います。そうして磨かれたワセダ出身の方というのは、どんな状況でもたくましく生きている気がします。世の中が混乱してきたりすると、ワセダ出身の人が偉くなる傾向があります。企業でも経済状態が悪く潰れそうになるとワセダ出身者が社長になります。

――ピンチにワセダありということでしょうか

 危機時に頼りになるのがワセダ出身者であり、裏からいえばあまりやっても得ではないけど誰かがやらなければいけないというときに立ち上がるのがワセダ出身者だと思います。伝統として、ワセダ出身者は本当のトップエリートではないかもしれません。しかしみんなから信頼される、世のため人のために頑張れる人材が育っていくのがワセダの強みです。そうすることでまたワセダに優秀な人材が集まってきます。いまのワセダ生も野心や進取の精神を胸の内に強く秘めていると思います。他の人にはない独特の個性を持った人が多く集まって、それをワセダで伸ばして、様々な世界へ飛び立って行ってくれることを期待します。

――現在ワセダが掲げている「Waseda Vision 150」の狙いをお教えください

 スポーツも含めてですが、Waseda Vision 150には様々な柱があります。その中で学生中心の大学像をもう一度しっかり創っていきたいと思っています。研究の分野も飛躍的に発展させたいと思っていますが、やはり学生たちがワセダで学んで良かったと誇りに思い、自分の子供にもワセダに通わせたいと思えるような大学にしていかなければいけません。私立大学は学生の親御さんからお金を頂き大学を運営しています。その分を先生たちの待遇改善のためだけに使用して学生を後回しにしてしまい、授業は仕方がないからやっているというのではなく、学生が共に力を出し合い、学習環境をさらに良くしたいと考えています。教育は教え込むことではありません。教育というのは自分が自分の能力を発見して伸ばしていくことができるようにするものなので、自ら課題を見つけ、調査し、解決策を提案し、それを実行していける能力を身に付けてもらう必要があります。ワセダ生の特徴のもう一つは、自主的に授業以外のところで力を伸ばす点です。サークルもたくさんありますし、芸能界で活躍している人もたくさんいます。ワセダは演劇が有名ですが、授業で演劇の実技を教えている学部はありません。ワセダが小説家や俳優、映画監督を多く輩出するのは、学生が学生同士で刺激し合って高めているからです。そういった文化や、さらにはスポーツの分野も大いに発展させたいと思っています。

――スポーツの観点ではいかがでしょうか

 できれば体育各部の部員に限らず、一般学生ももっとスポーツに親しむ環境を早稲田キャンパスの近くにつくりたいです。ワセダには多くの素材がたくさんあるので、それを育てていきたいです。予算の関係でなかなか難しいのが悩みです。早慶戦で勝った部には大隈ガーデンハウスでカレーライスをごちそうする企画をしています。私が総長になってから始めた試みで、頑張った人に大学全体で称えてあげたいという思いがあります。またそれが励みになるでしょう。そういったこともやっていきたいと思うので、早稲田スポーツ新聞会も頑張ってください。

『真の一流を育成せよ』

早稲田スポーツ創刊500号の第7項

――早稲田アスリートプログラム(WAP、※1)は、スポーツ推薦枠を拡大する他大に逆らうような制度ですが、ワセダらしさを追求するためのものなのでしょうか

 WAPの制度が始まる前からいくつかの部では、授業に出席しない選手や著しく成績が悪い選手を試合に出さなかったり、主将にしなかったりということをしていました。それをもう少し組織的にやったということです。体育各部員の成績が悪くなってしまったために実施した制度ではありません。ひどくなったからやったのではなく、本来の大学スポーツというものを目に見える形にするというのが狙いです。勉強をしろと叱るだけでなく、スポーツをやっていると普通の学生とは時間の使い方も違うわけで、もし授業についていくのに障害があるのであればそれをサポートしなければいけません。大学ぐるみでスポーツを通じてたくましく育った人を一流の社会人に育てようという価値ある制度です。羽生選手(結弦、人通=宮城・東北)のように外国を拠点にしている選手は学校に通うことができません。従来は学校に通えないので大学を諦めざる得ないということも起こりました。卓球の福原愛選手も中国を拠点に移し、そのため大学に来れなくなってしまいワセダを中退してしまいました。これからは一流のトップアスリートであればあるほど自分のスポーツを理論化し、客観化する能力が必要です。また幅広い教養を身に付けた一流の人物が育ち、その人が指導者になるとより良い後輩が次から次へと生まれるわけです。そういった意味では、トップアスリートは誰からも信頼される人格と教養を身に付けなければいけません。羽生選手は本当に学問に対する意識もしっかりしていますし、先日ワセダに来た際の受け答えも素晴らしかったです(※2)。人間科学部人間情報科学科通信教育課程(e-スクール)はインターネットを通じて授業を配信するだけでなく、しっかり質疑応答も行っています。サッカー日本代表の吉田麻也選手や柿谷曜一朗選手もe-スクールで学んでいます。e-スクールはWAPと並んで、これからの優れたトップアスリートとして社会のトップリーダーになっていけるスポーツマンを育てるのに大いに将来性があり、一層の活用が期待されます。

――スポーツ推薦した学生に期待することは

 ワセダで学んだことをスポーツ以外の場面でも生かしてほしいです。外国には五輪に出るようなトップアスリートでも、経済界や政界、法律の世界などでトップになる人がたくさんいます。そういった人をもっと数多くつくりたいです。若い時はスポーツで活躍したけれども、神宮球場で本塁打を放ったことが死ぬまで唯一の自慢では困ってしまいます(笑)。そういう意味でスポーツだけでなく、いろいろな分野でトップになれるように頑張ってほしいです。ワセダ生はそういう素質を持っているはずなのでそれを生かせるようにしたいです。

――2020年に開催される東京五輪・パラリンピックには多くのワセダ生や交友の出場が望まれますが、どのような期待をされていますか

 それはもうワセダ無しでは東京五輪・パラリンピックが開催できないと言わせたいです。森喜朗組織委員長(昭35二商卒=石川・金沢二水)もワセダ出身ですし、政府の五輪推進室長もスポーツ科学部の平田竹男教授が務めています。さらに各分野のスタッフにワセダの人が関わってくるはずです。いまの中学生や高校生が東京五輪を目指すためにワセダに行こうと思ってもらえるようにしていきたいです。そのためには競技施設の整備をする必要があります。素質のある選手を入学させるだけではだめで、良いトレーニング環境と優れたコーチングスタッフ、またOB・OGの支えが必要だと思います。お金に余裕が無く難しいですが、うまくサポートしていきたいです。付属、系属校をもっともっと活用する余地もあると思います。

――最後に、500号を発行する当会にメッセージをお願いします

 おめでとうございます。さらなる発展を切に期待しています。スポーツ全体を盛り上げるため、体育各部と一緒に発展していってくれるといいなと思います。

――本日はありがとうございました!

(取材・編集 佐藤裕樹)

◆鎌田薫(かまた・かおる)

1948(昭23)年1月12日生まれ。東京教育大付駒場高出身。1970年(昭45)法学部卒。現・早大総長。弁護士。本年の総長選挙で2018年までの総長在任が決定した鎌田総長。そんな鎌田総長ですが、休日は寝っ転がって漫画を読んでいるとのことです。普段はお忙しいでしょうが、お休みの息抜きは私たち学生と似ているのでしょうか

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