体操部

2013.10.27

【特集】全日本直前特集『メッセージ-学生トレーナーとしての4年間-』 

 早大体操部を4年間にわたり献身的に支え続けた学生トレーナー、宇都宮万祐子(スポ4=神奈川・桐光学園)。入部当初は「トレーナーがどんなものか全然分かっていなかった」という宇都宮は、一体どのように自らのトレーナー像を確立するに至ったのか。現在体操部の学生トレーナーは宇都宮ただ一人。そんな彼女も11月の全日本選手権(全日本)を最後に引退となる。「後輩に入ってもらいたい」――。現役生活も残りわずかとなったいま、宇都宮が語る体操競技の奥深さや学生トレーナーのやりがい、そしてまだ見ぬ後輩へのメッセージとは。

※この取材は9月25日に行ったものです。

「ひたすら勉強」

体操部を陰で支える宇都宮

――最初に体操と出会ったのはいつですか

 初めて体操に触れたのは小学校の2、3年生くらいだったと思うんですけど、私昔タイに住んでいて、そのときにお遊びの体操教室があってそこに通っていました。でもタイから帰ってきてからは全然やっていないです。

――中学・高校時代は何かスポーツをしていましたか

中学はバスケット、高校はソフトボールをやっていました。

――なぜ大学では体操部に入ろうと思ったのですか

話せば長くなるんですけど(笑)。まあ、いろいろきっかけがあって部活に入ろうって決めて、そのときに9個くらいいろんな部活を見て、その中で最終的には3個に絞ったんですけど、一番トレーナーを必要としていそうだったのが体操部だったので、体操部に入ろうと決めました。

――体操部が一番トレーナーを必要としている、と感じたのはなぜですか

まず、(体操部の)同期とも話したりしていて、そのときにトレーナーって体操競技には必要なんだっていうのを選手本人から聞いていたので。あとは全身使う競技だったので単純にすごく勉強になるんだろうなあとも思いましたし。そこはもう本当にいろいろですね。迷っていた部活に、一緒に入る部活を探していた友達が入って、2人もその部活にいらないなあ、とか。いろんなことが重なったんで、一言でこれということは言えないですね。

――入部したとき、体操部に学生トレーナーの先輩はいらっしゃいましたか

それがいなくて。でも私が入部して1カ月後くらいに2個上の先輩が入ってくれたんですよ。ケガをしている選手の先輩が連れて来た人で。先輩は違うところでトレーナーをやっていたので最初は入部という形ではなくて平日だけ来ていました。それで12月くらいに先輩が正式に入部して、ずっとその先輩からいろいろ教わっていました。

――入部してから慣れるまでは大変でしたか

そうですね。まずトレーナーがどんなものか全然分かっていなかったので、最初はとにかくひたすら勉強しなきゃ、みたいな感じで。ずーっと勉強していましたけど、やっているうちにだんだん、こういうことしなきゃとか、こういうことやろうかなっていうのが出てきて、そこから少しずつ確立していったっていう感じですかね。

――そもそもなぜトレーナーになろうと思ったのですか

大学に入るまではトレーナーっていう役職があるってことも全然知らなくて。大学入って、トレーナーがマネージャーの他に枠としてあるっていうのを聞いて。それでいざ部活に入ろうって決めたときに、マネージャーはパソコンとかやるイメージあるじゃないですか。それよりは選手の方が絶対面白いって思ったんですよ。でも選手はスポーツ推薦で採っているし私はスポーツ推薦じゃないので、それならフィジカル系に関わるトレーナーの方が自分にも合っているだろうし楽しいんじゃないかなっていう、単純な動機でした(笑)。

――トレーナーの仕事内容について教えてください

リハビリのプランニングだったり、マッサージとかテーピングなどのケアと、あとはそんなに細かくはしてないですけど栄養管理だったり、そういうフィジカルなサポートです。

――フィジカルに関することを全般的にやっていらっしゃるのですね

そうですね、だいたいは。でもサッカー部とかアメフト部だったらフィジカルコーチがついていたりしますけど、うちはいないので、やれる範囲をやるみたいな。フィジカルの面で体操部はちょっと特殊なので、コーチに任せるときもありますけど、リハビリをやったり、あと体操は特にマッサージ系が本当に多くて。比重は結構マッサージが大きいです。

――選手一人一人に合わせてケアするにはさまざまな専門知識が要求されると思いますが

最初はやっぱり本を読んで、こういうものなんだと勉強していきましたけど、こうやったら指が入るなとかこうやったら効いているっぽいなとか、やっているうちに自分で開拓していきました。あとは、試合会場でプロの方と接する機会があるので、その人に「横で見ていいですか」って言って、見ながら技を盗んだりとか。

――大学の授業でもトレーナーの勉強をしているのですか

はい、トレーナーコースっていうのがスポーツ科学部にはあって。トレーナーの試験を受けるのに必要な授業がいくつかあるのでそれを取って、授業の中でマッサージやテーピングの勉強や解剖学を一通りやりますね。

――将来の夢はトレーナーですか

そうですね。最初は将来トレーナーなんて職にしないし、とか思っていたんですけど、あれ、みたいな。めっちゃやりたいって。一回本気にならないと、トレーナー目指すくらいじゃないと成長しないなって感じたときがあって、本気でトレーナー目指す勢いでやろうって思っていたらやりたくなりました。

――何か転機となるような出来事があったのですか

確か2年生のときだったんですけど、先輩に選手を連れて来てもらって「この子の評価測定(関節可動域や周径囲などを測定すること)をやってみて」って言われて、全然できなかったんですよ。1年間勉強していたのに、何やってたのって言われて。もうめっちゃ悔しかったし、ふがいないなと思いました。そこから、リハビリとか全然知らなかったんですけど勉強し始めて。あれは自分の中で変わったきっかけでしたね。

自分なりのやり方で

分からないことは積極的に「聞きまくる」

――体操はケガが多く危険なスポーツでもありますが、そういう競技のトレーナーをしていてプレッシャーを感じることはありますか

 プレッシャーは普段はそんなにないですけど、やっぱり自分が見ている選手が思うように治らなかったりしたら、申し訳ないなっていうのはありますし、復帰した選手がいたら、結構ヒヤヒヤしながらケガした技とか危ないなっていう技を見ていたりします。

――普段の練習で心掛けていることは

視野を広くしていようというのは昔から結構思っていて。多分チームスポーツだったらみんなで同じメニューを一緒にやるっていうのが多いと思うんですけど、体操は自分の感覚やタイミングで競技を始めたり練習をやったりするので、いまどこで誰がどういう動きをしているのか見ておかないと、知らないうちに(選手が)どこかに吹っ飛んでいって、いまどうなったの、とかあるんで。器具に触っていたら、いま器具触ってるなと頭の片隅に置きながら、全体を見るようにはしています。

――練習中は一人一人にすぐに対応できるようにしているのですね

そうですね。でも本当にやばいときとそうでないときがあって、そこが難しくて。選手が吹っ飛んでやばそうだったら急いで行きますけど、その辺はまだ反応が遅いので課題でもあります。あとは、練習中にマッサージお願いと言われることもあるのでやったり、リハビリある子がいたらリハビリやって、暇だったら勉強したり、練習中はわりと自由にやっていますね。

――トレーナーをしていてつらかったことはありますか

自分の手に負えないときとか。自分が立てたリハビリでも、上手くいく人といかない人がいて、自分がやったマッサージでも良くなる人とならない人がいるので、そういう自分の力不足を感じるときはつらいです。あと周りの部活の人たちと交流すると、すごい人はやっぱりすごいので。力不足を感じるときはめっちゃ落ち込みますね。復活は早いですけど(笑)。

――落ち込むようなことがあったときはどうしていますか

とりあえずやらなきゃ、みたいな。いままでの無駄なことを思い出して、あの時間あれやっとけば良かったじゃんとか、ここ弱かったからあのとき何もできなかったなとか思い返します。解剖学一つとっても、足首とか肩とかいろいろな部位に分かれるんですけど、私そういえば肩弱かったなと思い出したらそこを勉強するとか。人に聞いたりもしますし。いろんな人にお世話になっているので。自分が一番ポンコツだと思って聞くんですよ。自分が一番できないと思って人に聞けばみんな教えてくれます。自分できないんでって最初に自己紹介してそれで先生に聞きまくるみたいな(笑)。

――そういうときに頼りになる方は例えばどんな方がいらっしゃいますか

スポーツ科学部の中村千秋先生とか、広瀬(統一)先生とか、トレーナーの先生には本当に良くしてもらえるので。それからゼミの金岡(恒治)先生とか。あと全日本の会場で一緒になるんですけど、日本代表についている今井(聖晃)さんとか。いろんなすごい人たちも、こっちから話し掛ければ全然教えてくれます。体操界って狭いんですけど、それが逆に良くて。

――トレーナーをしていて良かったと思うのはどんなときですか

試合終わって、ありがとうございましたって言ってもらえると、ああ私役に立ったんだなって。その瞬間は一番ほっとするし、やってて良かったなと思います。

――やはりそれがトレーナーのやりがいですか

そうですね。あと、自分が全然競技できなくて。私運動神経すごい悪かったんですよ(笑)。自分の理想とする選手像はあるんですけど、一歩もそれに近づけなくて。スポーツ推薦で入っている子なんかは多少なりともセンスがあって入って来ている子たちで、やっぱりセンスあるんだから、あとは足りないものを補えば全然上に行ける。それを後押しできた瞬間は、私が自分の理想としていた選手に近づけさせられたな、っていう感じはあります。

――支える側ならではの喜びですね

はい、そういうのありますね。

――4年間学生トレーナーを続けてきて、自分の中で変わったと思うことはありますか

トレーナーに対しての考え方は全然変わっていますし、受け身だったのが能動的に動くようになりました。トレーナーって在り方がたくさんあって。鍼灸(しんきゅう)だけでトレーナーをやっている人もいれば、アスレチックトレーナーとかそういうトレーニング系の資格を持ちながらトレーナーをやっている人も、たくさんいろんな種類の人がいて。それぞれやっぱり『トレーナーとは』みたいなのを持っているんですけど、それにいままで結構とらわれてきて。トレーナーって何が正解なのってなりましたけど、いまは自分なりのトレーナーってこういうもので、別にここから変わっても構わないんだなと考えるようになりました。自分のやりたい分野を思いっきりやって、必要とされている分野を伸ばして、私のトレーナー像を築き始めているというのはありますね。

――では、いま宇都宮さんが考えるトレーナー像とはどのようなものでしょうか

それってすごく漠然としちゃうんですけど。なんですかね。例えばトレーナーってマッサージをあまりしない方がいいって言われたりするんですが、体操界を見ていると、マッサージはするんですよ。日本代表についているトレーナーさんはマッサージの資格を持っている人たちだし、それを考えると、マッサージやっていいんだなと。まあそれは具体例の一つですけど。いままでマッサージは極力しないでストレッチをかけようとか、トレーニングを考えようとかしていましたけど、やっぱり必要最低限のマッサージは体操競技には必要なんだなと割り切ったり。そういう感じで、あんまりはっきりとはしていないんですけどね。

「体操めっちゃおすすめです」

練習後のマッサージは欠かせない

――トレーナーと選手の関係はどのような感じですか

あんまり上からああしろこうしろと言うよりかは、痛がる素振りを見せたら後で「どうしたの、肩痛いの」って聞いたりとか。関係は選手とあまり変わらないんじゃないですかね。全員仲間みたいな感じで。

――体操部の雰囲気はいかがですか

みんな真面目なところは真面目ですね。私はソフトボールやってたので、そのときはみんな思ったことをうわあって全部口に出すみたいな感じだったんですけど、そういう感じではないです。みんな結構落ち着いていて。チームでもあり個人競技でもある競技なので、自分でこうっていうものを持ちつつも周りを見ている感じがしますね。

――宇都宮さんにとって最後の全日本学生選手権(インカレ)は、どのような大会になりましたか

インカレは、嬉しい気持ちもあり、悔しい気持ちもあるっていう感じでした。

――嬉しい気持ちとは

いつもより全然多くの子が2日目に行けたのと、あと私が大学2年生のときのインカレがすごいボロボロで、みんなが悔し泣きをしているのを見ていたので、それと比べると全然内容は良かったなと。個人個人で(目標を)達成できた子とかきょねんより全然良かった子とかを見ると、「ああ成長していたんだ、知らないうちに」とか思って。もう親心みたいでおかしいですけどね(笑)。「こんなに強くなっていたんだなあ」と感動していました。

――逆に悔しい気持ちとは

やっぱり最後までケガを抱えていた子とかいたし、U21代表を狙っている子もいたので。それを達成させてあげられなかったというのは申し訳なかったというか、一生懸命やっているつもりでしたけど、もっと力になってあげられれば良かったなと。みんながみんな目標を達成できたわけではないので。力になれることがもうちょっとなかったかなあという意味で悔しい思いもしましたね。

――11月には全日本も控えています。今後の抱負を教えてください

私は全日本で引退するんですけど、やっぱり次の全日本(団体)は春の全日本(個人総合)につながる大会でもあるので、そこでちゃんとインカレで上手くいかなかった子は次につながるようないい試合をしてもらいたいし、逆にインカレが良かった子はどんどん調子が上がっていくようなサポートをしたいなと。あとうちは(トレーナーの)後輩がいないんですよ。どうにかしなきゃって。なので後輩を入れたり、もし入らなかったときに「これどうやってやっていたんだろう」とか絶対出てくると思うので、やることをファイルにまとめ始めたり。私がぽんと抜けてもなんとかやっていけるようにはしなきゃなと考えています。

――トレーナーがいなくなることを考えると心配ですよね

心配ですね。何人か長期的に見ないと駄目な子もいるので。そこはやっぱり、心配です。後輩に入ってもらいたいです。

――体操部のトレーナーになるには専門知識が必要だろうからと尻込みしてしまう人もいると思いますが

絶対いると思うんです。でも私だって全然分からないですよ、いまでも。

――そういう人にはどんなことを伝えたいですか

まず、私は体操全然知らなかったよ、でも入ったよと。あと体操ってやってみて難しいなと思ったんですけど、逆に知れば知るほど奥が深くて、「知らなかった、こんなことに気をつけてたんだ」とかそういう発見もめっちゃ多くて。それは体操の面白いところですし、同じ動きをみんながしていても全然見え方が違うので。あとは全身使うスポーツなのでいろんなケガを見れるし。体操見てて眠くなるって言う人もいますけど、一個一個の動きが本当に複雑だったりするので実際に触れてみると体操って面白いんだけどなあって思います。

――迷っている人はぜひ体操部のトレーナーにと

もうそれですね。将来(トレーナーとして)いろんなスポーツ見たいとか、オールマイティになりたいとかだったら、体操めっちゃおすすめです。絶対やって損ないと思います。

――11月に引退ということですが、残り少ない体操部としての生活をどのように過ごしていきたいですか

インカレのときもそうだったんですけど、『記憶・記録に残るチーム』にしようと言っていて。最高のチームだったと思える代にしたいんですよね。このチームすごく良かったなあっていう風に終わりたいですね。トレーナーとしてもそこにつながるのかなって。私がいてマネージャーがいてコーチがいて選手がいて、しっかりチームとしてバランスが取れていたよねって振り返れるような終わり方をしたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 末永響子)

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◆宇都宮万祐子(うつのみや・まゆこ)

1991年10月30日生まれのA型。158センチ。神奈川・桐光学園高出身。スポーツ科学部4年。気さくで明るい雰囲気の宇都宮さん。選手とコミュニケーションを取りながらマッサージをする姿が印象的でした。試合会場でもプロの方を見て学ぶなど、向学心の強さに驚かされます