柔道部

2013.08.09

【柔道・特集】縁の下の力持ち!学生トレーナーに迫る

 早稲田大学柔道部には、影ながら部を支え、部員たちから全幅の信頼を集める存在がいる。学生トレーナーを務める、大熊淳(平25スポ卒=埼玉・大宮)と吉川朋子(スポ3=早稲田渋谷シンガポール校)だ。「彼らにスポットライトを当ててほしい」という、星野映主将(スポ4=埼玉・春日部)の提案を受け、実現した今回の学生トレーナー対談。部にとって、「なくてはならない存在」(星野主将)だというお二人の、日ごろの活動や部にかける思いを伺った。

※この取材は7月5日に行ったものです。

幅広い活躍の場

体幹トレーニングで指示を出す大熊

――まず、今回の特集は柔道部さんから提案していただきましたが、誰の発案だったのでしょうか

大熊 トレーナーの数が足りない、後輩が必要ということで、主務の川端(一平、スポ3=東京・早実)や主将の星野、副将の野口(雄飛、人4=埼玉・熊谷)らがどうにかしようと言っていて。それでこの前の大会に取材に見られたので、「いまだ」ということで提案しました。

――普段取材を受けることはないですが、いまどのようなお気持ちですか

吉川 正直帰りたいです(笑)。

大熊 緊張しています。緊張しかしてないです(笑)。

――さっそくですが、どういった経緯で学生トレーナーになられたのですか

大熊 トレーナーのようなことをやりたいと最初に思ったのは中学生くらいのときですね。『スポーツドクター』という本を読んで、おもしろそうだということで。小学生のときにはプロ野球選手になりたいという夢があったのですが、それが無理だということを中学生になって感じたんですよ。それでもスポーツに関わりたい思ったときにトレーナーというものを知り、こういう楽しいことを仕事にしていきたいと思いました。

――吉川さんはどのような経緯で

吉川 私は高校時代にマネージャーをしていたんですが、同期の子がけがをして試合に出られなくなってしまったんですよ。その時マネージャーとして何もできなくて、それで自分の無力さに気づき、先輩や先生方にどうしたらいいか話を聞きました。そこでトレーナーという仕事を知って、やってみたいなと思ったのがきっかけですね。

――高校時代も柔道部のマネージャーだったのですか

吉川 高校のときは柔道部がなかったので、好きなスポーツの一つであるサッカー部のマネージャーをしていました。

――では、トレーナーの中でも柔道を選ばれた理由というのは

吉川 もともとはアメフト部でやっていたんですがすごくきつくて辞めてしまって。そこから柔道部に転身したというのは、弟が柔道をやっていて、柔道が家族で見るスポーツだったからですね。

――普段は仕事としてどのようなことをしているのですか

大熊 普段は本当にいろいろなことをやらせていただいていますね。練習前のテーピングもそうですし、練習中はけがをしている選手のリハビリを手伝ったりメニューを考えたりということもしています。試合のときは、アップについて、柔道の選手たちってあまり走ってウォーミングアップなどをしないのですが、そういうのを取り入れてやらせたりしています。ほかにも栄養の取り方などは、特に試合前には指導しています。あとはさっき(取材前)にやった体幹トレーニングや、ストレッチも担当しています。ウエートトレーニングも、いまはシーズンが終わったので週に3回時間をもらい、プロのトレーナーである江川陽介さんと相談しながらメニューを考えてトレーナーの主導でやらせてもらっています。それ以外にもスケジュールなどのマネジメントの部分に関しても大体やらせてもらっています。

――練習後のメニューというのはどのようなことを考慮して作っていますか

大熊 体幹トレーニングでは基本的にけがを防ごうということですね。体がぶれないように、相手が崩しにきても体が振られてけがをすることがないようにということを考えて。きょうやってみたのはアジリティといって敏しょう性を高めるためのトレーニングで、ひざとか足首のけがというのは器用じゃない選手とかがしやすいのでそういう選手にやらせてみたりしています。

――そういうのは選手の状態を見ながら、ということですか

大熊 まあ選手の状態、練習の状況を見ながら、前日のメニューとは絶対に同じにならないように考えていますね。

――では毎日メニューは違うのですか

大熊 そうですね。練習を見てこうした方がいいんじゃないか、などを考えて。

――個人によっても違うのですか

大熊 はい。練習の様子や前日、前々日との兼ね合いを考えて。やりたいことはたくさんありますが時間が限られているので少しずつといった形で。

――選手の要望を聞いたりすることもあるんですか

大熊 そういうこともありますね。

――正直仕事はきついですか

大熊 きついと思うことはあまりないですね。時には面倒くさいと思うこともありますが、選手と触れ合っていてきついと思うようなことはないですね。たまに選手からの要望を受けて悩んだりすることもありますが、別にきついということはないですね。

――選手からは例えばどういう不満や要望がありますか

大熊 きつい、とかですね(笑)。そういうときはちゃんと筋道を立てて説明して、納得してやってもらうようにしています。

――きつい、といわれて折れることは

大熊 まあないですね。

一同(笑)。

――吉川さんはきついと感じることは

吉川 私は朝が弱いので、朝起きるのが本当につらいです(笑)。練習については私たちがやっているわけではないので特にきついとは思わないです。

――試合のときはどのようなことをしていますか

大熊 試合前日は準備などのマネジメント的なことをやり、当日はアップについての指導ですね。柔道は柵があるので試合中は何もできませんが、試合の合間などではアイスマッサージなどで疲れをとっています。そして、試合後はストレッチの指導などですね。本当に試合の日にできることっていうのは、試合前に準備してあげるくらいで、試合中にできることはほとんどないです。

吉川 柔道って一試合一試合という感じではなく、個人戦だとどこでだれが試合をやっているか完全に把握しきれない感じなので全員につくことはできないんですけど、帰ってきてから次の試合までにできる限りベストなコンディションにしてあげるようにしています。

――トレーナーになるにあたって勉強というのは何かされているのですか

大熊 僕たちはスポーツ科学部ということで、学校で学んでいることを現場に活かしています。解剖学とかですね。学校で教わることのないトレーニングの組み方ややり方とかは江川トレーナーに教えてもらったり、勉強したりしています。テーピングとかも自分で勉強していますね。

――お二人は柔道の経験がありませんが、柔道についての知識についてはどうされていますか

大熊 基本的なことは選手に教えてもらいながらですね。そういうところは選手に聞くのが一番だと思います。技とかは自然に見ていて覚えていく感じですね。

――先ほど体力的にはきつくないということでしたが、メニューを毎日変えたりするということはずっとトレーニングのことを考えているんじゃないですか

大熊 練習中はそうですね。帰ってからもいろいろあって、その日のけがの報告とかをまとめてトップの人に送ったり、体重なども毎日記録して、個人個人のコンディションをまとめたりしています。

吉川 今選手が42人いて、道場内だけだと2人で情報をシェアすることはできないので、帰ってお互いに報告して、選手の状態の把握はするようにしています。

選手の勝利に涙

ストレッチ中部員にアドバイスを送る吉川

――学生トレーナーをしていてよかったと感じる点は

吉川 けがをして共にリハビリを行ってきた選手が徐々に調子を取り戻し、試合で勝ったときにはこみあげるものがあります。

大熊 そうですね。一番はそれだと思います。けがをした選手とリハビリをするとコミュニケーションをとる機会も多いですし、思い入れも出てきますから。あと、こちらが言わないとトレーニングをしない手のかかる選手が試合で活躍するとうれしいですね(笑)。

――では、逆に学生トレーナーをしていてつらいと感じる点は

大熊 結構うまくいかないこともあります。けがが治って柔道に復帰した選手が今度は骨を折ってしまい、また柔道ができなくなった時などは責任を感じました。柔道で体に負荷がかかるのは仕方がないことですが、未然に防げなかったのかと後悔することはあります。あと、自分たちが提案するトレーニング法などをなかなか受け入れてもらえない時もあります。みんなを説得することも僕たちの重要な仕事の一つですね。

吉川 確かに、伝わらないことはあります。私たちの提案を選手が違うように受け止めてしまい、溝ができることはありますね。選手のためを思って提案したことが選手側からすれば手間だったりするのですが、そこは私たちの説得不足かなと思っています。

大熊 うまく選手の意見を聞いて自分たちがもっと選手のモチベーションを高められるよう勉強することが必要だと感じています。

――今の柔道部の雰囲気はどうですか

大熊 雰囲気は良いと思います。部全体が明るいですし、体育会系でよくある先輩後輩間の圧力もないです。ことしの一年生はとても元気なので、一年生が入部してきて部の雰囲気が良くなりました。練習中もしっかり声が出ています。

吉川 女子部も3人新入生が入ってきたのですが、面白くて良い子ばかりなので全体のモチベーションも上がってきています。やはり新入生が入ってくるといい刺激になりますね。

――学生トレーナーと選手の関係は

大熊 仲は良いですし、お互い言いたいことはきちんと言い合える関係です。トレーナーは指導する立場としての自覚も必要なので、友達感覚のときとそうでないときの切り替えはするようにしています。なかなか難しいですけどね。

吉川 私も切り替えは大切にしています。友達のような関係でいてよいときと、トレーナー側からの視点を重視しなければならないときがありますから。特にけがをした選手が復帰するタイミングを決めるときなどは、トレーナーとしての立場を崩してはならないと思っています。

――学生トレーナーからみた柔道部の魅力は

大熊 柔道部はけがをする人が多いのですが、人数も少ないので必然的にトレーナーが対応することになり、その意味では応急処置などの勉強になります。監督やコーチの方々がよい環境を設けてくださり、学生トレーナーも色々なことを任されているので、メディカル関係のことやトレーニング指導、栄養の観点からの指導など、様々な分野の勉強になります。(吉川さんは)あまりトレーニングに興味ないみたいですけど、させています(笑)。良い経験になると思いますよ。

吉川 他の部だとどうしてもメディカルとストリングスに部門が分かれてしまい、学生トレーナーがすることも限られてきますが、柔道部だと自分の提案をどんどん取り入れてくれるのでやりがいがあります。

大熊 柔道部はきょねんの4月からいろいろなことを取り入れ始めたばかりなので、自分たちの提案も受け入れてもらえて、学生トレーナーとして活動しやすい環境だと思います。

――部員との関係も魅力の一つですか

吉川 仲がよいのはそうですね。

大熊 素直にやってくれるのでかわいいやつら、という感じはします(笑)。

――ところで、お二人のイチオシの選手は

大熊 僕は1年生の中上駿(社1=大阪・清風)ですね。彼は今年の5月にあった東京学生柔道優勝大会でけがをしてしまったのですけど、以前から柔道に対する意識がとても高い選手で、リハビリも積極的に取り組んでくれていて。予定よりも1週間早い復帰を果たしました。これからも頑張ってくれると思います。

吉川 私は女子部の1年生の小林真美子(社1=埼玉・常磐)ですね。彼女はゴールデンウィーク中にけがをしたので一端アウトしていたのですが、とても意識が高くてリハビリやトレーニングなども人一倍真面目に取り組む子なので、今回彼女が試合に出ているときはちょっと泣きました。

受け継ぎたい思い

笑顔で取材に応じる大熊と吉川

――前季の男子の部の成績を受けての率直な感想をお願いします

大熊 男子部としては、1部は死守できて、よかったというのと、全日本ではベスト16という良い成績を残せたと思います。ただ、東京大会や全日本で最後に当たった日体大や日大には0―7で負けてしまっているので、そういった強豪校になんとか食らいつけるようなチームになれると思うし、なってほしいですね。

――男子は比較的小柄な選手が多いことが弱点ともいわれますが

大熊 そうですね。それはありますが、それも体幹を鍛えていくことで補える部分です。そういう大きい相手に勝つにはふつうの練習をしていてもだめだと思うので、僕らもトレーナーの視点からですが、サポートして工夫していきたいですね。

―一方、女子部の前季の成績を受けていかがですか

吉川 トータルで見ると、全日本ベスト8など、きょねんより成績は残せているのですが、あと一歩のところで勝ちきれないというのが、女子部の今回の課題でした。持久力、筋力が足りなかったというのが、2年生の女子の反省なので、そこをこれから克服していかなくてはいけないなと思っています。

――具体的にはどうやって改善できるのでしょうか

吉川 女子は食生活がどうしてもバランスをとれない選手が多いので、そこをもっと意識していけば前季もコンディションを整えられたかなと思います。

――後季の男女それぞれの目標を教えてください

大熊 男子部としては、個人戦でしっかりポイントを取ること、全日本にいくこと、そしてそこで勝つことと、早慶戦に勝つこと…全部ですね(笑)。早慶戦はびっくりするほど盛り上がるので、きょねん惜敗した分もことしは勝ちたいですね。

吉川 女子も個人戦で結果を残したいですね。個人戦から復帰する選手もいるので、全員に力を出し切ってほしいです。

――そういった目標に向けて、この夏の強化ポイントは

大熊 まずは7月に体力づくりに重点をおいて、柔道の練習よりもトレーニングに時間を割いたので、8月は、後季最初の大会に向けてコンディションをあげれるよう、僕たちがうまくコントロールしてあげられたらなと思っています。自分たちは、選手たちにどれだけトレーニングを集中してやらせてあげられるかなので。

吉川 女子も、前季は力負けして敗れる場面が多かったので、筋力トレーニングはもちろん、食生活の見直しに力をいれていきたいですね。女子は男子と違って、少人数で、ここに対応することが可能なので、ひとりひとりをサポートしていきたいなと思います。

――女子選手の食生活は、どういった点が問題なのですか

吉川 完全に、甘い物ですね(笑)。ほとんどの選手が一人暮らしということもあって、主食をとらないで甘い物を食べる選手がいるので、そこは指導してきます!

――いよいよ合宿が12日から始まります。合宿でもトレーナーのお二人は大活躍と伺ったのですが、具体的な役割はどういったものですか

大熊 合宿で選手たちが練習に専念できるように、道具の管理などマネージャーのような仕事もありますし、あとはもちろん普段の練習のようにテーピングなど、選手の体のケア、特に合宿では食事とかもしっかり管理するので、体重が落ちてないか、しっかり水分がとれているかなども見れる機会なので、そこにもポイントをおいてやっていきたいですね。

吉川 私も、テーマは最高の準備をすることなので、少ない人数だからこそ細かいところまで見れると思うので、食生活や睡眠時間なども把握してアドバイスしていきたいです。あとは、ハードな夏合宿では、精神的なストレスでダメージを受ける選手が毎年いるので、そこも気をつけてあげたいです。

――随分と役割が多いようですが、正直、人手不足ですか

吉川 はい!

大熊 とても人手不足です!

――新学生トレーナーを絶賛募集中ということですが、どんな人が学生トレーナーに向いていると思いますか

大熊 やる気さえあれば十分です!スポーツに関わって、選手と一緒に勝ちたいという気持ちさえあれば、初心者でも全く問題ないです!

吉川 私も同じ考えです。人と関わるのが好きな人なら、知識とかはなくても大丈夫です。私も柔道の知識はないまま学生トレーナーをはじめて、選手に教わりながらここまできたので。柔道の好き嫌いも関係ないですよ。

大熊 そうですね。だんだん自然と好きになるので(笑)。

――学生トレーナーの特権をアピールしてください

大熊 自分が選手だったら、他の選手の勝利に感動することはあまりないかなと思うのですが、学生トレーナーとして選手に関わっていたことで、その選手の喜びを自分のことのようにうれしく思えることです。選手が悩んだり、苦労していた時期を見ているからこそ、得られる感動があります。これは自分が(野球の)選手だったころには気づかなかった、サポートする側に回って初めて知れた思いですね。

吉川 私は、サポート側に回って初めて、OBからの支援などこれだけ多くの人に支えられて成り立っていることがわかりました。そういったことに選手以上に敏感に気づけて、感謝の気持ちを持てることも学生トレーナーならではだと思います。

――星野主将は、「(学生トレーナーは)なくてはならない存在」とおっしゃっていました

大熊 そういうことを言ってもらえるのは本当にありがたいですね。部員もすごく感謝してくれて、認めてくれているので、そういった言葉をもらうと学生トレーナーをやっていてよかったなと思えます。

吉川 そう言ってもらえるとやる気にもなりますね。でも星野主将がそんな風に思ってくれているなんて知らなかったです(笑)

大熊 星野主将はあまりそういうことを口に出さないですからね(笑)。でも本当にすごくうれしい言葉です。

――最後に、今後の意気込みをお願いします

大熊 自分は、あと3か月で引退なので、自分の課題は後輩を入れて、引き継ぐことだと思っています。この学生トレーナーの存在が、吉川で終わってしまったら、今まで自分がやってきたことも無意味になってしまうと思うので。早稲田大学の柔道部にずっと学生トレーナーがいて、選手と一緒に部を動かしていくというこの現状を、つないでいきたいです。

吉川 私はまだ大熊さんに頼り切ってしまっている部分があるので、独り立ちしなくてはいけないなというのと、選手自身に、トレーニングに対する自覚を持ってもらえるようにしたいです。私たちの言いなりでやっていては効果も出にくくなると思うので、それも目標にしたいです。

大熊 まずはこの夏、合宿も含めて、選手たちがより練習に集中できるように全力で、サポートしていきたいと思います!

――ありがとうございました!

(取材・編集 伊藤広真、平岡櫻子、山本葵、写真 三尾和寛)

取材後の大熊と吉川

◆大熊淳

1990年11月4日生まれ。24年度にスポーツ科学部を卒業した。高校までは野球部に所属していた。教職免許取得後、中学の体育の教員になって、授業や部活動に学生トレーナーの経験を生かしたいと語る。

◆吉川朋子

1992年7月5日生まれのスポーツ科学部3年。高校時代には、サッカー部のマネージャーとしてスポーツに携わっていた。取材前の練習では、部員一人一人に積極的にアドバイスを送る姿が印象的だった。